第6話 一人の家族と訪問者
そして、お姉ちゃんも無事に退院し、私達の家に家族が1人増えた。
私達の家には笑顔と幸せな毎日が続いていた。
そんなある日、家の前に一人の女の人が佇んでいた。
すると、その女性は私に気付き足早に逃げるように帰って行く。
「ただいまーー」
「おかえりーー」
「ねえ、お姉ちゃん、今まで誰か来客いたの?」
「来客?いないわよ」
「…そう…なんだ…」
「どうして?」
「…いや…表に女の人がいて…」
「女の人?」
「うん…40代〜50代位の人が、家を眺めていて…でも私の顔見た途端、足早に帰って行った」
「あんたの顔が余程、怖かったんじゃないの?」
「酷っ!何それ!失礼だよ!」
「アハハ…」
そして、次の日も、次の日も、その女性は来ていた。
「……また……」
そして、私の顔を見るも、やはり帰って行く。
「…何?なんか感じ悪いんだけど……」
すると、そこへ――――
「おいっ!アホ美津歩!何、ボーッと突っ立ってんねん!車に轢(ひ)かれるで!」
「縁起でもないな!後、アホは余計だよ!全く!」
「まあ、轢かれたら線香の一本あげたるわ!」
「だーーかーーら!」
「なーんて嘘や!そん時は、俺も一緒に逝ったるで!」
「えっ?」
「家族やから」
「いやいや、私の分も生きなよ」
「そうか?」
「そう!でも、ありがとう。嘘でも、その気持ちだけでも十分だよ」
「で?どないしたん?」
「いや…それがさ…」
私は状況を話しつつ、私達は移動しながら家の中に入って行く。
「女の人?」
「うん」
「何歳(いくつ)くらいの人なん?」
「うーーん…40代〜50代かな?うちらの両方の両親と、そう変わらない感じかなぁ~?それよりも、もっと若い?」
「そうなんや」
「うん…良く見れてなくて。いつも私の顔を見た途端、帰っちゃうんだよね〜」
「お前の顔、余程、怖いんちゃうん?般若みたいな顔で見てたんちゃうか?」
「ちょ、ちょっと!お姉ちゃんと同じ事、言わないでよ!」
「ハハハ…梨生さんも同じ事、言うてたんや?」
「と、とにかく!そう言う事!毎日来てるから、きっと何かあるんだよ!」
「そうやろな?実は霊能者とか?何か見えてるんちゃうか?」
「ちょっと…!気持ち悪い事、言わないでよ!」
私達は騒ぐ。
そして、次の日もまた女の人はいた。
目が合い相変わらず帰っていく。
「あのっ!!いつも何ですか?何か御用があるなら家に入られたらどうですか?私の顔を見ては帰っていくなんて失礼極まりないですよ!不愉快です!家には私の姉がいるし」
「…ごめんなさい…悪気はないの…」
「………………」
「…悠志は……元気?」
「はい?悠志?渡世 悠志の事ですか?アイツなら元気ですよ。もうやがて帰って来ると思いますけど…何なら家の中で待って…」
「…いいえ…元気にしているなら良いんです。それじゃ失礼します」
去る女の人。
私は見送る。
そして――――
「…美津歩…?何してんねん。家に入らへんのか?」
「悠…志…あっ!今、悠志を訪ねて来た人いたよ。ほら、私がいつも来てる女の人…」
悠志は、私に荷物を預けると、後を追うように走り去る。
「えっ!?ちょ、ちょっと!何!?悠志っ!!」
私はブツブツと文句を言いながら家に入って行く。
「あら?おかえり。その荷物は?悠志君の?」
「そうだよ!全く!女の人の話ししたら速攻荷物預けてった!!」
「…女の人…?また来てたの?」
「うん…相変わらず来てたけど…」
「…そう…」
「何?何か言いたそうだけど……」
「…いや…もしかすると…悠志君のお母さんじゃないかしらと思って…」
「えっ…?」
「気にはしていたんだけど…だって愛神家だとしたら訪問して来ても良いはずだし、渡世家だとしても何かしらのコンタクトは取って良いわけだから。訪問されない理由あるんじゃないかしら?悠志君…養子って自分の口から話していたから…当てはまるのは…それかな?って…」
私は荷物を放り投げるように玄関に置き家を飛び出した。
「ちょっと!美津歩っ!!まだ、決まったわけじゃ…全く…」
✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕
「あのっ!!待って下さい!!」
足を止め振り返る女の人。
女の人は顔を見るもすぐに背を向けた。
「…俺の…母親…なんですか…?」
「………………」
「…そう…なんですね…」
「………………」
「毎日来てるって…聞いて…俺の事…訪ねられたって…俺に用事あったんやろ…?」
「…ごめんなさい…」
「えっ…?」
「…その一言を言いたかったんや…今更…遅いねんけど…でも…その一言…たった一言…あんたに謝りたかったんや…」
再び去り始める女の人。
「あの…っ!…悠志を……」
私は引き止めるように女の人の背中に向かって声を掛けた。
私の声に気付き振り返る悠志。
「…美津歩…」
「…悠志という…一人の人間を…産んだ事…後悔してないんですよねっ!」
悠志も女の人を見る。
女の人は、ゆっくりとしっかり頷いた。
そして、再び去って行く女の人。
「…俺を…俺という人間を…産んでくれて…ありがとうっ!」
悠志は、女の人の背中に向かって、お礼を言った。
「俺は…恨んでなんかいてへんから!」
私達は女の人を見送った。
そして私は悠志の元へ歩み寄り、悠志を背後から抱きしめた。
「…良かったね…」
「…ああ…」
「………………」
「…で?何でなん?」
「えっ?」
「何でいるん?」
抱きしめた体を離す。
「いや…無我夢中で…」
「無我夢中って…何でやねん!あー、俺が遠くに行くんちゃうかと思ったんか?」
「ち、違っ…」
「図星やな?」
「違います!あんたが何処に行こうが知った事じゃないし!」
「そうなんや!ほな、一緒に行った方が良かったかな?しもたなーー」
悠志は帰り始める。
「…遠くに…」
「えっ…?」
足を止め振り返る。
「…遠くに行くんじゃないかって思ったよ!!」
「…美津歩…」
「…ずっと…一緒に…今日までいたのに…明日から…生活が急に変わるのかな?って…例え…家庭の事情で同居人になって…恋人同士じゃなくても特別な感情がなくても…一人の家族だから…正直…不安が…」
片頬に触れる悠志。
ドキン…
「心配せんでも今の家族を捨てるわけないやん」
「…悠志…」
「俺の、たった1つの今まで一緒に過ごして来た家族や。もちろんこれからもずっとな。例え養子かて俺の大切な家族やから…それに…」
スッと頬から手が離れ、両肩に手を両手置かれ、目を閉じる。
「面倒で手の掛かる奴がおってなーー。色気もなーーんも無くて…男の縁が全くない女がおんねん。なあ~?愛神 美津歩ちゃん」
イタズラっぽく笑うと走り去る。
「えっ…?私!?ちょっと!どうして!?」
「さあ?何でやろうな〜?自分の心に聞いてみぃ?」
私達は騒ぎながら家に戻るのだった。
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