第23話 満足!


 お金の心配はないし、クレーンゲームなど所詮確率機だ。

 今大体2000円ほど突っ込んだのでもうそろそろ確率でアームが強くなって取れるはずだ。


「はぁ……………」


 と、俺はため息を吐くと100円玉を機械に入れ、レバーとボタンに手を置く。


「そーれ!作くんファイトぉ~!」


 相変わらず周りの視線も気にせず応援してくる椎名。


「チッ、マジ気が散るな」


 舌打ちをしながらも、目の前のクレーンゲームに集中する。

 椎名に言われた通り、重くなっているお尻の部分めがけてアームを降ろす。

 降りたアームは狙い通りの所を捉え、徐々にぬいぐるみを掴みながら上へと上がっていった。

 毎回、獲得口へ移動する際にぬいぐるみは落ちるが、


「お、お。そのままそのまま」


「いっけ~!私のぬいぐるみ~!」


 今回は確率がきたか、ガッチリとホールドされたまま獲得口の真下まで移動すると、アームを開きぬいぐるみを落とした。


 景品獲得のポップな音が流れると、椎名は勢いよく取り出し口からぬいぐるみを引っ張り出した。


「これで満足か?」


 ようやく取れた俺はほっとため息を吐く。

 だが、こいつがこれだけで満足するとは到底思えない。もっとえげつない事をこの後要求してくるだろう。


 そう思い身構える俺だが、


「うん!満足!作くんありがと!」


 ぬいぐるみを抱きかかえ、満面の笑みでお礼を言ってくるだけであった。


「そ、そうか………ならよかった」


 と、俺は椎名から少し視線を外した。

 クソ、不意打ちでめちゃくちゃ可愛い。


 なんだあの殺人級の笑みは。今までのこいつのヤバい行動が気にならなくなるくらい可愛い。


 まぁそんな事はないんだが、いきなりあんな顔されると困る。


「あぁ~、もしかして作くん照れてる~?」


 目を逸らす俺に、椎名は二マリと口角を上げながら顔を覗いてくる。


「照れてねーよ、逆になんでこの状況で照れるんだよ」


「え~?私の笑顔がカワイすぎて照れるとか?」


「……………んなわけあるか」


「今、分かりやすい間があったんだけど?」


「ちょっと呂律が回らなくてな…………ポップコーンが歯に挟まってて」


 口の中を動かして誤魔化す俺だったが、


「それだったら私がポップコーン取ってあげるよ!」


 いきなり椎名は俺の頬を両手で抑え、徐々に顔を近づけてくる。


「お前、何する気だ?」


 冷や汗を浮かべながら、顔を遠ざける俺。

 だが、俺を逃がさないように力を込める椎名。そして頬を赤らめながら、


「何って……………私がキスして取ってあげるんだよ」


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