第43話 きっと私は着せ替え人形!?




 色々なものが過去のものだと感じられるほど、それだけ私も年を取ったのかなと思ったとき、その2着がクリーニングにかけられているのに気づいた。


「うわー、懐かしい」


 グレーの上下は小学校の卒業式に着たもの。これに白のハイソックスと黒のローファーを合わせたっけ。


 これだってまだ正直着られる。もういいや、後で考えよう。それ以上悩むのをやめて、その服を箱に入れた。


 そして……。1着のワンンピースに手を伸ばした。


 それもクリーニングにかけられていたけれど、わたしには分かる。


 この服はお母さんが直したんだ。ボタンが飛んだり破れてしまったところもあったのを覚えているから……。以前からこの服だけは探しても見つからなかった……。私の知らないところで処分されたのかと思っていた。


 その服を箱には入れず、私は黙って壁のハンガーフックに吊した。


「剛さん、帰ったら私のことをきっと着せかえ人形にしちゃいますよね」


「そうだなぁ、しばらく飽きることはなさそうだ」


「もぉ、知りません。私の事なんだと思っているんですか!?」


「俺の大切な奥さんだけど?」


 そこまで堂々と言われたら、私の方が赤くなっちゃう。



 中学以降の物はお母さんが以前に整理をしているし、私自身も足跡を消しゴムで消していくようにほとんど自分で処理をしてしまった。高校の卒業、大学の進学で一人暮らしを始めることになったタイミングで、この地元で私は書類上にしか存在しなくなった。


 もうすぐ消えてしまうことを運命づけられていた当時、服も最低限しか買わなかったし、それすらも遺せば邪魔になると着潰しては処分していたの。


 あの当時の私は、メディアなどに登場し、同級生が憧れるような魅力的な女性像とは、誰から見てもかけ離れていた。


「陽咲、疲れただろう。いろいろ見つけちまったよな」


 剛さんはいつもわたしを「ひな」と呼ぶけれど、肝心な場面では「陽咲ひなた」と使い分ける。


 その意味が分かっているから、それ以上の言葉はいらない。


「いえ。大丈夫ですよ。今は剛さんが一緒ですから。剛さんは私の事を心配してくれます。十分に分かりますよ」


 そう、剛さんは私のことを瞬時に見抜いてくれる。


 恋愛が怖くて、男性恐怖症で、何の魅力もない私に、本当に恋愛初心者の友だちのように、一歩一歩合わせてくれた。


 手を繋ぐこと、キスをすること、そして私のことを何の疑いもせずに抱いてくれたこと。


 そして、あと数年と覚悟していた私に大切な剛さんの命を分けてくれた。


「陽咲、よく頑張ったな」


「はい。剛さんもお疲れさまでした」


 お家の中には私たち二人だけだった。それというのもお母さんが急に外出することになり、お婆ちゃんの家で一泊、明日の朝には帰ってくると出てしまったから。夕食は適当に外に行くかデリバリーを頼むと打ち合わせしてあった。


「外に食べに行きましょうか」


「いいよ」


 さすがに女の私がホコリまみれってのも問題なので、着替えて暗くなった住宅地を歩く。


「なんか、昔を思い出します。学校帰りはこんな時間になったりしますから」


「そうだな。ここで陽咲が暮らしていたんだもんな。不思議な感じがするよ」


 家から歩いて15分ほど。ファミリーレストランに向かった。


 駅前に行けばもっといろんなお店があるんだけど、そこまで行くには時間もかかるし。


 でも、偶然とは言え、剛さんにもあんなハプニングが起きるとは、この時には予想もしていなかったの。


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