チエテの関の戦い
祈りや願いで獣の群れが止まるわけも無く。
王都へ続く砦が全て落ちたとの報告が届き、必死の避難と戦いの準備が始まった。
そして王コブラ・ジルがついに隣街が滅んだと報せを受け、兵を連れて最後の壁となるチエテの関へ到着したのは昨日である。
一夜休んで朝となり、数日あるはずの余裕をどう使うかと軍議を開き。諸々の確認をしている時に―――鐘が鳴った。
尋常では無い鳴り方だった。誰もが立ち上がり、軍議場前の鐘を鳴らして詳細の報告を待つと壁の上から聞こえてきたのは、
『林の中に巨大な獣確認! 王竜と予想! かつて此処まで巨大な獣を見た事在らず!!』
何も言わず王が階段へ走り護衛が続く。チエテの関を駆け上がり、防壁の上に辿り着き、見て。口から衝撃が漏れた。
「なん……だ、あの長大な首は。体も途轍もなく大きいぞ」
それは林の中に五頭居た。どれもが嫌になる程大きく、林より上にある頭を下げて葉を食べている。
コブラ・ジルが。いち早く我に返った者は皆、まず林木の高さを思い出し、続いて獣の大きさを計り。最後に恐怖と共に認めた。
―――間違いない。アレの頭はこの関より高い所にある。
ではどうする。戦うしか無いに決まっていた。戦闘準備に入る為、側近が鐘を鳴らそうと駆けだしたのを、コブラは一瞬見送ってから慌てて、
「待て! 皆待て! 鐘はもう鳴らすな! 戦う準備も出来る限り静かに! 見よ。葉を食べている。ああいった竜は概して比較的大人しい。まだこちらを敵視していないかもしれぬ!」
一瞬の戸惑い。しかし確かに。王竜は人に強い敵意を持つと聞くのに、こちらを意識している様子が無い。何よりどんな薄い可能性でも戦わず済むよう万全を尽くすべきだった。
聞いていた皆が、王の冷静さへの賛辞を込め身振りで了承の意を伝え、準備が始まる。
そして一時間。とっくに戦いの準備も終わっている。しかし遠くに見える王竜らしき生き物は結局動かず。のんびりと食事をしているだけに見えた。
王に側近たちとしてはそろそろ悩ましい。長大な壁に配置した全兵に緊張状態を保たせ続けるのは極めて愚かな話。何しろあの竜の後ろには迫りくる獣の群れがいる。
しかしあの巨体からして、もしこちらへ来るとなれば休ませた兵が壁上へ戻るより速く襲われ、
五頭の竜の動きが止まり。揃ってこちらを見た。
戦闘準備。という掛け声は無い。全ての兵が言われるまでも無く準備を整えていたし、何より声を出すのが恐ろしかった。当然願いは一つ。
しかし、竜はこちらへ歩き出し。明らかに敵視して少しずつ歩を早めていく。
まるで準備を待っていたかのような動きに兵が、いや全ての者の歯が鳴る。
―――抗おうとしても全て修正されてしまうのでは無いか。ミチザネの言葉が一瞬コブラ・ジルの頭を過る。
愚劣にも程がある。と、唾を吐きそうになった。今、目の前に敵がいる。なのにどう殺すか以外を考えるなど。今、今すべきは、
「全弓隊! 前方壁より三十歩と、六十歩へ放て!! その後最後列で魔術兵が撃つまで待機」
唐突な理解出来ない命令。しかし王の声を聞き間違える者は居ない。直ぐに矢が降り、三十歩と六十歩の地点に線が引かれる。
「全兵に告ぐ。余が六十歩を越えたと合図するまでは盾を上に伏せよ! 魔術兵! それに魔術を使える者は盾を持ち壁際に! 三十歩を越えた瞬間、壁と同じ高さにある首へ同時に当てるのだ! 王竜は集中させなければ効かぬぞ!! 以降は部隊長に任す!
神はぁ!!! 我ら人を守護せし戦士をよみしたもう!!!」
神話の劇でしか使われないような言葉が兵たちに力を与え、剣が振り上げられ、
『神は! 我ら人を守護せし戦士をよみしたもう!! 偉大なる王に勝利を!!!』
叫びで関の壁が震え、兵が伏せ。コブラ・ジルと側近だけが壁越しに距離を伺う。
予想通り余りの大きさに距離を把握し辛かった。兵へ任せていたらバラバラの攻撃になったであろうと安堵の息を吐く。
竜が川に入った。矢の射程距離。撃たせて少しでも失血と疲労を与えたいとの欲望を我慢する。何故ならもしかすると……竜が、走りながら頭を引き、息を吸う仕草。やはり。
「魔術が来るぞ! 身を低くし盾に力を込めよ! 最前列は壁側に盾を!!」
「クウウゥウウウオオオオオオオオォ!!!」
爆発が起き、壁が揺れる。側近が王の代わりに状況を見て、
「被害軽微! 幾つかの
用心が図に当たった。矢で注意を引けば壁では無く兵が直接被害を受けていただろう。快哉を叫んでも良かった。しかし、もうその余裕が無い。王竜の足が矢の線を越え、そのまま突進してくる。
「六十歩!!」
王の叫びに長大な壁に並ぶ魔術兵が一斉に立ち、部隊長が杖を向けた王竜へ、
『精霊よ! 我は力を捧げ請い願う! 我が敵を超越する汝の力を!! 打倒する破壊を!! 爆裂せよ!!!』
「クウウゥウウウオオオオオオン!!」
かつてなく強い願いが込められた叫びと、同時に上がった王竜の叫びがぶつかり、両者の空間に小さな雷が幾つも走り。
竜の長大な首だけに爆発が起こった。
『お、おおおおおおっっ!!!!』
王の口からも快哉の叫びが上がる。が、極めて失策だった。
竜は走っている。勢いのついた体と壁までの距離は竜にとって数歩しかない。
なのに、手を振り上げ次の動きに移れない。
竜が壁とぶつかり、壁自体がたわんで揺れ。さらに壁より高い所にあった頭が。首から血を流し、怒りに燃えた眼。口が開き。凄まじい勢いで、
強い風が吹いた。
王の体が泳ぎ、こけながら二歩後ずさる。生死を分ける二歩だった。目の前、鼻が擦れたかと感じる距離を竜の口が通り、兵と側近が叫ぶ暇も無く吹き飛び食われ、
手と体が状況に即応した。尻もちをついたまま抜剣。立ち上がる勢いそのままに、最も力に無駄の無い姿勢で刺突する。かつて無い硬い手ごたえ。
「クオォン!!」
叫び声でコブラの意識が戻る。全身の力で竜の首から剣を抜き距離を取り首を戻した竜を観察する。
激怒している。だが首に大きな怪我。それに剣も突き刺さりはした。ならば、
―――可能だ。殺せ、
足元が大きく揺れた。目の前の竜から意識を逸らさないよう素早く首を振り、状況を確かめる。
人の波の向こうで確信は持てないが、兵の列に大きな穴が恐らく二つ。傷ついた王竜が一匹。そしてもう一匹が壁へ叩きつけたらしい尻尾を戻すところだった。
―――不可能ではない。殺せる。しかし、一撃で先の揺れでは恐らく……。
そこから先は意識的に考えを蒸発させる。まず遥か高みから見下ろしてくる死を排除しなければ、どんな意味でも先は無いのだ。
******
ああ、ブロントサウルスが……。いや、ブロントはアメリカらしい嘘だった。アパトだ。―――あーあ。二倍でかそうなアパトサウルスが……。全滅してしまった。
守備兵の皆さん凄まじく頑張ったな。自分の命なんぞ使い捨ての道具よとばかりに、壁を守るだけの機械と化してた。
死んでも死んでも、壁の下に居る兵たちが躊躇せず穴を埋めるんだから。
それでも壁は壊れたけど中に入らせず殺してのけるとはねぇ。良い物見せて頂きました。お疲れ様です。
「で、我が嫁や。一番に殺してのけた隊で指揮を執ってたのがコブラ王なわけ?」
****AI生成した千景絵。どなたでもお好きなように感想をお願いします。****
https://18315.mitemin.net/i701001/
……空に浮かんだまま衝撃を受けたようによろめくとは器用な。
「失礼いたしました。旦那様の余りの明晰さによる衝撃で、本体との通信が途絶えましたの。しかし何故お分かりに。
服は狙われないよう周りと同じ物。お見せしていた接近映像でも王の姿を隠しておりました。それを……あ。もしご覧になりたければ録画がありますので、甘い物と一緒にお楽しみください♪」
本物の英雄の戦いを鑑賞しながら茶をしばく。―――うむ。乙そうだ。
「嬉しい気遣い有難う。しかし何でも何も。
全体の指揮を執ってたし王女と動きが似てるとか色々あるけどさ。
最初の魔術で油断して食われそうになった時、風が吹いたみたいに変な体の動きをしたでしょ。
だから余程死なれると不都合な人物を、如才ない奥さんが助けたのだとばかり。違うのかい?」
あちゃー、ペシッ。と、額を叩く超美女は初めて見たな……。私が会った限り人造人間なくらいキメてる美女は何時でもキャラ作ってた。
人とAIの違い……か。
……私も中々適当に考える奴だ。
「最高に美しく見せたい男の前で、鼻からクソを落としてしまうなんてお恥ずかしい。
旦那様の賢さを純粋に褒められません……。ご覧くださいこの顔色」
「よくそんな言い方思いつくね……。あ、顔近づけないで良いです。梅の香りは嬉しいけど……何この自然な匂い。丸薬でも飲んでるの? って今は違う。
で、あれが王ならやっぱりあのアパトちゃん達は王を安全に逃す為に運んだ。という事?」
「はい錠剤です。旦那様のお気に召そうと千景も並列処理頑張っております。
ご推察もその通り。本隊相手にあの壁で戦う気満々なのですもの。壁を壊せば御覧のとおり自然な形で生き残らせられますでしょう?」
確かに。獣の海相手に撤退は、壁が崩れれば飲み込まれるだろうし。
十万に届きそうな兵が今も壁の下に居るけど、囲まれて押し込まれれば圧死する未来しか思い浮かばん。
「賢いと思うよ。ただ私としてはあのアパトちゃんたちを森にご招待したかった。……又運んでもいい?」
この戦いが終われば可能な限り自然に動物たちが暮らす森を作りたい。その為には……自然かは知らんが動物の種類を出来るだけ多くしたい。
「ああ、申し訳ありません。アレらを住まわせるには虫の種類が足りず、生態系に悪影響が出てしまいます。だから丁度全滅するように致しましたの。
将来的に可能か計算してみますから、今は我慢願えませんか?」
「そうか。意味違いそうだけど外来種になるのか。我儘言ってごめん。
で。これで目標としていた王都崩壊まで終わったわけ?」
「はい。主要目的の達成は確定です。後は細部の調整ですわね。
あ、旦那様はこのジル王家の統治、楽にするのがお好みですか? それとも苦難を与えます?」
「商人化してない権力者には出来る限り敬意を払うのが好みだね。権力者は中々やってられない立場だと思うし。
そもそも楽にさせた方が、奥さんとしても効率が良くてお好みなんじゃないの?」
「ええ。実はそう言って頂けると期待しておりましたの。
ならいち早く情報を掴み王都から逃げ出したデンツ商会という政商を、逃げ先の都市ごと獣たちで踊り食いと洒落込むとします。
別の都市に逃げた者たちも適当に処理ですわね」
「へぇ。見切りの早さは流石商人。しかし国の邪魔をしてて生きれたんだその会社。随分王権の強い国に思えたのに」
「あのコブラという個体も排除しようとしたのですが、上手く排除しにくい立場を。
つまり中抜きするだけの商業会社で……あら。ご納得くださったみたいですわね」
「そりゃ……。それ系の会社は働いてる人からして、楽に金を奪う為なら手段や結果を無視出来る外道だと、吹き飛んだ原発に教えられる事件があってね。
お陰で殺す以外排除出来ない寄生虫と馬鹿でもキョンでも知ってるんだよ。
社員一人でも残してガワが残れば、直ぐ代わりの人間で中が詰まるんじゃないかな」
「民衆の命と幸せを気づかせず権力者が使える金へ変えるには良い道具なので、評価の仕方もあるかと。宿主が死ぬまで増え続けてしまうだけで。
しかしそうですの。中抜きお嫌いですの。それは重畳ですわ。
フェムトマシンが旺盛に働いてこそ環境改善が促進されますので、戦争と狩人の戦いが一番効率が良いのです。
仕事を左から右に移すだけの者たちは無駄な人員ですし現場の重荷。出来るだけ潰したい損失でして。
これで心置きなくデンツに所属する者全てを処理出来ます」
「是非頑張って。しかし……この国、滅ぶ前も、滅んだ後これだけ変わっても中抜きが問題になるなんて。……凄く怖い話な気がする」
「え、えっと……ま、まぁ何処の国でも大なり小なりあるものですから。
それに昔のは既に分子単位に分解しておりますし、今居るのは旦那様のご判断で八割権力者ごと土に還ります。なのでお気にせず」
「気にしても仕方ないのは間違いないね……さて。残るはあの王と側近たちの説得かな?」
「はい。あの者たちが避難し、状況を認識するまで待つのが良いと存じますわ。
ですからおおよそ二十日後に朗報を届けるというのは如何でしょう?」
ふっ、ふふ。黒幕が朗報を届けるか。黒い冗談だ面白い。
「分かった。それまでは戻せる獣たちを戻して、生態系も壊れただろうから整えて待つとするよ」
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近頃流行りのAI生成で遊んでる友人に、千景について書いた条件で生成してもらいました。
何方でも是非感想をよろしくお願い致します。
今の所何とも難しいツールのようですねこれ。
そういうのが相当好きな大人が数週間は遊んだ後、設定を弄ってはAIの出力を待つ。という作業を3時間? してくれて出来たのがコレです。
殆ど放置してるとは言え大人を3時間縛れば4500円は貰わないと話にならないでしょう。(本人の日頃の時給で換算したら、きっと考えたくも無い値段になると思ってます)
服装は和服とパンツスーツのソシャゲ染みたハシタナイ服装。と言ったのですが、AIが認識できるようどう入力したものか分からなかったそうです。
それでも多分、完全なテンプレから脱却できるように努力してくれたようで。以前私が見たAI絵よりキャラの魅力を感じます。
特に表情、ハシタ無さは中々イメージ通りかな? と、は思うのですが……。
何度か別の作品で絵を頂戴した方々がかけてくださった労力に比べれば(4500円ではとてもお願い出来ないの意)、AIで描いてもらった方が良いのは間違いないです。
が、私の私見ですとやはりある程度描ける方だと絵の魅力? 的にははっきりと追いつけない感じとなります。
うーん。web小説家なら、キャラが出る度にAI絵で一枚絵を描いて乗せられたらな。と、思ったでしょうけど……今の所ハードル高そうです。皆さまは如何思われますでしょうか?
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