EPISODE2 『メントールみたいな強い匂いですね!』

 落ちてくるソレは、時にものすごく主張が激しいものがある。今日の落ちてきたソレも主張の激しい類のもので、オレはたまたま近くを通りがかっただけなのに、微かにソレの香りを嗅ぎ取ったんだ。


 「なんの香りだっけ、これ」

 まだ見つけられてない、しかし近くに確実に落ちているであろう、ソレを探しながらオレは考えた。この香り、意外と身近にある香りだった気がする。それにしても、今回のソレはまだ集中もしていないのにこれだけ嗅ぎ取れるっていう時点で、かなりの主張があるってことだ。


 「お、ここ……?」

 少し外れの草原の奥。背の高くなっている雑草の中、どんどんソレの香りが近くなっていく。今回のソレは変なところに落ちたなぁ、とぼんやり思う。ソレは基本的に、もう少しわかりやすいところに落ちてくることが多いと思っている。一番わかりやすいのは、なんでかショッカクさんの目の前に落ちるパターン。


 とはいえ、ここまで主張が強ければ探すのもそこまで苦じゃない。香りを頼りに草をかき分けて進めば案の定、そこに落ちてきたソレを見つけた。顔を近づける前から香る香りはやっぱり結構強いもので。でも一応、アノコさんに伝えるためにも、と思い、落ちてきたソレを抱えて顔を近づけた。


 「わっ!」

 鼻で息を吸い込んだとたん、突き抜ける様な香りが鼻いっぱいに広がる。なんで今の今まで気がつかなかったんだ、こんなの簡単じゃないか。

 「メントール、の香りだぁ……!」

 強くてまっすぐ、迷いのない香りだと思った。思いっきり吸い込んだからか、鼻がスースーしている。っていうか、この間のソレの時もだったけど、このソレも主張が激しすぎて最早鼻が痛すぎる。こんなに匂いが強いと、好みを選ぶんじゃないかって言うレベルを超越している強烈さ。


 「んー、どうしようかな……」

 とりあえずこのソレ、他のみんなにも見てもらわないとな、と思い、みんなの顔を思い浮かべる。この近くに住んでいるのはショッカクさんだから、順番でショッカクさんから尋ねれば良いかな。


 オレは落ちてきたソレを抱えて、背の高い雑草の道を潜り抜けると、ショッカクさんの家を目指して歩き出す。ショッカクさんの家は触り心地の良いモノや、変わった感触のするものまで色々なモノが置いてある。まぁ、各々の家、自分たちの鋭い感覚を生かしたこだわりの家になっているんだけど。


 ショッカクさんの玄関の前、チャイムを鳴らして声をかける。

 「ショッカクさーん!いますかー?」

 すると中から『いるよー、キュウカクであってるー?』と声が聞こえる。

 「あってまーす!」

 そう返事を返せば『少し待って!』と返事があった後、ばたばたという音と共に玄関が開き、中からショッカクさんが顔を出した。

 「お待たせ。どしたの?」

 「いつものです。落ちてきたソレを見つけたので。ショッカクさんの家が一番近かったので、とりあえず一番初めに見てもらおうと思って」


 そう言ってオレはショッカクさんにさっき見つけたソレを渡そうとした。するとショッカクさんはソレを見て『やっぱり、これ……?』と眉を顰める。

 「なんかすでに熱そうなんだけど。このソレ。出来るなら触りたくないわー……」

 どうやらショッカクさんからしても、このソレはかなり主張が激しいようだった。

 「あ、そしたらオレが抱えてるんで、持たなくて大丈夫ですよ」

 「ん、ごめん。今回はそうしていい?なんかすごい嫌予感がする……」

 そう言ってショッカクさんはオレの腕に抱えられているソレに触れた……と、思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る