第十一章『追究』
その翌日の事。
生徒会室に集まったのは
太陽光が雲によって遮られたのか、部屋が一気に暗くなる。
「もう大変だったよ。人間の存在を忘れさせるなんて記憶の改竄する為の精神エネルギーの量とか、どの本を探しても載ってないからさ」
「お疲れ様。結局全部任せっきりになっちゃった。今後の捜査は僕や桐也が中心になるよ」
「そんな事は気にしてないよ、でもありがとう。それでね……まずは、最低ヒト一人分の記憶を制御できる催眠能力者がどのくらいのオーラ値を持ってるか調べたの。そしたら、存在確率70%で公式に当てはめて計算すると大体100くらい。もしオーラ値100の人が関係者全員の記憶を制御しようとすると一ヶ月近くかかるみたいだから、多分100ちょっとの能力者は犯人ではないとは思うけど。念の為7月の検査の時点でオーラの総量が100を超えていた人間に絞って調査した。でも、検査をあえて受けてない人も多いからあくまで最低値だと考えてね」
候補が一気に半数ほど減った。外れた人間にはバツ印を付ける。
「それと、通常のオーラの値ではエラーが出てしまう生徒も一先ず考慮から外すしかない」
「それって、秘密基地のメンバーの人たちみたいな?」
「うん。先天的、後天的……両方有り得るけど、人間離れしたオーラを持つ人が稀にいる。そういう人が犯行に及んだのだとすれば手に負えない。考えるのは最後だ」
エラー判定の出ている十数名の生徒に三角の印を付ける。
「で、明らかに他の強力な能力を持っていそうな人も除外。例えば念力なんかは典型的に幻覚や催眠とは関係のない能力で、同時に操るのは難しい。その熟練度に合わせてオーラ量と釣り合うか推定して除外する。それと、オーラの量が1500を超えるような物凄い使い手は洗脳は受けないらしい。それらを考慮すると、残りは……」
僅か30名程になる。
「残りをどうやって選別するかだけど……少し考えた。大会のチャレンジャー部門に出ていた人は全員が候補には残っている。しかもある程度高いオーラ値を持ってね。その中で……本来のオーラ値と実際の能力の間でギャップがあった生徒を探すべきだと思う。逆にビギナー部門参加者でこの中に名前がある人も要注意だね。残りの人たちは、
「大会出場者で、オーラ量とギャップがあった生徒……」
「絆と桐也はそっちの方の精査を頼みたい。私は今から少し探りを入れに行く」
スタスタと部屋から出て行こうとする躑躅の腕を絆は掴んだ。
「え……なに?」
「大丈夫なの? 心配だよ」
「……無茶はしないさ。ロズとも約束したんだ」
「ロズと?」
「私たちは、こうしてロズに疑いを掛けてる。もちろん本人の意思じゃないとは信じてるけど。それでも、とても悲しい事。だけどね、仕方ない事だとも思ってる。だから私、ロズに法の支配を掛けてもらったの。命を賭けるような無茶をしたら分かるようにね」
「……そっか」
「絆も同じだから。絆にもそういう無茶を私がして欲しくない」
「うん。分かった。躑躅のこと、信じる」
「ありがとう」
躑躅はそのまま部屋を退室した。
「まずは、大会出場者を纏めるか」
桐也は携帯端末を取り出してビギナー部門とチャレンジャー部門の参加者をそれぞれ書き出していく。ビギナー部門の方は、候補に載っていない人物は除外する。
「絆や躑躅と俺の名前も一応この中に入れておく。オーラ量の参考値だ」
絆は早い段階で生徒会に入ったので成宮会長の庇護のもとにいて、洗脳されているならばすぐに判明する。その為容疑者からは早い段階で外れていた。そして桐也は能力の性質上、直接催眠を受ける事はない。
名前と、報告されている能力の属性、系統、大凡のオーラ値を列挙していく。
ロズ・シドウェル → 魔術・物質変換 500
☆
ソレイユ・ソシュール → 魔術・幻覚 500
☆
☆
カルミア・カルメ → 魔術・万能型 1200(4月)
ケイシー・メイズ → 魔術・障壁 1200
一覧を見て絆が発した第一声は驚きの声。
「あんなに強かった人たちも、1500超えてないんだ!」
「そりゃ、絆や俺が勝てた人たちだからな。強いけど、届かない程じゃなかったのは当然だ。それに絆に関しては血の盟約で強化されると倍くらいのオーラがあっただろうから、勝てて当然とも言えるかもな」
「へー。それで……この中で、強さとオーラの量にギャップがあった人、かぁ……」
「俺が戦った相手は、全員ちゃんと強かった。催眠系の能力を同時使用できるほどオーラが余っているとは思えない。コンプライアンスの使い手は特にそうだ」
「じゃあ……牧村さん、鈴城さん、春山さんは除外できるんだね?」
「ああ、それと……」
一瞬桐也の目が泳いだ後、観念したように呟く。
「紫陽先輩の記載されてる能力は嘘だ」
「えっ、どういう事!?」
「周囲100mに幻覚を見せる”虚の現”という能力。これを利用して圧倒的な強さを演出していたんだ。俺みたいに能力が無効化できる人や、成宮さんのような特別なオーラを持つ人には効かないみたいだけど。ビギナー部門の観戦に来てたり、PSI能力開発の講義に出るような人の中に見破れる人はいなかった」
「幻覚って……催眠系の能力だよ!」
「ああ……秘密にするって約束だったんだが。この状況だ。彼女の無実を晴らすためにも真実を話す必要がある」
相当の苦悩があるのだろう、いつになく険しい瞳をしている。
「それと、擬宝珠聖也とケイシー・メイズ。あの二人もフルにオーラを使ってるはずだ。水瀬さんも同様だな。それと、藍堂さんって人はオーラ値が低いが能力を使いこなしてた。効率的にエネルギーを変換出来ている証拠だ、候補から外して良い。そしてビギナー部門でロズと戦ってた七重鳳仙って人も重力を自在に操ってたな。彼女もだ」
そこで桐也の言葉が止まる。
「残りは……会長や躑躅の意見を聞かないと絞りづらいな」
除外したメンバーを候補の表から消していく。
ロズ・シドウェル → 魔術・物質変換 500
紫陽佐奈 → 超能力・幻覚 1200
☆葉団扇絆 → 魔術・身体強化 600
朝庭桃 → 超能力・転移 1300(4月)
西条フジナ → 超能力・精神加速 900
ソレイユ・ソシュール → 魔術・幻覚 500
春山桜 → 超能力・物質操作 1200(3月)
☆柊桐也 → 超能力・能力無効化 魔術・予知 1000
☆蘧麦躑躅 → 超能力・エナジートランス 700
カルミア・カルメ → 魔術・万能型 1200(4月)
深見芹 → 超能力・物質操作 700
瑠璃溝尽 → 超能力・エナジートランス 1400
残った面々を見て絆が疑問を口にする。
「ねえ、今は操られてるであろう実行犯の人を探してるけど……本当の犯人もこの中にいるのかな?」
「それはどうかな……大勢の記憶を改竄するには大きなエネルギーがいるが、一人を洗脳して操るだけであればそう難しくないからな。禁術を習得してたらオーラの値は1500なんて簡単に超えているだろうし」
「でも、4月や3月から受けてない人もいるよね?」
「確かに、犯行は去年からあっても……実際に対価として消費したのは最近という可能性は大きい。法の支配で縛られていた生徒は今年度になって初めて現れたわけだからな。いずれにせよ今話しても分かりっこない事だ」
モニターに表示されたロズ・シドウェルの名前を見て静かに呟く絆。
「僕たち、ただの友達なのに。どうして疑わなきゃいけないんだろ……」
「……全て解決したら謝ればいい。話したら彼女の身が危ないかも知れないんだ。きっとロズなら分かってくれるさ」
「そうだね……こんな状況を作った犯人を捕まえればそれで全部終わるんだから!」
決意の瞳。絆の中にはある二つの願望。
ベロニカへ借りを返す事、神隠しの犯人を捕まえる事。
それらを完遂して平和を取り戻す為なら、自らの命さえも厭わない。先刻の躑躅の言葉をまるですっかり忘れ去ってしまったかのような、そんな顔だった。
目の下に酷い隈を作った一咲は息を切らしながら生徒会室へ戻ってきた。
今の時刻は正午の前後だが、今起きてきたのだろうか。
「会長! 容疑者かなり絞り込んだんですけど、まだ会長の意見が欲しいんです!」
「ええ……ちょっと待ってね」
かなり体力を消耗しているのか、フラ付きながら部屋の奥の椅子へと向かっていた。
桐也が彼女の身を案じる。
「大丈夫ですか? 無理はされない方がいい」
「いえ……ここにいるのが一番落ち着くの。ありがとう。見せて、容疑者の候補」
納得はし切れなかったが本人の意思を尊重して表を映し出した端末を彼女の前に置いた。彼女はそのメンバーを見て深い溜息を吐きてから喋り出した。
「えっと……私が、改めて映像を見た限り……超能力者でエナジートランスあるいは幻覚使いでない者は除外して良い」
「そうなんですか?」
「はぁ……絆や桐也は器用だから忘れてるかも知れないけど……超能力を複数覚えるのは非常に難しいんだ。洗脳されていても脳の演算処理の部分は本人が行わなきゃならないから、新しく記憶改竄のような能力を得るのは、無理」
「なるほど……じゃあ、グッと減りますね」
該当する人物を表から除いて行く。
ロズ・シドウェル → 魔術・物質変換 500
紫陽佐奈 → 超能力・幻覚 1200
ソレイユ・ソシュール → 魔術・幻覚 500
カルミア・カルメ → 魔術・万能型 1200(4月)
瑠璃溝尽 → 超能力・エナジートランス 1400
参考値として入れていた絆たちのデータを削除すると、人数は五人までに絞られた。
「何か見落としがない限り……この中に実行犯はいる。もしかしたら、指示してる人間もしくは首謀者もね」
桐也は固唾を飲んだが、絆はそれよりも気になる事があった。
「会長、すごい疲れてません?」
「……まあね」
「休んだ方がいいですよ」
「大丈夫……これは体質だから」
「でも……」
絆の心配する様子を見て、一咲も観念したというような素振りで一つ口にした。
「少しだけ白状する。昔似たような事件があったの。その時の後遺症で、私はたまに眠れない夜がある」
「トラウマ……みたいな?」
「それもあるけど……その時に私が受け止めた現象が未だに影響を及ぼしている。頭の中に声が響くの。自分を責め立てる声がね」
「そんなことって……」
「だから貴方達には無茶はして欲しくない。ある程度まで証拠を集められたら、捕獲は秘密基地に任せて」
そこで躑躅が乱暴に扉を開いて戻って来た。
「どう?」
「容疑者、五人まで絞り込めた!」
「うわ、なんだよ。私の調査無駄だった?」
「そんな事ないよー! 本当に正しいか確かめる必要もあるもん!」
「ありがと。とりあえず見せて?」
机に置いてあったタブレットを持ち上げて躑躅の眼前に掲げる。
「……ドンピシャだ。間違いないよ。この中に犯人、いると思う」
「ホント!?」
「瑠璃溝尽の大会での言動や入鹿から聞いた話、そして彼女の周囲の人間に聞き込みをしたんだけど。そしたらやっぱり妙だって話だ」
「それじゃあその人が実行犯!?」
躑躅は静かに首を横に振る。
「ロズも最近、おかしいの。夏休み前までは毎日のように能力の修行に励んでたのに、最近はいつもどこか上の空で。でもその理由が洗脳されているからなんて信じたくなかった。だから私は”無茶はしない”ってロズと約束したんだ。私にとって……ロズの身に危険が及んだら、無茶するに決まってるから」
桐也は真っ直ぐに躑躅を見つめて続ける。
「紫陽先輩も普通の状態じゃない。彼女は俺に対してオーラが不安定な事を相談して来た。幻覚を見せる能力者が幻覚を見ていたわけで、これは典型的に他者のオーラの影響を受けている症状なんだ。もちろん、そうでない場合も考えられるが……」
話を聞きながら俯いていた絆が、やがて躑躅に尋ねる。
「残り二人は?」
「……残りの二人は実行犯じゃないと思う。ソレイユはアリバイ証言がかなり取れたんだよね。どの時間もほとんど、必ず誰かと一緒にいる。特に夜中の外出はなさそうだから、犯行は難しいんじゃないかな。カルミアは……あの技量で洗脳されるとはとても思えないってのが、戦った私の感想」
「そっか。じゃあ、残りは三人だね……」
ロズ・シドウェル、紫陽佐奈、瑠璃溝尽。
少なくとも全員顔見知りであり、佐奈とは交流がある上にロズとは三人とも親友と呼べる間柄だ。
一咲は頭痛でしばらく押し黙っていたが、三人の容疑者を見て助言を与える。
「あなた達はロズと話さない方がいい。彼女への探りは学園の裏方連中で行う」
「そんな……」
「思い入れが強いほど危険だよ。とにかく任せて」
彼女は立ち上がる。晴れ間が見えて差していた太陽光を一咲の体が遮っていた。
ベロニカが地下の独房からリビングへ戻ってくると、椿が嬉しそうな顔をして座って待っていた。
ここはベロニカの仮の自宅。今は潜伏する為に茅ヶ崎市の住宅地の家を奪っている。
「ねえ、いつも言ってるでしょ。不法侵入してくるとビックリするんだって」
「別にイイじゃん。こんな堅牢な”法の下の平等”を破れる人なんて私以外にほとんどいないよ?」
「だから驚くんだ。そんな奴がもし入って来たら一貫の終わりでしょうが」
「アハハ、そうだね、ところでベロニカ、ここの元の家主はどうしたの?」
「ゼラニウムの思想に反発したからね、仮死状態で冷凍庫に保管してある。イデア解放したいかなと思ってさ」
「分かった。確認してダメだったら処分するね」
「お願い。そうだ、その冷凍庫の中にメッチャ美味しそうなショコラアイスが入ってたんだけど、食べる?」
「頂くよー」
ベロニカは我が物顔で占有したこの家を悠然と歩いて冷蔵庫へと向かう。
「えっと……邪魔だな……」
冷凍庫内に入っている氷漬けにされた人間を隅に押し込みながら、ようやくアイスを見つける。
「はい」
「血が付いてない? 嫌なんだけど」
「よく見て、デザインだよ。住人に怪我はさせてません」
「ははは、冗談冗談」
アイスを受け取って、ソファに飛び込んで慌てるように食べ始める椿。その姿だけを見ると無邪気な子供のようでもある。
「そういえば……リナリアはなんでエルミタージュの内情なんて知ってたわけ?ほら、桐也くんにアドバイスしたんでしょ?」
「ああそれは、チェスナットがエルミタージュの情勢に関する棋譜を作ってたんだよ。その布陣がまるでマトリョーシカのようにキングを何重にも取り囲んでいたから、その情報を元にした助言らしい。ていうかこのアイス最高に美味しい!」
アイスの甘味を感じ至福のひと時を過ごしている椿は当たり前のように放った言葉だったが、ベロニカは心底意外そうな顔をした。
「リナリアがチェスナットの情報を? そりゃ笑えるよ、アタシも大概信用されてないけど、アイツら2人は本当に仲悪い……というかリナリアが一方的に嫌ってるじゃない」
「何か思うところがあったんだよ。エルミタージュは彼女の母校だから」
「ま、私もそうだし。分かるけどさ」
最後の一口を悲しみ噛み締めながら味わっている椿に対し、ベロニカは一つ尋ねたいことを思い出した。
「そうそう、結局どれくらいのオーラが溜まったの?」
「能力の数は10種類程度。だけど、オーラ値で言えば10万くらいにはなったよ」
「すごい! エルミタージュの大会本戦で優勝できるレベルじゃない?」
「いやいや、秘密基地の連中の事忘れてない? 奴ら、オーラ値で言えば私やベロニカやリナリアより高いよ。30万とかだから」
「椿はエルミタージュの事よく知らないからでしょ。秘密基地メンバーはほとんど大会に参加しないし、あそこで育った能力者は意外な能力を発揮する事がある。柊桐也くんみたいにね」
「それは一理あるね。ま、いくら奴らでもこのオーラを取り込んだベロニカには勝てないよ。不安要素の桐也くんも、ベロニカの前じゃ無力だし」
「ああ。存分に暴れ回るよ。人々に真実のその先を見せつけて、世界を進化させるんだ」
「じゃあ、このイデア球体。食後のデザートとして飲み込んで?」
「アイスが既にデザートだし……まあいいけど」
完全なる真球を掴み取る。
「じゃ、私は出てるよ。オーラが干渉しかねないからね」
幾人ものオーラが凝縮されて禍々しい熱気と光を放っている美しき球体。それを彼女は自らの口元へ運んでいく。
その球体は飴玉程度の大きさなので、口に放り込む分には苦しくはない。それを奥歯で一砕きした瞬間、エネルギーが口内で激しく暴発する。
「ンッ……!?」
焼け付くような痛みと共に球体から溢れ出たオーラの原液を飲み込む。凝縮され過ぎた精神エネルギーは空気のような可能性の波ではなくドロドロとした舌触りの炭酸系の液体に近い。もちろんこれは、オーラが感知できる者独特の感覚ではあるが。
苦痛だった感覚が徐々に薄れ、心地良く身体に馴染んで来る。溢れ出るオーラの勢いはドライアイスのように止まらない。
「はぁ……最高の気分」
恍惚の表情を一人浮かべ、ただ静かに佇んでいた。
法の下の平等で守られているはずのその家からまるで蒸気が漏れ出るようにオーラが噴き出しているのを視認した椿は小さく笑う。
「あれじゃ、居場所がバレバレだね。もう関係ないけど」
満足げな顔をして彼女はその場を去る。いよいよ計画が始動する時だ。
瑠璃溝尽の調査へ向かっていたのは絆と躑躅だった。彼女から入鹿が妙な勧誘を受けた事は本人からも報せがあった。
「あれ? でもさ、どうやって洗脳されてるか確かめるの?」
「声が大きい……ていうか、絆は教えてもらってなかったの?」
「うん。本人から能力の影響を受けなきゃいけないとは言われたけど、それでどうして洗脳されてるか分かるの?」
「プリムラさん、いるでしょ。あの人には真実を知る能力ってのがある。今回のように能力が絡んでいたりすると上手く作用しない場合があるんだけど、それは様々な確率や定義が変化してしまうからだ。だったら容疑者のオーラを手に入れて、それについて定義すれば良い。そしたら洗脳を受けているか否か判断できる」
「えっと、オーラを見て洗脳されてるか分かるって事だね?」
「……まあ、そういうこと」
絆があまりに話を単純化し過ぎるので自分の説明が少々馬鹿らしく感じてしまったが、とにかく今は瑠璃溝尽との駆け引きに専念することだ。
「それじゃ、本人との交渉は私がやるから。絆は夕闇さんの方宜しくね」
「はーい」
尽の部屋の前で二人は別れる。既に本人は屋上に呼び出してあるからだ。
絆は部屋を三回ノックして名前を言う。しかし返事がない。今日の昼の時間に訪ねることは既に連絡しておいたはずなのに。
「葉団扇くん、こんにちは」
「わぁっ!?」
目的の人物、
「ど、どうして後ろから……」
「多分この時間かなって思ったから。驚かそうと思って」
「どうして、分かったんですか?」
「簡単だよ。私に生徒会委員から連絡があった事、そして例の事件や尽の様子が最近おかしい事。それらを組み合わせれば、私と尽がそれぞれ事情聴取のようなものを受けるのだと推察できる。タイミングに関しては、さっき何も言わずに尽が部屋を出て言った事が決定的。二人別々に話を聞かないと危険だと判断して、彼女を別の場所に呼んでるんでしょ?」
全て正解だ。絆は彼女の能力に感心する。
「凄い!夕闇さんなら事件を解決できちゃうかも知れませんね、探偵みたいに!」
その言葉を聞いて喜ぶかと思いきや、彼女は少々不服そうな表情で反論した。
「私は別に、探偵じゃない。推理するのは好きだし事件の解決には協力するけど……私の役割は、自分で決める」
「え……あの。ごめんなさい……」
「ううん、いいの。私の中の矛盾が引き起こした勝手な願望だよ。君は君のやりたい事をして」
「はい。それで……もう分かってるなら話は早いんですけど、瑠璃溝さんが洗脳されている可能性があるので、最近妙な点があるかどうを聞きたいんです!」
「妙な点だらけだけど……その前に、生徒会としては容疑者を何人まで絞り込んでるの? 五人くらい?」
「三人です。瑠璃溝さんと――」
「シドウェルさんと紫陽さんでしょ?」
「えっ」
「分かるよ。大会を見てれば一番怪しいのはその三人だもん」
ここまで言い当てられるとは。絆は拍子抜けしてしまう。
「何だか、全て夕闇さんに任せたら事件が解決しちゃいそうな気がします」
「とんでもない!私はね、状況証拠だけで推理してるの。”トリニティスティグマ~Seven Sensitive Skill~”っていう能力を使ってね。まあ、研ぎ澄まされた五感と第六感、そしてオーラだと思ってくれれば良い」
「はあ」
「その推理はね、非常に正直なんだ。与えられた手掛かりから正確な答えを導き出すの。まるで関数のように。でもね、だからこそ大切な情報が隠されていたら何の意味もない。この能力は推理に向けた能力じゃなく……瞬発的な状況判断や精細な構造の解析等に用いるの」
「でも、実際に夕闇さんは容疑者を当てて見せましたよね?」
「そうだね。でも、例えば容疑者は実はトラップだとしたらどう?本当は洗脳はされていないけれど、何らかの術を施して目眩しに使っている。本当に洗脳されているのは別の人物……みたいにね」
「で、でも……それはないですよ!友達がちゃんと調査してくれたんです」
「ええ。だから、君が来たことを根拠に私は推理が正しいと確信して話せたの。さっきも言ったように状況証拠だけを見て判断している以上、真実を見抜く能力としての精度は低い……寧ろ間違える確率の方が高いってわけ」
その説明でようやく腑に落ちた。
絆たちは生徒会員が調べた容疑者たちのプロフィールを持っているから、三人まで容疑者を絞り込むのが容易だった。彼女はそれがない状態だったから、その段階で導き出した推理は的外れの可能性があった、という事。
「とにかくそういう事。真実を見抜く事に関してはプリムラさんが最も長けているのは知っているでしょ?そちらに任せるよ」
「はい……」
「で、尽の妙な点の話ね。今の話を聞いた今なら分かると思うけど……私の推理が当たらない事だ」
彼女の推理が当たらない。状況証拠にミスリードが隠されているからだ。
「手掛かりは言動や所作から滲み出てくる。オーラに異常がない限りは、十分な観察の時間を与えられれば他人の行動をほぼ正確に言い当てられる。でも同日の尽の行動が読めなくなった。これは異常な事だ」
「なるほど……」
「ただ、シドウェルさんや紫陽さんもやっぱり読めない。知り合いじゃないから遠目に見た感じでこれからどこに行くのか程度しか分からないとは言え、これまでその予測が全て外れた。残念ながら私の情報じゃ三人の中から絞り込むのは難しそうだ。二人以上操られている可能性も十分にあるし」
「ですね……ありがとうございます」
「操っている犯人が分かれば私も協力出来るかも知れない。本人を見ればある程度は意思が分かるから」
「分かりました」
絆が部屋から出て行こうとしたところで、瑠璃花が彼を引き止めた。
携帯端末でSNSサービスの動向を探りながら彼女は告げる。
「ヤバイよ……ゼラニウムが、動き出した」
「へ?」
絆の脳裏で様々な思考が衝突し合った。
――あろうことかこんなタイミングで
――このままでは桐也が無茶をしかねない
――いや、自分自身ベロニカに借りを返すチャンスだ
――しかし事件の犯人特定が先だ
――でも、今を逃したら……
「落ち着きなさい」
「はっ……夕闇さん」
「色んな気持ちがあるんだろうけど、まずは秘密基地のメンバーに相談して。話はそれからになる」
「分かりました!」
絆はその部屋を慌ただしく退室した。
紫陽佐奈の部屋へ赴いていた桐也は静かに提案する。
「試しに“虚の現”を使用して頂けませんか。能力を打ち消す俺の能力の性質上、何か分かるかも知れない」
これはハッタリではない。桐也の“先見の煌”は相手の精神エネルギー量を正確に分析する事によりオーラとしての形の崩壊を促す。その過程に妙なノイズが混じっていれば桐也には伝わる。
スーッと息を吐いた桐也の瞳に「0」の数字が浮かび上がり、彼の体の周囲に螺旋状の数字が飛び交い始める。
「準備できました」
「分かった。今から、私が貴方に向かって素手で攻撃をする姿を幻覚として見せる」
佐奈もオーラを発散する事に集中する。
「“虚の現”……!」
パッと広がる彼女のオーラの範囲内に桐也の体が入る。すると薄く幻覚の世界が見える。
踏み込んだ佐奈が桐也に一直線に向かって来る。今にも自分の事を殴り倒しそうなビジョンが見えるが、そこで彼女の動きが停止した。切れかけの電灯のように幻影が点滅し始めている。そしてその奥に、佐奈でも桐也でもない何者かの姿を見た。
「あれは……」
靄が掛かっていて正確な姿は分からないが、あれは彼女が自身が見る幻覚であり、能力を発動すると現れてしまう何者かのシルエットなのだろう。それは彼女の脳裏に何者かが潜んでいる証拠。だが、それだけでは原因は掴み切れない。廃校舎の前で見たという幽霊がトラウマになってしまい、それが反映された結果だとも捉えられる。
「はぁ……」
佐奈が能力を解くと、疲れ切った様子だった。普段彼女はこんな風にはならないはずだ。
「幻影を解析していた中で人影が見えました。この症状は……もしかしたら、不安感によるものかも知れない」
「不安? 私が?」
「ええ。ストレスが溜まって神経症になっている可能性もありますし……以前先輩が見たという幽霊が関係しているのかも」
「ああ……確かにあの姿は、今でも時々思い出して不気味に思う」
「でしたら、その可能性が高いと思います。それを心当たりとしてカウンセラーの先生に話せば少しは症状が軽減するかも知れません」
疲れ切ったようにベッドに倒れ伏せた佐奈は、小さい声で礼を言う。
「……ありがとう、私の問題に付き合ってくれて」
「いえ。こちらこそ先輩にはお世話になってますから」
そのまま眠ってしまいそうな様子だったので、桐也は静かに部屋を退室した。
これで彼女のオーラが僅かに体に付着したはず。プリムラの元へ急ごう。
暴風が吹き荒れ始めた屋上では、尽と躑躅が相対していた。
「良いよ。貴方が私に勝てたら、水瀬さんからは手を引く」
「言いましたね。約束ですよ」
エナジートランス同士の対決。しかし一年生と四年生では経験に圧倒的な差があるはずなのだ。もしもこれで躑躅が善戦出来るようであれば、彼女は益々疑わしくなる。
「さっさと始めよう。そっちから来ていいよ」
「クッ……!」
明からさまに舐められていると悟った躑躅は力強いバネで尽から1メートルほどの
位置まで飛んだ。
「遅いよ」
尽が右腕を振るうと薙ぎ払われたように体が左に吹き飛んだ。念力だ。
ならばと躑躅も強化した左腕で床を弾き、自分の体に少しだけ衝撃を与えて一旦離れる。
だがどうすべきか。オーラ値が自分の二倍あり、超能力のバリエーションも躑躅より数種類以上多いはずだ。圧倒的に力の差があるはずの相手。どう対処すべきか。
瞬きの後、目の前から尽の姿が消えている事に気づく。何が起こったか理解する前に背中に激しい痛みが走って地面に転がされた。
「カハッ……!」
血反吐が出そうなほど胸に鋭い痛みが走る。
今のはテレポートだ。躑躅もテレポートの能力を育んでいる途中だが、まだ小さな紙くずをゴミ箱まで転移させる程度でしかない。
考えている間に尽が背後に立っていて、躑躅の髪の毛を掴み取る。
「そのザマでよく私に闘いを挑んだね」
尽は無慈悲な鳩尾へのブローを食らわす。
「うぐっ……!」
既に内臓にまで響く大きなダメージを受けてしまっている。これ以上やられると後遺症が残るかも知れない。
「諦めたら?君は十分強いし、これからの成長次第じゃ私に匹敵するようになるかも知れない。そしたらまた戦ってあげるよ」
「入鹿のことは……どうするんだ」
「彼女は私が貰うよ。アンタが決勝まで残ったのはあの娘が不戦敗になったからだ。私を超えるポテンシャルを持つ無垢な少女。ぜひ私の手元に置いておきたい」
「ふふ……そうだね。確かに入鹿は強い。でも貴方が負けたのは、強かったからじゃない。貴方が単に弱かったからだ……グブッ!?」
「自分の立場が分かってないようね」
ポツリ、ポツリと。水滴が落ちて来るのを感じた。
「私は催眠系の能力も持ってる。今話題の例の事件に便乗してアンタを殺し、証拠を上手く隠せばもしかしたら完全犯罪に出来るかもね」
事件に便乗して、という言葉。そして催眠系の能力。証拠にはならないが、彼女が実行犯である確率は高くなった。
ただ、彼女自身が洗脳されているかも知れないとは口が裂けても言ってはならない。
「ふふ……冗談よ。でもさ、アンタが今絶望的な状況にいる事には変わりない。死ぬよりも苦しい拷問に掛ける事は十分に可能なんだからね」
想定される彼女の持つ能力の種類は六つか七つ。
念力、転移、催眠、発火、千里眼、精神感応。調査で確認された彼女の能力だ。あと一つか二つ未確認の物があるかも知れないが、これならきっと対処できる。
躑躅の方は身体強化、記憶分析、念力の三つの能力を持っている。しかしエナジートランスは複数の能力を併せ持つからこそ、特殊な現象を引き起こすポテンシャルを持つ。
然程多くの能力を完璧に使いこなせる必要などない。弱い能力同士を組み合わせて強く不可思議な現象を作り出せばいい。
「覚悟するのはアンタの方さ」
「あぁ?」
容赦のない拳が躑躅の腹に減り込もうとしていた。しかし彼女の表情はまるで堪えた様子がない。それどころか尽は次の瞬間、背中に痛みを感じた。
「ぐっ……なに!?」
慌てて躑躅を手放し後ろを振り返ると、そこには何もない。
「アンタ……転移が使えたの? でも今の攻撃……え?」
混乱している。想像通りだ。
「ねえ瑠璃溝先輩……貴方は私より数段格上だし、一つ一つの能力の精度も高い。でも貴方は相性という物をまるで考えていない」
「舐めた口利いてんじゃねぇぞッ!」
彼女は怒りに任せて正面から近寄って来た。直線的な攻撃であれば躑躅の能力で反撃を行える。
尽が振り被った腕。それを何者かに掴まれた感覚があった。
「また……!?」
後ろを振り向いても何もない。隙が生まれるのを恐れてすぐに前を向いた。
「目の前にッ!?」
躑躅は数メートル離れていたはずだ。なのに今僅か一歩進んだ程度の距離にいるという事は、彼女は転移が使えたのだと尽は解釈せざるを得なかった。
「でも、テレポートなら私の方が格上に決まってる!」
尽は躑躅が強化した拳で攻撃してくるのを彼女の裏に転移して避ける。そして彼女にカウンターの肘鉄を食らわせた。
間違いなく首筋にクリーンヒットした。躑躅は右の方へ弾き飛ばされている。しかしそんな彼女が空中でこちらを振り向いて涼しい顔を見せた。
「そうじゃない」
「……!?」
肘鉄で左側の視界が奪われていたが、その景色が見えて来て尽は知る。
「分身!?」
死角から現れた彼女の攻撃に対処する術が思いつかない。その間僅か一秒程度の事。転移を使ったのも二秒ほど前であり、集中が削がれたこの状況では連続で使用できない。
そしてそんな思考をしている間に、躑躅の拳が思い切り尽の顔面に減り込んだ。
「うがぁッ!」
捨てられたゴミのように吹き飛ばされる尽。躑躅は分身を消して息を吸う。
「――ッシャア!」
躑躅の覚悟が、尽の三年分の努力に勝った。その事実が彼女にとっては大きな意味を持った。
既に本降りになりかけている雨の中、ゆっくりと尽に近寄る躑躅。
「約束の通り。これで入鹿から手を引いてもらいます」
「……分かってるよ。私だってクズじゃない。しかしまさか分身とはね。エナジートランスでそんな能力作るなんて……オーラの無駄遣いでしょ?」
「逆ですよ。有効利用です」
躑躅が掌を尽に向けると、その傍らから躑躅の分身が現れた。
「影です」
「は? 影?」
「私の分身は一度触れた対称者の影から生成します。そして視覚、痛覚、触覚等の幻覚を見せるんです」
「幻覚? そうかやられた。最後の一発以外は全てフェイクだったって事ね」
「はい。触れた相手の影からしか生成できないという条件付きで幻覚を見せる能力――これが私の分身の正体です。これなら催眠の能力が8割と転移の能力2割程度で作れる。開発の段階でその割合で修行して融合させたんです」
「はは……やられたよ」
尽は初めて爽やかな笑みで笑いながら立ち上がった。
オーラ値が1400の尽は一つの能力におよそ200オーラを割いて六つか七つの能力を会得していたのだろう。
対して総量で700の躑躅は身体強化、精神分析、念力の三つに約100ずつを割り振った。残りの400を催眠と転移を組み合わせた一つの能力に絞る事で尽の最大出力を上回る強さを得たのだ。
「私はエナジートランスのパラ振りをミスってたってわけね」
「あ、いえ……そんな事は。後……思い切り殴ってごめんなさい」
「良いよ。私も悪かった。戦って仲直りってやつよ。さあこれじゃ濡れネズミだ。さっさと中に入ろう」
戦う前と後では印象が大きく異なる。
それに彼女は、躑躅が勝利を収めたとは言え十分に強い。本当に洗脳されているのだろうか。早めに生徒会室へ戻って突き止めなければ。
ロズの部屋に現れたのは
「最近元気がなさそうなんだ。何か心当たりってある?本人に聞いても大丈夫って言うだけだし、入鹿に聞いても分からないって言うから……」
真緒の言葉は生徒会側からの調査の為の建前ではあるのだが、ロズにはその質問に心当たりがある。
「……私に対してすごく気を使っているんだと思います」
「シドウェルさんに?」
「はい。彼女は……いえ、躑躅だけじゃなくて絆くんも桐也くんも。仲のいい人達は全員無茶なことばっかりしようとするんです。私はそれが怖くて仕方がなくて、一度躑躅と喧嘩になりました」
目的は目的。しかし今、真緒の耳の奥へと届くロズの心の内も本物だと悟り、真剣に聞くことにした。
「それ以来気にしてて。私も、心配ではあるから……躑躅はわざわざ、私に法の支配まで掛けさせたんです。”無茶はしない事”、たったそれだけのルールで、破っても特に何もありませんけどね」
「そっか……」
そこで真緒は立ち上がって手帳を取り出した。
「私の能力、教えるね」
「え? はい……」
どうしてこのタイミングで、と思ったがロズは静観する。
真緒は何らかの文字を手帳へ記しているようだった。書き記したその文字は『サイコロを投げたら6が出る』だった。とても繊細で綺麗な文字で綴られている。ページを破り捨てると黄色の炎が一瞬上がって出て跡形もなく消え去った。
「いくよ」
取り出したサイコロを投げた。転がっていったサイコロは6の目が上を向いていた。
「これって……!」
「これが私の魔術“神の筆”。書き記した内容の実現する可能性を、文字の正確さに応じて上昇させる能力」
「そんな能力って……どんなことまで叶えられるんですか?」
「結局それは、可能性による。人を蘇らせたいとして、それは異能の力でもまず不可能な芸当でしょ。極端に確率が低い事象は、いくら正確なフォントで字を書いた所で実現は困難って事。でもこの能力で、躑躅を元気づける事くらいは出来ると思ったの」
手帳にもう一度何かを書き綴る真緒。
「これ見て。上手く書けないの」
綴られた文章は『躑躅が元気になりますように』。躑躅の文字が複雑である為、少々煩雑な文字になってしまっている。
「私の魔術の対価は、“不安定な状態で文字を書き入れる”事。そして必ず“文章を書いている間は見本を見ない事”と“人の手で文字を書く事”。綺麗に文字を綴るのが難しい状態で如何に楷書体に忠実に文字を書けるかで実現度が決まるって事。でも……この手帳は私以外の人の記入も許されるの」
ロズに手渡し、真緒はこう言った。
「シドウェルさんの魔術なら、なるべく正確な文字を判子のように押し付ける事が出来るんじゃないかな」
「私が……え、でも。だったら判子を作って押し付ければ良いんじゃ……」
「それは当然禁止。楷書体の見本を元として作った判子で手帳に記入しても、実現度は全く変動しないの。ただ、ここに能力を利用して記入するのは可能。でも楷書体を貴方の能力で吸い取って貼り付けてもそれは判子と同じこと。唯一ある抜け道は、平行な机の上で丁寧に綴った文章をシドウェルさんのローズ・スペクトルで吸い取って、手帳に張り付ける事。そしたら対価は三つ全てクリアできる」
「そっか……そういう事、ですね」
魔術は改めて奥深い。二人の能力を組み合わせる事で、不可能だった事が実現することがある。
「出来れば、シドウェルさん本人が書いた字を手帳に張り付けて欲しいんだ。文字に自信があればだけど」
「……やってみます。練習が必要かも知れないけれど」
少なくとも宙に浮かせた不安定な状況で真緒が書いた文字よりは、数段綺麗に書くことが出来るだろう。
「躑躅が……元気になりますように」
言霊という単語がある。これは、言葉に意思が籠る事で精神エネルギーが宿る事を意味する。その言葉を口から発する毎にオーラ量が瞬発的に増える、というような現象も存在する。偉人やアーティストが残した格言や名言というのは、その典型例だ。
ロズが繰り返し繰り返し、心の底から呟き書き綴り続けた言葉はやがて力となる。
『躑躅が元気になりますように』
数十分が経った頃。これ以上ない程に美しい文字で文章が仕上がった。
「じゃあシドウェルさん。それをこの手帳へ」
「はい」
ロズは透明な薔薇を出現させ、文字の形のインクを吸い取っていく。透明だった薔薇が徐々に青々と変化していく。
掌に乗せた薔薇を手帳に押し付けてスタンプのように貼り付ける。青い薔薇の形だった物が、徐々に彼女の書いた文字に変化していった。
「これでいいですか?」
「うん、十分だよ」
真緒はそのページを破ったが、まだ燃やして能力発動はしなかった。
「これは然るべきタイミングで使う。実現度が高ければ高いほど、より叶いやすいって言ったよね?私や入鹿、そしてシドウェルさんが躑躅を元気づけるタイミングがあったら、同時にこれを使用する。だから、そういう事があったら連絡ちょうだい」
真緒は手を振って扉へ向かう。
「それじゃ、手間掛けさせたね。ありがとう」
「いえいえ、また!」
部屋から出て行き、ロズが扉が閉めた。
これでロズのオーラが手に入った。真偽を確かめる時だ。
躑躅、桐也、真緒の三人がそれぞれ容疑者のオーラを持ち帰った。
絆は瑠璃花と話した件について報告する。
「夕闇さんも同じ推理をしていました。僕たちの調査した証拠も合わせると、三人の中の誰かなのは間違いないと思います。今後も協力してくれるそうですよ!」
プリムラがそれを聞いて胸を撫で下ろす。
「……そもそもこちらの推理が的外れだったらどうしようかなと思ってたから一先ず安心。それに気まぐれなあの子が協力を約束してくれたなら心強い。そうと分かれば、早速実行犯を割り出すよ。時間をかけるとその分代償を食うから、パパッと終わらせる」
プリムラは途端に沈黙した。まるでそこに存在しないかのように気配が希薄になったかと思えば、次の瞬間には暴風のように吹き荒れるオーラが部屋中を覆っていた。
「”プリムラ・マラコイデス”」
神。その場にいた一誰もがそんな印象を抱くほどに美しい黄金の姿。桐也が見るのは二度目だが、それでも泣き出しそうになってしまう程に心を揺さぶられる光景だ。
躑躅と桐也は掌を、真緒は手帳の紙切れを差し出し、それをプリムラが触れながら目を瞑る。
「問う。”ここに混ざったオーラの持ち主……それぞれ瑠璃溝尽、紫陽佐奈、ロズ・シドウェルの三人。彼女らが洗脳されているか否か”、答えよ」
実際に空気が震え始め、それと同時に彼女の目が見開かれた。
「”瑠璃溝尽……彼女だけが洗脳されている”」
それを聞いて全員がホッと息を吐いた。
「瑠璃溝先輩が……」
しかし躑躅は安堵と同時に少なからずショックを受けていた。あんなに強く、しかも強いエゴと信念を持つ彼女が洗脳されていたとは信じ難いことだ。
プリムラは元の姿に戻り、少々息切れしていた。一咲が代わりに指示を出す。
「実行犯が瑠璃溝尽だったのはラッキーだ。躑躅、オーラの中に混じる不純物が誰のものか特定する作業は貴方にしか出来ない。桐也と絆は……別件に関しての対処を手伝ってもらう事になる」
桐也は首を傾げた。まだ彼にだけは伝えていない。この場で平静を保てなくなるかも知れないと感じたからだ。他の全員は固く頷いたが、躑躅だけが心細そうに何かを尋ねようとしていたのを一咲は勘付いた。
「何か聞きたいことでもある?」
「あの……疑いが晴れたなら、ロズや紫陽先輩にも協力してもらいましょうよ!」
「そうだね。ちゃんと謝らなきゃいけないし」
そこで真緒が一つの可能性に突き当たる。
「あのさ……気分を悪くしたら申し訳ないけど。もしかするとその二人のどちらかが、真犯人だって事も有り得るんじゃないの?」
「先輩、そんな事……!」
躑躅は憤るが、尤もな話だ。私情を抜きにすれば否定する根拠などないはずなのだ。
「それは大丈夫」
プリムラは安心させるように爽やかな笑みを浮かべていた。
「あのね。洗脳の主か、さらにそいつを操ってる人間……迂闊にも禁術によって洗脳を施してる。凄く禍々しいオーラの一端が瑠璃溝さんのオーラに隠れてた。だから、今の時点で全くそういう雰囲気を感じない紫陽さんやシドウェルさんは完全なシロって言える。隠そうとしても、少しは漏れ出るものだから」
「それじゃ……!」
一咲は静かに頷いた。
「わ、私すぐにロズに報告してくる!」
「でもちょっと待って」
「はい……?」
「あんまり急に動くと、こちらの調査状況が相手にバレるかも知れない。伝えるにしても後で部屋に帰った後か、メッセージにして」
「あ、分かりました」
すっかり慌てふためいてしまった事を少しだけ恥じる躑躅。
「さっき言った通り。躑躅は真緒の力も適宜借りながらオーラ解析に専念してね。絆と桐也、あとプリムラは隣の第二会議室に来て。学園の裏方全員が待ってる」
ただならぬ事態だと察した桐也。そしてその内容も薄々察しがついたのだろう、表情が険しくなった。
一咲に続いて隣の部屋に入ると、そこは別世界のように淀んだ空気に包まれていた。学園の裏方を担当する者たちの圧倒的な力というだけではない。恐らく事態があまり良くない事が起因しているのだ。
ここにいるのは秘密基地メンバー全員と、
「遅れた。彼が柊桐也くん。リナリアと互角の勝負をしたらしい」
「……宜しくお願いします」
「桐也、分かってるかも知れないけど。これはゼラニウムに対抗する為の会議だ」
「ええ……」
案外冷静さを保ちつつ受け答えをしている。そのまま空いている席に絆と桐也、そしてプリムラは座った。一咲は部屋の壁際にあるディスプレイの前に立って喋り始めた。
「今、新宿でベロニカがパフォーマンスを始めた」
SNSを中心として拡散された動画が映し出される。彼女は炎や氷を自在に操り人々を魅了していた。犯罪者として全国的に報道されているはずなのに、彼女の信者のような人間は街に溢れている。テロを引き起こす前からのファンも多く存在しているからだ。
「まだ犠牲者等は出ていない。でも、多分このパフォーマンスはヒートアップして、もうじき虐殺に変わる。力を持たない者は死に行くだけ……そんな現実を突き付ける為のね」
そこで
「結論から先に話そうよー。誰がどうアイツを止めるんですかー?」
「……ここにいる中の、なるべく多くだよ」
「猫の手も借りたいほどヤバイ状況ってことね。理解〜」
軽いノリではあるものの、事態を甘く見ているわけではなさそうだ。
「しかしリナリアとはなぁー懐かしい名前が出てきたもんだ」
「……アイツが学園を辞めたのは二年前だったか」
「そう。プリムラも嫌な予感がするとは言ってたけど、現実になっちゃうとはねー」
当のプリムラは腹を括ったような真顔の表情でただ黙っているだけだった。
中之条百合が挙手し、懸念を口にする。
「元よりゼラニウムに対処する際には、秘密基地は最大でも二人で作戦遂行に臨んでいたはずです。それは能力同士の干渉を防ぐ為。緊急事態であるのは分かりますが、であれば猶更に慎重になるべきではないでしょうか」
「百合の言う事は確かに障害になる。特に夜鳥と柘榴の能力辺りは同時に使うと相性が悪い。
外で雷が鳴り、ガラスが暴風で激しく揺さぶられている。この天気は偶然か、それともベロニカが引き起こした人工的な嵐か。いずれにせよ雲行きが良くないというのは確かだ。
「一番良いのは“プリムラ・クェーサー”と桐也のコンビネーションだ。能力を無効化しつつベロニカに有効打を与えられるかも知れない」
絆は口を挟む。
「プリムラ・クェーサーって何ですか?」
プリムラ本人から説明があった。
「私は五種類の形態に変身できるけど……その全てを合わせた六種類目が存在する。それがクェーサー。でも、あれを使うと一気に時間軸からズレるの」
「そんな!」
「でも覚悟は出来てるよ。何ヶ月後……いや、何年後に飛ばされても。学園と皆が無事であればそれで良いよ。私はその為にいるの」
それに反論は出来なかった。
絆も同じ気持ちだったからだ。ベロニカは姉に貰った痛みを自分に返すという愚行に出た。そして人々を危険に晒している。必ず痛みを再度彼女に返して償わせる。絆の今の目標の一つだ。
しかし彼には気がかりがある。
学園の事を放ってゼラニウムの対処に移ってしまったら、躑躅や入鹿、ロズたちの危機には助太刀できない。本当にそれで平気だろうか。犯人が禁術を使用する事はもう間違いないのだとすれば、それはゼラニウムのメンバーと同等の危険度があるのではないか。
そこで萌音が発言した。
「あの、一咲……葉団扇くんたちは一年生だよ。無茶させるのは良くないと思う……」
「分かってる。義務として参加させようってんじゃない。絆は生徒会員で、桐也はたった一人でもリナリアに負けなかったんだ。寧ろ私は、この作戦に参加する権利を持っていると解釈してる。二人次第だ」
自分次第。桐也はすぐに頷いたが、絆はそうではなかった。
「僕は……学園に残ります」
その言葉を聞いて萌音が優しく語りかけた。
「うん。その方がいい。みんなに心配されてるんでしょ?」
「そうじゃないんです! ゼラニウムの対処に僕まで回ってしまったら、学園の皆を守れません!」
その言葉を聞いて百合が同意を示す。
「確かに。会長、万一秘密基地不在時に事件の犯人が禁術で強硬手段に出た場合、こちらの事情を知っているのが躑躅だけでは対処が難しい。絆を含め数名残しておくべきです」
「もちろんそのつもりだったよ。いずれにせよ私は能力の性質上ベロニカに対して役に立たないから残るつもりだったし。他に残しておくべきは萌音かな」
「ですね。それと、私たち生徒会委員と朝倉さん、それに真緒も学園に残れば守りは盤石です」
「チーム編成はそんな感じになるかな」
ディスプレイに全員の名を表示してから、それを半分に切ってチームを可視化する。
〜対ベロニカ組〜
・空木柘榴
・
・プリムラ
・柊桐也
〜学園残留組〜
・成宮一咲
・透百合萌音
・中之条百合
・葉団扇絆
・朝倉なずな
・西倉真緒
このチーム構成で対抗することが決定した。
「じゃあ、対ベロニカ組は準備が出来たら出発して。なずなと真緒は学園に残るけど対ベロニカ組の情報担当を任せる。危険があったら私か萌音が飛んでいく」
「強がらなくていいよ一咲は。ベロニカと一咲の能力、相性最悪じゃんか」
「……だね。とにかく、ピンチになったら萌音はそっちに行くようにしとく」
「まあそう簡単に負けるつもりはないけどね」
柘榴もいつになく気合の入った表情になる。
百合やなずなが退室していく為、絆もそれに続こうとした。しかし桐也の事が気にかかり一度立ち止まった。
「ねえ桐也……大丈夫?」
「ああ。想像より落ち着いてるんだ」
「僕が言うのもなんだけど。無茶は、しないで欲しい」
「約束は……出来ないな。その代わり……お前が貰った分の痛み、突き返してきてやる」
「うん……宜しく頼んだよ」
それだけ言って彼の元から離れた。ベロニカに対して憤りはあるが、桐也の恨みはその何百倍も強いのだろうと絆は推測していた。彼の復讐の邪魔はしない。殺人を犯して欲しくない気持ちもあるが、秘密基地のメンバーもいる以上心配いらないだろう。
生徒会室へ戻ると、躑躅と真緒がかなり込み入った議論をしているようだった。
「躑躅。どうしたの?」
「洗脳の主は突き止めた。運の良い事に、すごく簡単だったよ」
「そうなの!? だ、誰?」
「想定した通りの結果さ」
容疑者リストを改めて取り出して、ソレイユ・ソシュールとカルミア・カルメの名を指差す。
「この二人のオーラが同時に検出された。私は大会でカルミアのオーラに触れているからそれは感触で分かる。ソレイユについてはアリバイ調査をしている時に彼女自身がオーラを発していて、それに触れたから」
「じゃあ、この二人を同時に調べればどちらかが、犯人……!」
それを聞いた一咲が静かに呟いた。
「……だとしたら、恐らくはカルミア・カルメが真犯人ね。オーラ値で言って明らかにソレイユより格上だから。私がカルミアを調べる。百合はソレイユの身の安全を確保して。ただし仮説としては逆の可能性も十分考えられるから注意はしてね」
「分かりました」
中之条百合は人に能力を話していない。しかしながら、オーラ値で言えば一万を超えている事を絆は知っているので、身を守れない事はないはずだ。
「僕たちは……」
「絆や躑躅は様子を見ていてくれたらいい。何か想定外の事が起これば臨機応変に動けるようにね」
「分かりました……」
そこで躑躅に着信があったようで、彼女が電話を取る。
「ロズ、どうしたの?」
このタイミングでロズからの電話。
「ああうん、分かった……こっちからも話したい事があったし。生徒会室にいるから、今から来てもらえるかな」
通話を切ると躑躅は堅苦しい表情で一咲に向き直る。
「すいません。ロズが、ベロニカと戦いたいと言ってます」
「シドウェルさんが?」
「はい。ロズの能力なら対抗しようがあるんじゃないかと思っているみたいで」
「いや……確かに。現象を吸収する能力と、桐也のオーラを分解する能力。組み合わせとしてはこれ以上にない」
一咲は早歩きで第二会議室に戻って四人に提案する。
「このメンバーに、ロズ・シドウェルさんを加えたい。良い?」
「ロズを……?」
秘密基地のメンバーには異論はないようだったが、桐也が少しばかり動揺している。
「桐也。何か不安?」
「……ロズを疑い始めたのは俺ですから。どういう顔をして会えば良いのか」
「大丈夫、事情は分かってくれるさ。それに進んで協力したいと言ってるんだ」
「……分かりました。一度話して、それから決めます」
彼の中の苦悩。身近な人を信じていたいのに、かつての記憶がそれを阻む。今回は結果的に容疑者の一人になったロズだったが、彼女の事を信じられなかったのは自らの気質故だと彼は自覚していた。
五分後、ロズが生徒会室に姿を現した。
諸々の事情を説明しようとした躑躅を遮り、桐也が一番に頭を下げた。
「すまなかった」
「えっ……どうしたの、急に。ていうか何で皆ここに?」
「俺たちは……事件の捜査をしていた。そして今まで、君が洗脳されて実行犯となっている可能性を考え、容疑者として疑っていたんだ。最初にそう思ったのはこの俺だ。ごめん」
深々と頭を下げる桐也に、ロズは少々戸惑いながらも優しい言葉を返した。
「そ、そんなの全然平気だよ! 頭なんて下げないでよ、桐也くん」
「許してくれるのか……?」
「そりゃ、真犯人として疑われてたなら傷つくだろうけど……洗脳されてる状況なんて、誰にもどうしようもないよ。寧ろ、桐也くんたちは助けようとしてくれてたんでしょ? だから躑躅も、わざわざあんな法の支配の話をして……」
少し照れたのか、躑躅は目線を逸らす。
「とにかく変に気を遣わないでよ! 私たち、友達なんだから」
「ロズ……」
彼女の眩しさに、桐也は涙を流しそうになる。
黒葉やベロニカの時とは違う。ロズは自分の意思で動いていて、そして裏切らない。
「君を信じてる。だから、ベロニカ討伐に協力して欲しい」
「もちろん! その為に来たんだから」
両腕で表現する愛らしいガッツポーズ。それだけで桐也はこれまでの全てを許されたような感覚にさえ陥った。
二人の様子を見ていた柘榴が口を開いた。
「イチャイチャはそれで終わりで良い? そろそろ行くよ!」
からかわれた事を笑い合う二人。照れる事もなく、ただ正直に感情を与え合う関係性は傍から見ていた誰にとっても理想的に見えた。
「でもロズ、無茶は嫌じゃなかったのか?」
「無茶じゃないよ。実際、桐也くんはリナリアと互角だったんでしょ?私たちが組めば無敵だと思ったからこそだよ」
絶大な信頼。桐也は自分を恥じるよりも、安心感を強く覚える。
「じゃ。私たち言って来るから。よろしく一咲」
「任せたよ、柘榴。何かあったら萌音を送る」
桐也とロズは秘密基地の面々に連れられて生徒会室の外へ出て行った。
残った面々の内、なずなはゼラニウムや街の動きの情報を対ベロニカ組に伝える係、そして萌音は秘密基地に何かあった時の為ここで待機。そして一咲と百合が容疑者と直接対峙し、絆と躑躅がそれぞれ様子を監視する。
「それじゃ、私たちも早速作戦開始しましょう。カルミアと戦闘経験がある躑躅が私に付いて来てね。絆は百合と一緒にソレイユを調べる事」
作戦会議から僅か数分しか経っていない内に決行に移るこの手際の良さ。躑躅はまだ心の準備が出来ていなかった。
「ちょっと待って」
そこで一度引き留めたのは、事件に向かい合う事への恐怖から――ではなかった。
「ねえ絆……あの、さ」
「どうしたの?」
純朴な表情で首を傾げる絆。この愛くるしい少年に、躑躅は意を決して心の内を明かす。
「前からずっと、絆の事が……」
一度言い淀んだ躑躅。彼の事が好きだ。その事実は確かだ。しかししっくり来なかった。その理由はすぐに探り当てる事が出来た。そしてもう一度向き合い、本当の告白をする。
「私は……絆と桐也、ロズと一緒に四人でいる事が大好き! そんな皆がいる学園が好き……だから、絶対に守ろう!」
そうだ。躑躅は何か勘違いしていたのかも知れない。ロズとの喧嘩や、心の内をあまり語らない桐也。そんな中で絆だけが自分を真正面から正確に見てくれていた。そう思っていた。
しかし違う。別に角度が違ったって良い。距離が遠くたっていい。ロズや桐也も、自分の事をしっかりと見てくれている。大切な友人で、仲間だ。その事にようやく気付いた躑躅は、自分の気持ちを正直に吐き出した。
「僕も同じ気持ち!」
絆は輪をかけて普段の様子と変わらない返答をしてくれた。それが何よりも嬉しい。彼のこの笑顔こそが、躑躅の守りたいものの象徴なのだから。
「準備は整ったみたいだね」
一咲も心なしか普段より爽やかな笑みを浮かべている様子だった。
「躑躅の言う通りだ。絶対に学園を守り通そう」
四人は決意を胸にして生徒会室を飛び出した。
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