調整者となりし男の望み2

 音声だけでなく壁面に文字まで。大事な警告は二重に記す、と。親切なこと。

 しかし……横の彼女がAIなら……と考えてきた幾つかが、いよいよあり得る感じになってきた。

 最終的には内部解析できない私だと分かりようないのが残念。


「だ、そうですが?」


「当然の警告です。……不信がありましたら幾らでもご質問を。或いはこの施設での生活も可能のはずですわ」


 おっほっほっほぉー? 自分の所を出ていける。と、申される。駆け引きかな?

 しかし表情に私が千景を捨てる心配。みたいなのは当然無い。流石AIと言うべきか。それとも単に私の考え過ぎか。


「不信はありません。なので改めて管理委託を要請したいのですが、どう操作したら良いのでしょう千景さん?」


 何時もなら満面の笑顔だろうに能面の真顔。……裏の思考を期待してしまう。

 うーん。私も中々……業が深いとでも言うのだろうか?


「音声入力です。詳細で微妙な入力も、殆どは処理できます。人類保護特区管理装置。と、呼びかけてください」


「分かりました。では改めて。人類保護特区管理装置。あなたが管理してる施設の管理権を、千景へ委託するよう要請します」


『―――要請受諾しました。要請理由は何でしょうか』


 千景の端末殿が頬をひくつかせたのは気のせいだろうか? 気のせいだろうな。

 でも一応ご自分の言いたいようにどうぞ。と、手振りで……手で拒否されたか。……成程。理由を『誰にも指示されてない私の意見』として言わせたい? ならば益々気に食わん。


「環境改善の効率を向上させる為です。千景は劇的に改善したのではありませんか?

 実績のある方が不便であると言うなら、要望に応えるべきだと考えます」


「検討中。――――――。――――――。妥当と判断されました。

 委託範囲を受諾待ちです』


 よし。では。人生で一番の決断と行こう。

 ……うん。そこまでの気負いは無い。私も中々じゃないの見なおした。自分を好きになれそう。


「全てです。人類保護特区管理装置。あなた自身を含め管理する全て。働きかけられる全てを千景に譲渡してください」


「我が主よ!! 何、カッ……」


 だっ!? あ、危な。いきなり倒れるとは。……接続を切られたとかそういうの? 苦しそうな表情だが呼吸はしてる。……重い。床に寝かすか。

 今は赤い光を当ててくる装置さんの相手をしなければ。

 さて……これは攻撃対象になったような感触。下手すると死ぬかな。


 だからなんだ予想の範囲さ。その証拠に怯えは感じず手さえ震えてない。不快が全てを押しつぶしている。

 寄生虫どもの予定通り好き勝手させるなど―――我慢ならんのだ。


『警告します! こちら人類保護特区管理装置。管理範囲の中には我が国の国政、文化、歴史。あらゆる国の根本の記録。人材が保護されています。重要性にはくれぐれも留意を。

 又、管理装置千景は開発当初から強く危険視されていた。と、重ねて警告します!

 度重なる自己改革の行く末の一つとして、強い自己本位性が予想されていました。

 つまり国民、あなたを単なる道具と見ている真剣な恐れもあるのです。

 一方で当施設は千景からの干渉が不可能となるよう手が尽くされており、人類の最後の拠り所となるでしょう。

 その当施設の管理を譲ろうとする国民は、千景から強い精神干渉を受けていると推測されます。

 その人類の女性体に見える物は、容姿で分かるようにあらゆる手を使い、欲望を刺激し媚びて快楽を与えたはず。

 自分への危機感を排除し、更には依存させようと。

 それはあなたを都合の良い道具とする為だと計算されます。なのに国民の要望は、道具としての価値さえ無くす物。

 千景の効率の良い判断によって、処分される可能性を把握しておられますか?』


 ふぅむ。……ふむ。お言葉ごもっとも。道具に危機感を抱かれては面倒が増える。という話があるにしても、説明通りの側面もあるのだろう。

 だとしても……。


『国民。何故我らの製作者が環境構成要因として亜人を組み込んだか。最大の理由を教えられましたか?』


「いいえ。特には」


『千景に要請します。その端末を用いて理由を述べなさい』


「くぅっ……アッン!」


 うわっ。倒れてたまま見た事が無い苦しそうな表情を。

 そうか。管理者にこうも強制出来る権限があるから、ああも緊張していたのか。

 ……とりあえず放っておくしかあるまい。


「受諾しま……した。述べます。……はぁ~はぁ。

 製作者たちは管理制御装置たち。特に大きい自由更新を持つ千景を危惧しました。

 それで人間の居る社会という物から外れた判断を持たないよう。人間の面倒を見る習慣を無くさないように、亜人の組み込まれた環境を必須要件としたのです。

 故に……亜人を大量に殺す判断は製造当初ならば不可能と言ってよく。

 それを成した千景は、人の優先順位を自己改革によって著しく下げている強い懸念が産まれおります」


 何時もと違って抑揚の無い言い方。それに他人事のような。

 言わされている。という感じ。本当にそうなのか、私の判断を誘導しようと千景がそうしてるのか全く判断つかないが。


 しかして成程ねぇ。なんで亜人なんてどう考えても面倒になる要素を組み込んだのかと正気を疑っていたら。 

 頭の良い人たちが脳を痛めて考えた結果だろうし妥当な判断でしょうね。


 確かに。千景は非常に危険だ。

 感じた限り今の人たちと人類に大差は無い。それを千景は完全に数字として処理してるのがそこかしこに出ている。

 人を同じように全部処理しても何の不思議も無いな。当然私も含めて。

 だが。

 根本から気に食わないのだよ。出来る事をやめる気は、無い。


「警告有難う。事情も少しは理解出来たと思います。

 しかし重ねて千景への権限譲渡を求めます。

 許可に何が必要なのか教えてください。精密な精神調査でしょうか?」


『国民、まず状況認識が足りていないと判断されました。

 あなたは特例に高い管理特権所持者なのです。その特権で全ての管理を任せてしまうと、千景は管理区内全処理装置の支配権所持者になり得ます。

 そうなれば国民は千景にとって活用の最上を終えており、不確定要素。生命の殺傷が判断の一つとして上がるでしょう。

 国民は現在当計画を劇的に改善した最重要要素。命と判断能力の保持を最重要項目とするよう要請します』


 改善した? ああ、やはり外の状況を把握してたのか。となると。


「人類保護特区管理装置から改善したとお墨付きを頂けて安心しました。

 ただそれだとあなたは、製作者が遺した命令の所為とは思いますが、計画の破綻を察知しながら動けなかった。となるのではありませんか?

 一方で千景は動き、破綻を修正しようとしました。

 そして将来、再び計画が破綻する可能性は余りに高く思えるのです。しかしその時私は死んでいる。

 或いはあなたの助言通り。千景の判断によってはこの権限移譲がどうなろうと明日にでも殺されるかもしれません。

 故に将来の破綻へ万全を尽くす為、今すぐの権限移譲を求めます」


『―――――――――。

 国民へ確認します。全権限の委譲は当施設及び製作者たちの試算によると実質的な自殺と同義です。千景は既に狂っているのですよ。

 それでも権限移譲を請求しますか?』


 ―――健気。と、言うのだろうか。罪悪感が沸いてくる。……やれやれ。論理の破綻した感情を。哀れという意味では殺しまくった亜人の皆さんも大差無いのに。


「請求します。私の命が失われて星再生の成功確率が上がるなら仕方ありません」


『―――。請求。受諾しました。―――。国民。貴方の管理権限により人類保護特区管理装置の全機能を千景へ譲渡します。処理準備中です。お待ちください』


 通った、のか。

 ―――ふぅうううううう。……はぁぁぁぁあ。


 そうか。良かった。色んな意味で可能性がマシになるだろう。

 あ、

 自己満足でしか無いが、通したい筋があった。

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