調整者となりし男の望み1

 人っ子一人居ない王都も良い景色。王城も変わらず立派。

 ……今までも何回か思ったが、微妙に和風を感じる。そんな所も継承させたのかね。服装も和雰囲気の服をしょっちゅう見たし。

 気温が高い所為で薄着なのと動きやすさの為かズボンが基本で、素材に恐竜の皮が使われてるという差異はあるけど。


 さて。本当に人居ないのかな? 雲に近いここからだと無人に見える。でも……、

「旦那様。人が居れば処理致したいので、権限をお貸し頂いても?」


「どうぞ。地下に隠れた生き残りでも探すのかな?」


「英明であらせられます。では復唱頂きたく存じますわ。

 区画一の一にて簡易調査、及び処置三権限を略式譲渡」


 何度かした権限委託とやららしい言葉。しかし調査? ここでは調査が出来ないと? だから何という訳では無いけども……。


「区画一の一にて簡易調査、及び処置三権限を略式譲渡」


「―――。処置三実行いたします。……終わりました。参りましょう」


 で、向かうのは……何か、ド真面目そうな立派な建物。……鳥居がある。神社?

 おぉ。躊躇わず中に入りなさる。まぁ、前の時代から生きてると主張するなら、周りに合わせる以外で敬意を示す理由は無いか。


 ……あれ? 更に躊躇い無く何故か内開きのどんどん古臭くなる扉をバシンバシン開けられますが。これ地下に降りてない?

 あ、行き止まり。やたら平たい壁だ。これ……岩か?


「……以後、我が主と申し上げます。どうかこちらへ手を」


 呼び名はお好きにどうぞ。だけども……。壁に手って。え。もしかして。


『照会、完了致しました。人種、国民率規定値を満たしております。ようこそ』


 壁が、開く。ほぉ。ほぉほぉほぉ。これは中々、鼓動が早くなる。もしかして、

 やはり。長い通路。そして建築様式が暮らしてる建物と同じ。こうなると我が主と呼ぶのにも意味がありそう。言葉遣い戻しておくか。


 さぁて。願いが出るのか。妄執が出るのか。……。その二つじゃ一緒だな。

 いや、やはりこちらを観察してた人たちが居て挨拶する羽目になるのかも。……ま、その時は色々な恥を笑って済まそう。


 そして……。隣の美女が管理してる建物内に在る。と、思っていた『物』。それが此処に在るのではなかろうか。

 これは―――心に力を入れておこう。


「我が主は随分お喜びですわね。驚きも薄く余裕がおありでご立派です」


 驚いて無かったかな? しかし余裕という意味なら、

「私としてはあなたが緊張してるように見えるのが心配ですよ。危ないんですかここ?

 ようこそと言われたので暴れない限り安全と期待してるのですが」


 何時もハシタナイ恰好の方が今日はパンツスーツ姿。朝から感じてはいたが、何か身構えておられる。体型丸出しのだからハシタナイっちゃハシタナイままだが。


「安全、ではありますわ。特に主なら。しもべも死にはしないはずですが……此処では制約が大きいのです」


「あら怖い。なら忠告をよろしくお願いします。出来る限り慎重にしましょう。それで、案内はして頂けるんですか?」


「はい。中央管理装置までご案内します」


 何とも素敵な場所の名前。んーむ。そんな場所があるなら……いよいよ彼女が今までしてくれた自己紹介が、九割以上本当と認めることになりそう。


 スタスタと廊下を通り、階段を降り。扉を抜けて……おぉ。起こされた部屋そっくり。違いは……中央に台座と複数のキーボードらしき物。何か我が家より技術的に古い感じがする。成程。


『国民選別基準を満たす人類の入室を確認しました。現在第一人類保護特区及び統括処理施設は休眠状態。

 居住を望まれる場合、入室扉正面。台座で採血による資格判断が必要となります』


 人類、保護特区、と言ったか? ―――凄まじく不快な名前を。が、今は壁から聞こえたのと同じ機械音声へ従うのが先。嫁も手でうながしてる。

 さて採血というけど……手を置けとばかりに手形が。うん、チクッとした。

 DNA検査? となると……この体大丈夫なのだろうか?


『検査開始します。―――。管理者登録発見出来ず。続いて緊急判断例外事項により居住資格基準の調査を開始します。―――。第三世代基準超過。第十世代超過。第二十世代超過。起動基準満たしました。―――。第五十世代超過。――――――。第百世代。超過。―――――――――。測定限界。超過しました。例外特記事項の判定。

 例外特記の解凍作業を行います。国民はそのままお待ちください』


 おお……国民としての世代が重要なのか。それに何とも仰々しい。お陰で少し緊張してる、な。軟弱で悲しいねぇ。

 一方で嫁さんは凄い。判定を通りやがった。


「改めてあなたの有能さに感じ入ってます。つーかおったまげてます」


 おや? 自慢気だろうと思ったのにこちらを伺うような顔。意思が齟齬ってそう。


「何がですの? こちらこそ想定を遥かに越えた、百世代以上の国民でしたなんて震えております。ご存知でしたの?」


「はぁ。しかしこの国が滅んだ時から見てでしょう。なら私の世代ではそんな珍しくも無い……でしょう多分。それより―――。いや、何でもありません」


 今は聴かない方が良いかもしれない。


『解析、判断終了しました。貴方を超純血国民と認証。仮居住を許可します。しかし当施設の居住以上、管理なされるには権限委託で軽度の問題が発生中。

 望まれる場合、音声による質疑応答が必要となります』


 何かやらかしたか。……此処へ来たのは当然施設を使う為だろう。一度外に出て嫁さんの意見を聞きたい所ではある。しかし――――――。

 やはり嫁さんは何も言わない。ならば。


「居住以上を望みます。質問をください」


『受諾しました。では手を同じ場所に置いて返答してください。

 貴方は惑星再生計画発生以前の国民と判断されています。どのような経緯でこの施設に来られましたか? 又目的は?』


 弁論での返答に加えて手を態々置かせる? ……横の美女みたいな虚偽判断かな。

 元から咄嗟の嘘でこういう金掛かった施設のセキュリティを突破出来る訳も無し。正直に答えるしかあるまい。


「私は不治の病に掛かり冷凍催眠の治験を受けました。目を覚ましたのは五年前になります。その時、今も横に居る女性が管理AI千景の生体端末であるとの挨拶と援助を。

 この施設へ来たのは彼女に連れられてです。目的は聞いておらず分かりません。このような施設自体が興味深い為、来て良かったとは思っています」


『あなたは目が覚めてから自分以外に人。特に同じ国の人物と会いましたか?』


「横の彼女が人でないなら、誰とも会っていません』


『あなたにとって最も重要な国は何処でしょう。又その理由は?』


「勿論、この国です。もう私以外に人が居ないとして、それでも残っていると言えればですが。理由は……勿体ないから。ですかね。

 地理的に孤立していたお陰か、珍しい風習を世界最古の国となるまで積み上げられ、面白い物が多くある史上最も貴重な国だと思っています」


 ぜーーーんぶ吹き飛んでしまったが、文化的なデータは残ってたからな。あれは残したい。将来人が存在し。だれか見つけたら大喜びしてくれるはずだ。皆が喜べる物は幸せを増やす。星にとっても良い。……と、思いたいなぁ。


『あなたは横に立っている物が、人間ではなく環境管理処理装置千景の端末であると判断していますか?』


「今も半信半疑です。横に立たれている方が若く見えるのに反して異様に老獪とは思うのですが、私の時代の技術では人間としか思えない端末なんて夢物語でしたので。

 一番在りそうに感じるのは何処かに人が。特にこの施設の地下にでも人が居て、その方々が彼女に指示してる。というものになります。

 答えられるのなら教えて欲しいのですが、違うのでしょうか?」


『お答えします。現在当施設。及び管理範囲に人類の活動は確認出来ません。

 その横に立っている物も人ではありません』


「了解しました。横の千景さんが管理知能の端末ということもです」


『―――。質疑応答が終了しました。現状の例外性と超純血国民かつ知能、精神障害の安全基準値を満たしました。

 あなたへ人類保護特区の管理権限を付与します』


 ふぅううううぅ……おぉ、勝手に息が。なんやかんや緊張してたか。


「ここまでは順調ですか千景さん。次は何を?」


「順調ですわ。……次は。地上施設の管理を千景に委託して頂きたいのです」


 ほ、ぉ!? 壁に光が……ディスプレイになった? 枠が赤くて不吉、

『国民へ警告します。当処理装置と千景の接続は長期間断たれていました。よって千景の状態を未把握です。

 管理処理装置千景は自己変化型の処理装置。国民の知識水準が判定不能の為、不正確な説明のみになりますが、現在の千景の判断基準を計画最終段階の人類は推測出来ておりません。

 非常に危険です。用い方には十分な注意が必要です』

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