EPISODE6 『なんか苦くて……。ちょっと鉄っぽいかも……』
シカクから落ちてきたソレを少し分けてもらって、まじまじと眺める。ボクの場合、口に含んでみないと、細かいことは全然わからない。だけど、なんでかわからないけど、このソレはシカクから情報を聞く前から、なんとなく『主張が激しそう』だという感じがした。で、案の定、『主張が激しい』らしいんだけども。
「いただきまぁす……」
挨拶を声にしたものの、あまり乗り気のしないまま、口へとソレを運ぶ。もぐっ、もぐっ、と咀嚼して意識をソレに集中させる。すると、乗り気のしなかった理由がそこで初めてわかった。
「うっわー……、なにこれ、にっがーい……!」
口の中に広がった苦みは、本当に強かった。薬草? 薬? 他にもいろんな山菜・野菜や、魚貝類の肝の類などを思い返してみる。だけど、どれもこれだ!っていうしっくり来るものが無くて、強いて言うなら近いと思ったのは人工的に制作された苦み成分だと思った。小さい子が誤飲しないように、着せ替え人形の靴のような小さな部品につけられている、あの独特な苦み。
「苦い? どういう感じの苦さなの?」
ショッカクが聞いてくるので意識をソレに集中させたまま、なんの味かを必死に伝える。
「小さい子が誤飲しないように、着せ替え人形の靴みたいな小さな部品が、苦み成分付けられているでしょ? あの独特な苦みに近いと思う」
ものすごく苦いソレの咀嚼をようやく終えて、何とかゴクリ、と飲み込んだ。同時に、他の事にも気が付く。
「なんていうか、鉄? 苦さのほかに、ちょっと鉄っぽさがある」
これで五人の意見が出そろった。あとはアノコの所に持って行って、各々が感じたことをアノコに伝える。
アノコの家へと向かう途中、珍しくフゥロが一人、丘の上でぼーっと空を見上げていた。
「あ! フゥロー!」
ボクが声をかけるとその声でこちらに気が付いたのか、フゥロはボクらに向かって会釈をした。
「アノコ、今家にいるー?」
フゥロに近寄りながら聞くと、フゥロは黙って丘の上の方を指さした。ボクらが揃ってそちらを見ると、アノコがちょうど一つ、ソレを空に向かって掲げていた。
「キミはもう一度、戻る時が来たんだよ」
優しくソレに声をかけるアノコ。ソレもアノコの声に反応するかのように、ゆっくりと空へと昇っていく。
「大丈夫。キミが捨てちゃったとしても、ボクが必ず拾っておくからね」
アノコの声がソレを押し上げる。少し勢いづいたソレは、やがて空の中に溶けていった。
「アノコー。おつかれー。」
その様子を見届けたボクらはアノコに声をかける。アノコはこちらを見て、それからシカクの腕に抱えられているソレを見て、『あぁ』と呟いた。
「みんな、ありがとう! 今日のソレ、どんな感じだった?」
その言葉に、僕らは一斉に同じ言葉を強めに伝える。
「「「「「主張が激しい!」」」」」
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