第12話 クリスマス…だけじゃない




 町中にクリスマスイルミネーションが煌めき始める頃、俺は会社帰りにいくつかのアクセサリーショップを回っていた。


 もちろん、陽咲との関係は続いていた。


 彼女との約束どおり、無理に歩みを進めていない。今も手を繋ぐまでのステップ。


 ただし、今では人前でも手を繋いで一緒に歩ける。大きな進歩だった。


 そんな陽咲には何かご褒美を渡してやりたい。


「これだけはいただけないんだよなぁ」


 問題はその日取りだ。


 よりによって、陽咲の誕生日は12月24日。つまり世間はクリスマスイブ。


 今年のイブは土曜日。本来は仕事も休みなんだけど、俺のような仕事だと年末の土日にも工事が入るのは日常茶飯事で、その日も出勤決定。


 もう数ヶ月前から、さりげなくそこには必要以上に仕事の予定を入れなかった。本当なら有給休暇を使いたいくらいだ。


 陽咲とも話をして、この日にお祝いをすると決めていた。陽咲も学校が長期休暇はアルバイトを入れるので、お互いに仕事が終わってからの時間だ。


 この時期、ケーキ屋だってクリスマス一色だから、前もって誕生日ケーキを予約しておいた。


 あとはプレゼント探しとなって困った……。


 外見が高校生のような陽咲に、何か似合う物をと探しているのだが、これがなかなか難しい。


 最初は指輪でもと思ったが、サイズも分からないし、変なプレッシャーをかけるのも嫌で何件もアクセサリーや雑貨の店を見て歩いた。





 そんな当日、俺は朝から急に入ったトラブル復旧を全力で片付けた。それでも1時間遅れの遅刻になってしまった。


 携帯メールで先に帰るように連絡しておいたにも関わらず、陽咲は駅前で俺を待っていた。


「お帰りなさい」


「寒かっただろう? 急いで帰ろう」


「えと……、ちょっとゆっくり帰りませんか?」


 俺の手を引いて、陽咲は商店街から少し離れた細い路地に進んだ。


「いつも、急ぎ足で通ってたので、こんなところがあると気が付かなかったんです」


「そうだったなぁ。こんな所あったんだな」


 普段は目立たない教会。こぢんまりとしていて、それでも中庭は丁寧に手入れがされていた。


 派手な電飾こそ無い代わりに、暖かそうなライトアップは、十分に雰囲気を味わえる。


 今日はイブだから、明日のクリスマスのミサの準備なのだろう。扉が開いていて中が見える。


「中はこんなになってるんだ」


 可愛らしい外見にも増して、教会の中は小さくても重厚さと可憐さを上手く採り入れている。


「素敵です」


 整然と並ぶ椅子の間を通り、彼女はろうそくで飾られた十字架の前まで進んだ。


「こんばんは」


 後ろから女性の声がした。


「今晩は。すみません、勝手に入って」


 声の主は恐らくこの教会のシスターだろう。初老の柔らかい物腰がこの場所とマッチしている。


「クリスマスですもの。是非いい時間をお過ごしくださいね」


 シスターは俺たち二人に、お菓子の入った小袋をくれた。子供たちに配る分の半端ですけどと笑いながら。


「あ、あの……」


「ごゆっくり」と立ち去ろうとしたシスターを突然陽咲は呼び止めた。


「いかがなさいました?」


「あ、あの……、こちらで式を挙げることは……、結婚式は出来るんですか?」


 一目で分かる。ふざけてなんかいない。いつもどおりの真っ赤な、一生懸命な顔なんだから。


「ええ。教会ですから。もちろん出来ますよ。ご覧のとおり人数はあまり入りませんけどね。お気に召されましたか?」


「はい、私の小さい頃からの夢なんです。小さな教会で式をするって……。こんな近くにあったなんて」


「もちろん、その時はお手伝いさせていただきますよ。是非、夢を叶えて下さいね。お二人に神様のご加護がありますように」


 シスターは事務所に戻り、俺たち二人が残った。


「えへへ、聞いちゃいました」


「よく聞いたなあ」


「やっぱり教会選びは大事です!」


 俺たちもいつかはぶつかる問題だと思っていたけれど、陽咲がこの時点でそこまで考えているとは正直驚きだった。


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