第5話 もうひとりの家族
「悠志君、美津歩、知らない?」
「美津歩…ですか?いや…知りませんけど…部屋にいるんちゃいますか?」
「それが…いないのよね…出かける時は必ず一言は連絡するなり言って出かけるんだけど…」
「そうなんですか…急用なら携帯に連絡したらどうなん?なんなら俺が連絡しましょうか?」
「それが…連絡すらつかなくて…」
「つかない……?」
《何してんねん…アイツ…》
一方、その頃、屋根の上で干してある布団の上で気持ち良く眠っている私がいたのだ。
そして――――
「んーー…」
ふと目を覚ます。
「ん?…空…?……えっ……!?…ああっ!そうか!私…天気良くて、つい気持ち良くて横になってたら、いつの間にか眠っていたんだ」
私は布団から降りる。
次の瞬間――――
干している布団が、ズレ落ち始める。
「あ、ああーーっ!布団がぁぁーーっ!」
掴もうとするも下に落ちて行ってしまった。
ドサッ
「ん?何か今…音した…」
俺はふと振り返る。
すると屋根上から黒い長い物が視界に入る。
「えっ…!?な、何なん…?」
「………………」
スッと長い黒い物が視界から消えた。
「…ちょっと…待てや…見てはいけないもの見てもうたか?……いやいや…んなわけないやん…」
俺は恐怖と闘いながらベランダに出る覚悟をした。
私は、屋根に腰を降ろしている中、下から窓が開く音が聞こえた。
「ん?」
気になり顔を出すと同時に下から顔が見えた。
「きゃああああっ!」
「うわああああっ!」
お互い驚き、大声で叫んだ。
「な、な、何してんねんっ!」
「そ、そ、そっちこそ!な、何してんのさ!」
私達は騒ぐ。
「梨生さん、探しとったで?連絡もつかへんって!」
「そうなんだ。分かった」
「梨生さん、心配かけたらアカンで?」
「そうだね」
私は、布団を取りに行き、自分の部屋に戻る。
それから、数ヶ月が過ぎ、お姉ちゃんは無事に元気な男の子を出産した。
「可愛いーー♪」
「悠志と大違いだね」
「その台詞、お前に、そのまま、そっくり返したるわ!」
「私は女の子だし!」
「男も女も変わらへん!みんなここから成長して大きくなってんねん!」
「それはそうだけど」
「それに、ついつてるか、ついてへんかの違いやろ?」
「…つ、ついてる…ついてないって……」
「何で赤くなるん?顔に似合わず、どんだけ純やねん!本当の事、言ったまでの事やで?」
「わ、分かってます!じゃあ、お姉ちゃん、また来るね」
「うん、またね。気を付けて帰るのよ」
「はーい」
私は先に病室を出て行き始める。
「悠志君」
「はい」
「悠志、先に帰ってるからね」
「あ、ああ。すぐに追い付いたるわ」
「う、うん」
私は一足先に帰っていく。
「ごめんなさいね。悠志君、私がいない間、美津歩の事、宜しくね。両親はいるものの、みんな仕事してるし自由気ままに各々の事してるから。悠志君も色々と大変だろうけど…」
「大丈夫ですよ。任せて下さい。梨生さんは安心して子育て専念されて下さい」
「ありがとう」
悠志も病室を後に帰っていく。
その日の帰り、私達は肩を並べて帰る。
「…子供か…ええよな…」と、悠志。
「えっ?」
「両親…いてへんのと変わらへんからな~俺…」
「…悠…志…」
振り向く悠志。
「お前が、そんな顔すんなや」
「…だって…」
「すまん、すまん。俺が言うたからやな」
「…悠志…両親に…会いたい…?」
「…えっ…?」
「…もし…この世の中の何処かにいるなら…一目でも…見たい?話したりしたい?」
「…美津歩…それはな…産みの親に会ってみたいで」
「…そう…だよね…私、何、当たり前の事聞いてるんだろうね。…ゴメン…」
「別にええけど。でもな…別にええんや」
「えっ?」
「今、こうやっていれるんやし、例え養子やとしても、俺の事、今まで家族として接してくれてんねんから。だから、今が幸せならそれでかまへん」
スッと悠志の手を握る。
「…美津…歩…?」
「…もし…迎えに来たら……行く…?…家…出て行くの…?」
「…えっ?」
スッと握った手を離す。
「ご、ごめん…!私…何言って…悠志の事なんだもん。どうしようが関係ないし悠志の自由だよね?気にしないで!」
帰り始める私。
グイッと引き止められた。
ドキッ
「お前は…そうした方がええと思うん?」
下にうつ向きながら振り返る。
「…それは…そんな事…分かんないよ…だって…選ぶの悠志でしょう?…でも…もし…悠志の事…特別な存在だったら…行ってほしくないって…思うかもしれない…引き止めるかもしれない…」
「じゃあ…特別な存在やなかったら止めへんちゅー事やな?」
「…分かんない…分かんないよ!でもっ!家族だからつ!」
私は顔を上げながら言う。
「…悠志とは…家族だから…」
再び下にうつ向く。
「…そうか…」
横切る悠志。
「…悠…志…?」
「…帰るで…安心しいや。俺の家族は1つしかあらへん」
「…悠志……うんっ!」
私は悠志の腕に抱きつくようにした。
「よ、よせや!」
「どうして?良いじゃん!」
「全く」
恥ずかしそうな悠志。
私達は、そのまま帰って行った。
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