第13話 チャンス到来

『間も無く電車が到着します。黄色い線の内側でお待ちください』


 椎名との攻防戦を繰り広げていると、列車がホームに到着するアナウンスが流れた。

 これはチャンスだ。電車が来ると同時に千葉をどこかに追っ払いその間に俺は電車に乗る。

 逃げるにはこれしかない。

 まずは椎名をどこかへ行かせなければ。


「俺、水飲みたくなってきたから買って来てくれない?」


 まだ俺の腕に抱きついている椎名に優しく言う。


「えぇ~、後ででいいじゃん~」


「今どうしても水が飲みたいな~俺」


「手にさっき私が渡した飲み物あるじゃない」


「あ、すっかり忘れていた」


 と、俺は手に持っていた小さな瓶を見る。


「栄養ドリンクって確か言ってた――――って!凄十じゃねーか!」


 ラベルを見ると、俺は絶叫する。


「こっちの栄養ドリンクの方が元気湧くかなって?」


 小首を傾げる椎名に、


「これは元気じゃなくて精力が湧くだけだわ!」


「そうなの?でもいいじゃない。その精力を私で発散すれば」


「するかバカ」


 そう言いながら、凄十を椎名に返す。


 誰が朝から凄十なんか飲むか。リポビタンⅮとかなら分かるけど。

 イラついてチッと舌打ちをする俺に、


「どうしてもお水が飲みたいの?」


 上目遣いで小首を傾げる椎名。


「そうだな。どうしても水が飲みたいな」


「ならさ………………」


 と、スカートの上から股を抑え内股になり、


「私のお水………飲む?」


 反対の手で唇を抑え、ハァハァと息を荒くする椎名。


「いや飲まねーよ?それ水じゃないしな?」


 即答した。


「私の聖水じゃだめ?」


「何が聖水だボケ」


「もしかして、キスしながら唾液交換の方が良かった?」


「よくねーよ」


 言いわけないだろ。それでよかったらこんな会話してねーよ。


「普通にペットボトルの水がいいんだけど」


「ペットボトル…………ね。ここの自販機に売ってたかな?」


 顎に手を置き、上を向く。

 これは買いに行ってくれる流れではないか?このまま誘導しよう。


「水はどこの自販機にも売ってるが?買いに行ってくれるのか?」


「買いに行ってあげてもいいけど~、すぐに電車来ちゃうから次の電車まで待っててね?」

 俺の腕を引っ張り、フリフリとお尻を振る。


「うん待ってるから行って来て」


「ホント?絶対行かない?」


「行かないから行って来ていいよ?俺、喉乾いて死にそうなの」


「分かった!じゃぁ、買ってくるから次の電車に乗ろうね?それまで待っててね?」


「うんうん分かった~待ってるよ~」


「なら良かった!行ってくるね~作くん」


 と、椎名は手を振りながら人ごみに消えていった。

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