第2話 はじまりはじまり
「しゅああああああ!!」
意を決し、イノシシのの腹を裂く。
「ちょ!だめ、やめ、ぶうわあああ!」
イノシシの大事な血管を切ってしまったようで、勢いよく血しぶきが飛んできた。
「何やってんだいこのばかもんが!」
フナばあさんから思い切り頭をどつかれた。
「いってえええええええ!」
顔には血しぶき、頭にはこぶ。それにイノシシから逃げ回ったせいで足腰も限界だ。なんでこんな目に…。
「まったくイノシシ一匹の解体もできないとは…情けないねえ…」
「うう…」
「そんなんじゃこの山の中で生きていけないよ」
「ううう…なんで僕がこんなこと…」
僕は天才児だった。
僕は「こうきなるけっとう」の一族の子として生まれた。父は国を治める王様で、母は軍の最高指導者。その息子だった僕は周りの人間からもてはやされ、崇められていた。さらに言えば、僕にはこの世界の常識を覆すことのできる知識があった。この僕の知識によって、自国は戦争で常に全戦全勝、農作物は豊作続き、挙句の果てには世界平和のための条約を各国に結ばせることもできた。
僕は天から二物も三物も与えられた、唯一無二の存在であり、世界の中心である。そう信じて疑わなかった。
そんなある日、12歳の誕生日の日に何か特別なことをしたいと思った僕は、こっそり父と母に黙って山に遊びに行こうと思い、馬車を出した。その山道中、なんと山賊に襲われたのだ。
警戒はしていた。軍の中でも屈指の実力者を数名連れていたし、馬車をいくつも用意し、カモフラージュもばっちりだった。護衛も多く携え、暗殺にたけた能力を持つものをメイドとしてやとい(巨乳)、同じ馬車に乗せた。
しかし、結果は惨敗。数名いた実力者は全員死に絶え、そのほかにもいたはずの護衛も皆殺し。幸い、僕はそれら護衛や馬車をおとりに命からがら逃げだすことができた。だが、失ったものは大きい。護衛などの人員に、持っていた財産。そして巨乳のクール暗殺者メイド…。
そして命からがら逃げ出したはいいものの、なにせ山の中で迷子になったのだからどこに行けばいいかわからない。それにいつ獣に襲われるかわかったもんじゃない。さらに言えば助けを呼ぼうにも連絡手段がない。こんなことなら念力を身に着けておくべきだったと何度も後悔した。
行く当てもなく山の中をさまよい、体感3日間たったころだろうか。脱水で思考能力が減退していた僕は、あまりにもおなかがすいていたこともあり、あろうことかそこらへんに生えていた明らかにやばそうなキノコを食べてしまった。
食べた瞬間、この世のありとあらゆる痛みを凝縮した何かが腹の中で暴れまわり、一瞬にして僕の意識を奪っていった。あの時は完全に死んだと思ったし、実際一瞬死んだと思う。
そんな僕を助けてくれたのがフナばあさんだった。
フナばあさんは御年70を超えてなお山の中で自給自足をする鉄人おばさんだ。僕が死にかけたその日、フナばあさんは山の中に仕掛けた罠を回収しようとしたところ、泡を吹いて倒れてぶっ倒れていた僕を見つけ、そのまま家に持ち帰って保護してくれたのだ。まさに命の恩人。そんなばあさんに恩返しをするために、僕はここでばあさんのお手伝い的なことをしながら、わけあって居候させてもらっている。
え?王子様が家事とかできるのかって?
心配ご無用。僕にはなぜかそこら辺の知識も備わっているのだ。本当になぜかはわからないけどね。
ただまあ家事全般のことはできても動物を捌く知識はなかったため、こんな有様になったというわけだ。
というわけで回想終わり。
「ほら、ここに刃を入れて下にひくんだよ。そして腹から内臓を取り除く。取り除いたのは虫がわかないうちに捨てちまって…」
「うう…くっさあ…」
「文句言ってないで早くやるんだよ!鮮度が落ちちまう」
この数か月、フナばあさんと一緒に過ごして着てわかったことがある。
それはこのばあさんがなにかワケアリだということ。明らかに動きが70代のそれじゃないし、家になんかすごい剣が置いてある。極めつけは、僕の姿を初めて見たときに「あいつのガキ…」とぼそりとつぶやいていたのである。おそらく僕の両親の知り合いかなんかなのだろうと見た。
気になっていろいろ問い詰めてみたものの、いつもはぐらかされてしまう。
いつか絶対にばあさんの秘密を聞き出してやる…。
「ほら、チャチャっと終わらして水浴びせにゃ、浴びた血からへんなのがついてくる。またぶっ倒れてもいいのかい」
「あい…」
何とか苦労しつつも、イノノモノを捌き終えた僕は、すぐに近くの川まで向かい、かかった血をきれいに流した。
しかし、なんで僕はこんなにも頭がいいのだろうか…。まあ、神に愛されているってとこかな?ふふん。
「しっかしあんた、掃除も料理もできるくせして、山のことになると点でだめだねえ。狩り然り解体然り」
「しょうがないじゃん。今までやったことないことなんだから」
ちなみに今隣でフナばあさんも全裸になって一緒に血を流している。
「そりゃ、はじめては誰だってそうさね。あたし言いたいのは、なんでも家事全般器用にこなすし、頭も切れているというのにそれが全然生かされていないことに驚いてんだよ」
「なんか体がうまいこと動かないんだよ、その辺のことにたいして」
「へえー、じゃあいわゆる山のことに関してはあんたの苦手分野ってとこかね」
「ふ、ふんっ、今に見てろよ!すぐ上達してぎゃふんといわせてやらあ!」
「なんだいその言葉遣いは。どこでおぼえてきたんだい」
「さ、さあ…?」
「自分で言っといてわからないとは…」
確かにどこかで聞いた覚えはないのに、どこかで言ったことがある気がする。いつ、どこかはわからないけど…。
「よしっ、そろそろ上がって飯にしよう」
「うんっ!」
誰に縛られることなく、自由に過ごしていける。こんな暮らしがいつまでも続けばいいな。
「まいったな…。第2王子が行方不明とは…」
「王も王女もたいそう悲しんでおられたぞ」
「そりゃそうだ。あんなに聡明で心の強い子だったんだ」
「た、大変だ!第2王子の死体が見つかったそうだぞ!」
「「「な、なんだってえーーーー!!」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます