第42話 こんなものまで取ってあったなんて…




「この部屋に陽咲の物は全部まとめておいたけど」


「うん、片づけておくね」


 実家に着いて、挨拶もそこそこに片づけを始めることにした私たち。


 今回の話が急に決まった背景には、この家に私のお婆ちゃんが同居することが決まったからだという。


 もっと田舎の方に住んでいたのだけど、一人暮らしも何かと不便だし、一家の中で一番の不安材料だった私も無事に嫁いだことで、まとまろうという話が進んだみたい。


 確かに松本の市街地である私の家なら通院も楽になるからね。


「お母さん、ずいぶんまめなんだな」


 ダンボールの中を確かめながら剛さんの感想だ。


 さすがに幼稚園の頃ともなると残っていないけど、小学生の時代と思われる物も「発掘」されてくると、単なる物持ちが良いというレベルかも怪しくなってくる。


「もしものとき、陽咲が家族だったことを忘れないようにするためだったのよ」


 必要な荷物を少しずつ車に積み込んでいるときにお母さんに聞いてみると、そんな答えが返ってきた。


「そうでしたか」


 剛さんが肯いていた。


 そう、私が中学2年で病気の宣告を受けてから、私の物を、いわば思い出を保管しておいてくれた。その時にまだ処分されずに残っていたのが小学校5,6年生の時代だったという。もっと大切な、生まれた頃からの写真などは別に保管されている。


 自分でもあれだけ絶望的なのだったのだから、それはお母さんも同じかそれ以上だったんだろう。


「坂田さんにお会いして、陽咲が変わりました。本当になんとお礼を言えばよいか分かりません」


 それは私も同じ。剛さんは私が元気でいることが恩返しだと言ってくれるけど。


「ありゃ、こんなのまで出てきたぞ?」


「えぇ? これはちょっと……」


 剛さんの歓声……に覗き込んでみると……。


「もぉ、お母さんたら……」


 懐かしいというか、ある意味赤面というか。


 赤いランドセルとは何年ぶりの再会だろう。今でこそ小学生のランドセルはカラフルなものがたくさん並んでいるけど、当時は一部の私立学校を除いて、男の子が黒で女の子が赤というのが基本色だったし。


 恐らくその箱には小学校時代の品物が集められていたのだろう。体操着やら上履きなんて代物も出てきた。


「これ、どうする?」


「うーん。困っちゃうよねぇ……」


 正直どうしようか迷ってしまう物ばかりだ。


「よし、持って帰るか」


「えぇ?」


 剛さん、本気ですか?


「だってさ、中学と高校の制服も見つかったんだし。いっそのこと全部そろえちゃえ」


「まぁ、それでもいいですけど……、なんに使うんでしょう?」


 正直、聞くだけ野暮だとは思ったけど。


「まぁ、いろいろ使えそうじゃん?」


 もぉ、剛さんの顔がにやけてる。


 で、でも25歳になってこのランドセル? ……背負えちゃうよきっと……。


「でも、陽咲って本当に身長が変わってないみたいだよな? まだ十分に着られそうだし?」


「うん、このくらいからあんまり変わってない」


 身長が150センチそこそこの私。事実小5の時から5センチしか伸びていない。そのため、当時の服が着られるのはもちろん、今の子供服のサイズは当時と同じ160でも大きめの物が多いから、十分使えてしまったり。


 持って行く箱に体操着とブルマをしまうときに思った。そうだよ、当時はまだ女子にハーフパンツは無かった。サイズを見れば160。今でも着られるよねこれ……。そんなことを思いながら、一方で、久し振りに袖を通してみたい気もしてしまった私がいた。


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