EPISODE3 『あっつ! 痛いし、なにこれ!?』

 珍しくキュウカクが一人、ボクの家に来た。落ちてきたソレをこの家の近くで見つけたから見てほしい、と腕に抱えたソレをオレの方に渡そうとしてくる。正直、玄関を開ける前からなんか変な熱気を感じていて、玄関を開けた途端にその温度が高くなった気がしたから、このソレに触るのはあまり気が進まなかった。……とはいえ、アノコに報告するには触るしかないから覚悟を決めるしかないんだけど。


 嫌な予感がすることをキュウカクに伝えると、キュウカクがソレを抱えたままいてくれることになった。恐る恐る、腕を伸ばしてソレに触れ、た。途端手に感じられた、信じられないくらいの熱さ。

 「……あっつ!てか、痛いし!!」

 熱すぎて、逆に触って数秒、熱いってことに気が付けないレベルだった。これ火傷する時の感覚に近い!


 それに触って痛いのも当然だ。棘の塊みたいな見た目、どこを持っても刺されそうな針山のようなソレは、ボクにとってはもう触れる代物じゃなかった。

 「これ、凄い過激な主張な気がするんだけど……!!」

 思わずそうこぼすと、キュウカクも『ですよね……』と同意を示した。

 「オレもかなり離れた距離でこのソレの匂いがわかるくらいだったんで、もしかしたら、とは思ったんですけど……」

 でも、とキュウカクは続ける。

 「感覚の違いで、他のみんなは大丈夫な場合も多いじゃないですか?」

 「確かに。でもこのソレに対しては、ボクもキュウカクもかなり強い主張、って意見は一致ってことだな」

 「ですね」


 アノコに見せるには残りのみんなの意見も必要になってくる。次は誰の元へ行こうかとキュウカクと二人、頭を悩ませる。

 「このソレの主張がどれくらい強いのか、もう少し様子を見たい気もしますよね」

 「だね。そうなると万が一のことも考えて、チョウカクは最後の方が良いと思う。もし主張が強いってなったら、ずっと調子悪くなっちゃいそうだからさ。……ってなると、シカクかミカクなんだよなぁ」

 「お二人の家って、ここからどっちの方が近いんでしたっけ?」

 「……変わらないくらいだった気がする」

 「なるほど……」


 悩みに悩んで、とりあえずシカクに先に話を聞きに行くという方向で話がまとまって、ボクとキュウカクは揃ってシカクの家へと歩き始めた。それなのにその道中、一番鉢合わせを避けたかったチョウカクがいた。

 「おい、さっきからすごく強い音がするんだ。お前らがこっちに来るのに合わせて音がデカくなってた。お前ら持ってるの、ソレだよな? 今日のソレ、結構ヤバいのか?」

 矢継ぎ早に確認してくるチョウカクは、いつもよりしかめっ面が酷かった。まだヘッドホンを外していないのにこの様子だと、本当にヤバい気がする。


 「……このソレ、いつもより結構主張が激しいんですよ」

 キュウカクが説明を始める。

 「オレ、かなり離れた場所から匂いをかぎ取れるレベルでしたし」

 「ボクもこのソレ、熱いし痛いし絶対持てない」

 キュウカクの説明に同乗してボクのソレへの感想も伝える。

 「だから本当は、チョウカクを最後にした方が良いんじゃないかって思って、これからシカクの所へ向かう予定だったんだ」

 「チョウカクさんの負担が大きくなる良くないかなって話していたんです」

 「……なるほどな。なんかわりぃな、気使わせて。」

 「いや、そんなことないよ。苦手なものや辛いことはみんなあるんだし。それに、もしかしたらチョウカクだけ大丈夫、って可能性も無い訳じゃ無かったわけだし」

 「……まぁ、ダメだったけどな、完全に」


 チョウカクがヘッドホンに手をやってスイッチを切る。

 「でも、ちゃんと感覚使って聞き取らないと、アノコに伝えられないからな」

 その言葉に、少し間をおいてからボクもキュウカクも揃って頷いた。チョウカクのこういうところは、本当にすごいと思う。

 「キュウカク、ちょっとソレ貸してくれ」

 そう言ってキュウカクの持つソレに手を伸ばしたチョウカク。キュウカクはその手に、主張の激しいソレを渡した。

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