絶対王政空前絶後の異政界~赤字国家の再建に向けて~

青虫智明

第1話 I☆SE☆KA☆I☆TENSEI

 「いっけなーい。遅刻遅刻う~」

 そのかわいらしい声とは裏腹に、えげつないほどの衝撃が俺の脇腹を貫いた。

 「ちょっと!どこ見て歩いてんのよ!」

 痛みにも悶えていると視界の端に下駄箱と見まがうほどの巨漢がうつる。

 (ごめんなさい)

 そう言葉にして伝えたかったが、呼吸がままならず声にならなかった。どうやら当たり所が悪かったらしい。息ができない。

 「ごめんで済むなら警察はいらないわよ!」

 ぶつかってきておいてなんですかその態度。こっちはあなたに吹っ飛ばされてめっちゃ苦しい思いしてんですよ。このわがままな感じ、甘やかされて育ったゆとり世代とみた。

 「たくっこれだから男は…」

 ツイフェミだったか。

 「あっとこんなブ男にかまけてる暇はないんだった。私の転校初日イケイケ少女漫画ライフはこれからなんだから!」

 そう言葉を残し、巨漢女はどしんどしんと立ち去って行った。

 


 思えば、それなりの人生だったと思う。友達も結構いたし、弱小ではあったけど、野球部でそれなりに頑張ってたし、人間としてちゃんと成長できたと思う。心残りがあるとすれば父さん母さんにちゃんと親孝行してけばよかった。あとは、この充実した高校生活を手放すことかな。あと二年もあったっていうのに。もっとも、死因がツイフェミに突き飛ばされたからっていうのが一番の心残りかもしれない。

 願わくば、来世も同じような人生が送れたらと思う。






 「ありゃ、珍しく若い魂が来たねえ。死因は…ブッフォw巨漢の女に突き飛ばされて頭を打って死亡?こういうの若いのってたいてい自殺か病気か交通事故なんだけどねえ。まあ、これもある種交通事故か…しかも彼がゆっくり歩いてたのに対して恐ろしく速い速度でしかも死角からぶつかられたと…これは死後保険適用内だね。転生が認められるケースだ。逝ってよし。え?逝ってよしは死語だって?なんだいあたしが死後の魂に死語を言うような無神経な思考しているとでもいうのかい。そんなつまらんこと言ってないで、早くこの魂に見合う転生プランを見繕いな。あたしゃ忙しいんだ」

 「ということですのでいくつかプランを選べますがいかがなさいましょうか?まずはテンプレのチート系能力を得て世界を救いに行くプラン、次に人外に転生してチート無双するプラン。こちらナニに転生するかは完全にランダムになるのでご注意ください。そしてスローライフに見せかけた転生プランと、性転換と…え?前世と同じ世界がいい?それはちょっと規定に反するのでできませんね。ただあなたが住んでいた「日本」に近い世界ならあるかもしれません。ちょっと探してみますね…ああ、ありました。世界ナンバーINM810ですね。こちらの世界はですね…え?番号が汚い?どこがですか?普通じゃないですか?え、生理的に無理?まったくわがままですね。じゃあこちらのザ・異世界といった感じの中世ヨーロッパ風の世界ではどうでしょうか。まあ、何の面白みもない普通の異世界ですよ。あ、ここでいいですか。案外あっけなく決めるもんですね。ちなみによく勘違いをしていらっしゃる方がいるのですが、基本どこの世界に行っても「ステータス」とか「レベルアップ」とかの概念は存在しません。現実をゲームと勘違いしてよくアンケートに要望出してくる人がいるんですよ。ま、そういう人ってたいていニートか引きこもりの激イタヲタクが書いてるんですけどね。あと、基本のスペック…まあ容姿や身体能力は転生前のままです。ただ死後保険の中には「転生前能力変更」もありますので、多少身体能力や知能に補正がかかります。生前の行いが良いとかかる補正も大きいです。あなたの場合は…おお、思いやりもあり、まじめで優しい。その優しさとまじめさから周りからも愛されている。親の評価は【もっとわがまま言ってほしい。なんか手がかからん過ぎて逆に申し訳なくなってくる…こんなふうに育つなんて全く親の顔が見てみたい。あ、親私だった】…なかなかユニークな親御さんですね。まあ、これくらい信頼されていたら、どこに行ってもおおきな問題ないでしょう」

 「おーい速くしなさんな。あとがつっかえてる!」

 「あーごめんなさーい。すいませんね、あの上司結構せっかちなもんで。ではもう行きましょうか。異世界の扉までご案内します。ついてきてください」

 


 「ここがあなたの転生する世界への入り口となります。転移ではなく転生なので、また0歳からのスタートです。記憶の引継ぎはしますか?…そういわれましても、私の一存では決められません。ま、引き継いでいたほうが何かと都合はいいのである程度の知識は引き継ぐことにしましょう。思い出とかは、引き継がないことをお勧めします。思い出の出どころを求めて早死に…なんてなったら仕事が増えて面倒…こほん。つらいですからね。それでは準備はいいですか?ちなみにどのようにして誰の子供として生まれるかは完全にあなたの気持ち次第です。過酷な出生になるか、それとも、この世界のとある貴族に生まれ、ぬくぬくと育っていくのか…。どっちにせよ、あなたのような人格者はきっとうまくいきますよ。大丈夫です。死んでもまたここに戻ってこれますから。その時は、ゆっくりお話でもしましょう。では」



         「行ってらっしゃい」


 

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