第21話 女子会
剣術大会から数日。二学期の二大イベントを終えた学園はやっぱりいつもより明るく感じた。
一、二年生の剣術大会の翌日には最高学年の三年生の剣術大会が開催され、剣術大好きな私は勿論、観戦しに行った。
観戦した三年生はやっぱり全然違い体力もあり、技術もあるからだと分かるけど、剣技がすごかった。
そして数多くいる参加者の中で優勝した三年生は将来国防を担う王立騎士団を希望すると発言していて、今後活躍するだろうと思った。
そしていつもの平穏な、でもやや明るい雰囲気の日常のある日、学園の敷地内を歩いていたらアロラに捕まった。
「メールディ!」
どっと背中が重くなる。多分、抱き着いているな。くっつくな、暑いし重い。
「重いからやめてよね」
「えー、ひどーい。泣いちゃうー」
「嘘泣きは結構よ」
「つまんないのー」
頬を膨らませて不満を言うアロラ。しかし、その表情から本気で不機嫌ではないのが窺える。
「それで? 何かあった?」
くっついてくるアロラを剥がし……離して問いかける。なんだろう、こんな風に声をかけてくるのは珍しい。何か仕出かしたのだろうか。
尋ねると「待ってました!」とばかりに茶色い瞳を輝かせる。
「実は女子会したくて! オーレリアちゃんと私とメルディでお話ししようよ!」
「女子会ねぇ……」
予想と違い極々普通の内容に内心驚く。
しかし、女子会か。確かにいいかもしれない。オーレリアとロイスの関係の進展も気になるし。
「いいわね。たまにはゆっくり三人でお話ししましょうか」
「よし! オーレリアちゃんには話を付けてるからオーレリアちゃんの部屋へレッツゴー!」
楽しそうに発するアロラに小さく笑い一緒にオーレリアの部屋へ歩いていく。
「お茶とかは? 用意しなくていいの?」
「いいよ。お茶もお菓子も私とオーレリアちゃんで準備したし!」
「なんか、悪いわね」
お茶もお菓子も二人が準備したとは。少し申し訳ない。
「気にしなくていいよ。メルディ、大会で疲れたでしょ? ゆっくりしなよ」
「気遣ってくれるの? ありがとう、アロラ」
「えへへー、どういたしまして」
そしてアロラと話しながら歩いているとオーレリアの部屋へたどり着いた。
「オーレリアちゃん、私。メルディ連れて来たよ」
「はい、今開けますね」
そしてガチャと音がするとオーレリアがニコリと微笑んでくる。
「ささっ、中にどうぞ」
「お邪魔するわね」
一言告げてオーレリアの部屋に入ると、部屋に甘い匂いがして立ち止まる。
テーブルには形とりどり、味とりどりのクッキーがお皿の上に並んでいる。
「メルディほら早く座って座って」
「何?
「いーからいーから」
そう言ってアロラが椅子に座らせる。目の前には香り高い紅茶と丸や正方形、ハートや星の形のクッキーにバタークッキーらしきものやアーモンドクッキー、チョコチップクッキーなどがある。
「よし! 主役が揃ったことで祝賀会を始めましょう!」
「祝賀会?」
突然のアロラの発言に反芻する。なんの祝賀会だろう。
「本人が気付いていないようなので言いますと、メルディの剣術大会準優勝を祝う会でーす!」
「私の?」
「はい!」
呆気にとられて尋ねるとオーレリアが元気に返事して頷く。
「優勝は惜しくもダメでしたが二位になったメルディアナ様を祝いたくて……。それで、アロラ様に相談したら祝賀会を提案してくれて」
オーレリアの言葉にアロラの方を見る。すると、えっへんと得意げな態度をする。
「メルディがユーグリフト様に勝って優勝を目指してたのは知ってたけど、頑張ってたからね。だから提案したんだ」
「クッキーは手作りで作ったんです。メルディアナ様がお菓子の中でもクッキーが一番好きとアロラ様が教えてくれたので」
「二人が……」
二人の言葉に胸がいっぱいになる。まさか、こんな伏兵があるとは。
ふいの出来事に涙腺が緩くなる。こんな突然の奇襲、ズルい。
「剣術大会お疲れさまでした、メルディアナ様」
「お疲れ! さぁさぁ、食べよ食べよ!」
「二人とも……、ありがとう」
ニコッと笑って感謝の言葉を述べる。泣くのは少し恥ずかしいので笑って誤魔化す。
「オーレリア、クッキー作れるのね。すごいわ」
「いえ、そんな。お店の味とは遠く及びませんが……」
「大事なのは気持ちよ。いただくね」
そして一つ、花の形をしたクッキーを口に含む。このクッキーはチーズを使ったクッキーで普通においしい。
「うん、おいしい」
「ほ、本当ですか? よかったぁ……」
おいしいと告げると安心した表情を浮かべるオーレリア。もう一個手に取って食べると、今度はココナッツクッキーだ。
「種類豊富ね」
「全部で六種類です。バター・アーモンド・ココナッツ・チーズ・チョコチップ・マーブルです。つい、作り過ぎちゃって……」
「大変だったでしょう?」
「いえ、大変より楽しい気持ちが強かったです!」
なんと、大変より楽しいとは。お菓子作り出来るとは器用だなと思う。
ちなみに私は出来ない。数回料理をしたことあるけど不得意だったのが判明し、その時はいつもの負けず嫌いが発動して何度もチャレンジしたけどことごとく失敗したので諦めた。
以降、ザックザックと食材を切ったらその先は公爵家の使用人に任すようにしている。私、どうもあの熱調整とかが苦手なんだよね。
チーズとココナッツを食べたので他の四種類を一個ずつ食べてみる。どれもおいしい。いいなぁ、自分で作れて。羨ましいなと思う。
「オーレリアってお菓子作るの上手ね」
「小さい頃からお菓子が好きで自分でもよく作ってたんです。生地から完成するまでの工程を見るのが楽しくて」
「私も食べて普通においしいって思ったよ」
「それなら作ってよかったです」
ふふ、と笑うオーレリアは愛らしく見える。これは知ったら男子にモテるな。
「ありがとう、二人とも。私のために計画立ててくれて」
「友達だもん。当然だよ」
「はい。お友達ですから」
ありがとう、と述べるとニコニコしながらそう返される。胸の中が温かくなる。
「それにしてもメルディが剣術嗜んでいたのは知ってたけどまさか決勝戦まで進むなんて。びっくりしたよ」
「私もです。自分より背が高くて体格がしっかりしている異性を次々と倒していく姿は本当にすごかったです」
「確かに力では差があれど、他で補えば十分戦えるのよ」
「へぇ……」
「まだ秘密だけど、メルディは騎士を目指してるからねー。だから頑張ってるんだよ」
「え。そうなんですか!?」
アロラがのほほんとした口調で告げた内容にオーレリアが驚いて私を見る。なので肯定の意を示して頷く。
「
「そ、そうなんですか……。道理でお強いんですね」
「まぁね」
感心したように呟くオーレリア。生家が辺境伯家なので騎士は近い存在だと思う。なので驚いても納得したような様子を見せる。
「でもあの大会でメルディにアプローチする異性減ったんじゃない? まさか“非の打ちどころのない令嬢”と呼ばれてる公爵令嬢がバリバリの武闘派だったからねー」
明るく笑いながらアロラがそう尋ねてくる。確かに剣術大会以降、異性に話しかけられたり、アプローチのようなものは減ったと思う。
しかし、今度は別問題が発生した。
「そう思うでしょう? だけど違ったのよね」
「え?」
「今度は騎士一族から声かけられるようになったのよ……」
机に拳を置いて告げる。そう、新たな問題はこれだ。
家柄・容姿・血筋しか見ていなかった子息たちからは確かに声かけは減ったが今度は帯剣貴族である騎士一族の子息たちが現れた。
中には純粋に先日の剣術大会の腕を見て話しかけてくれる子もいるが、アプローチしてくる相手もいる。いや、なんでさ。
「そういえば、同じ辺境伯の先輩が言ってました。中央貴族にもあんな強い令嬢がいるなんて、と」
「えええ……。そんな話出てたの?」
「はい。皆すごいって言ってましたよ」
「ふぅん」
あーあ、あの大会でお淑やかじゃないって思って少しは引いてくれると思ってたのに……予想外で残念だ。
「大変だねー」
「アロラ、他人事に思ってるのバレバレよ」
「あはははー」
笑いながら誤魔化すアロラ。しかし、私は誤魔化されんぞ。
「まぁ、来月中旬には創立祭があるからね。囲まれるだろうけど頑張れ。ご苦労さん」
「労わないでよ」
先にポンポンと右手で肩を叩いて左手で親指を立てて労ってくる。この様子、自分は完全に他人事だと思ってるな。いや、そうだろうけど。
溜め息吐くのを抑えて代わりに頬杖をする。それにしても創立祭か。確かにもうすぐだ。
創立祭は名前のとおり学園設立を祝う祭だ。生徒は全員参加で、パーティーを楽しむ学園一盛り上がるイベントだ。
「二人は? ドレス決めたの?」
「決まってるよ。私はライトグリーンのドレスにするつもり!」
「私はまだ……。その、どんなドレスがいいのか分からなくて……」
「別にどんなドレスでもいいのよ。創立祭って言っても学生と教職員限定だし、学園内のパーティーだから」
「そうなんですか……?」
不安そうにするオーレリアにそう助言する。他家のパーティーや王家主催の夜会と違い、学生が楽しむイベントだ。
その一例として、創立祭のみ特別に女子生徒から男子生徒にダンスを申し込むのも許される。なのでロイスとか人気の貴公子たちは大変だ。きっと女子たちに群がられるだろう。御愁傷様だ。
「メルディは? どんなドレスにするの?」
「まだはっきりとは決まってないわ。候補は数着あるけど」
創立祭の日は生徒は一度王都の屋敷に戻り、そこでパーティー用の衣装に着替えて馬車で学園に向かう。なので当日は大行列なので気を付ける必要がある。
そして馬車以外にも気を付けることがあるのでオーレリアに訪ねてみる。
「オーレリア、ダンスは出来る? 多分、ダンスの時間が長いと思うけど」
「い、一応出来ますがそんなに得意では……。王都のダンスは動きが早いんですか……?」
「曲次第ね。でもヒールは履き慣れたものがいいわ。足を痛めるからね」
「な、なんか緊張してきました……」
そう言って不安そうに呟く。不安にさせるつもりはなかったんだけど、初めて王都に来て初めて参加する王都(正確には学園)のパーティーに緊張しているらしい。
「それなら私がダンス教えるわよ?」
「えっ?」
さらりと提案すると驚いた様子で瞠目してくる。
「私、男性パートも踊れるから教えること出来るけど。どうする?」
ってか昔、男性パートでアロラのダンスの相手をしていたからなぁ。アロラがステファンと婚約する前だけど。
「その場合は私の屋敷かオーレリアの屋敷になるけど……」
「そ、そんな! メルディアナ様のお屋敷なんて恐れ多いです! そ、それにメルディアナ様に迷惑かけるし……」
「迷惑なんて思わないわ。友人だもの、困ったらお互い様よ」
遠慮するオーレリアにはっきりと言う。友人なのだから別に構わないのに。
「でも……」
「オーレリアちゃん、もしかして練習頼める男の子とかいるの?」
「そうなの!?」
オーレリアの質問に食いついて尋ねる。まさか、頼める異性がいるだと!? 私の調査不足!? そんな、計画が……。
「そ、そんな! いませんよ! 異性とお話しするのにも緊張するのに……」
するとオーレリアが恥ずかしそうに否定する。その表情から嘘ついているように見えない。……ほっ、よかった。とりあえず一安心、一安心。
「ならやっぱりメルディに相手してもらったら? メルディ、男性パートも上手なんだよ。私も昔ダンスの練習相手してもらったし」
アロラの後押しにうんうんと頷く。女子の中で比較的身長高いため男性パートも普通に踊ることが出来る。
「オーレリア。オーレリアが私のためにクッキー焼いてくれたように、私もオーレリアの力になりたいだけよ。だから、不安なら頼ってくれていいのよ」
「メルディアナ様……」
不安そうにこちらを見るオーレリア。
実際、昔はアロラ以外にも母の親友の娘のダンスの相手もしたことがあるくらいだ。男性パートは私にお任せあれ。
そして数秒迷った素振りを見せた後、小さな声で頼んでくる。
「……それじゃあ、お世話になってもいいですか……?」
「勿論。練習したら不安も和らぐだろうし任せて」
「すみません、いつも頼ってしまって……」
「いいのよ。友人じゃない」
「そうだよ、じゃんじゃん頼ればいいよー」
「アロラ様、ダメですよそんなの!」
気にしなくていいと笑うと安心したのか、オーレリアもほっと表情を和らげる。オーレリアの頼み事なんてかわいいものだ。これがアロラならきっと面倒なこと頼んでくる。この反応からお判りいただけるだろう。
「あとは場所だけど私の屋敷かオーレリアの屋敷、どっちがいい?」
「私の屋敷でお願いします!!」
そして練習場所を聞くと即答で返された。そっか、別に構わないのに。
しかし、これは断固オーレリアが譲らず、結果オーレリアの屋敷でダンスの練習相手をすることが決まった。ううむ、別に公爵邸でもいいのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます