一夜が過ぎて。温泉の中で
「起きられたか」
おっと失言。昨日は……。贅沢な一日と言うのだろうな。
昔見た世界的アスリートの接待で呼ばれる超高級娼婦の写真を思い出す。あれはなんかスゲーだった。ああまでアレな人間は中々居るまいと。
だがそれさえ下品さを極めただけに感じるAIの分体と仰るお体が……ううぅむ。
平静になって考えると何か不安が。無駄な贅沢をしたかのような。
加えてどうにも疑問が……。いや、落ち着こう。
そうだ風呂。朝から温泉にしか思えない風呂。何かに勝ったような快楽さえある風呂。やはり風呂だな。うちの国の人間の絶対的味方の中で落ち着くのだ。
服をペペイ。からのぉ。うむ。うむぅ。壁には森の景色が映り風雅ですねぇ。本日も良い……湯? 入口が勝手に開いた?
いや、これは。―――やはり。目の前に唐突に表れやがった。何の躊躇も無く全裸で……、なにその体の凹凸を強調する湯への入り方滑らか過ぎ。練習したんですか?
「ふぅ。……あら。我が主よ。そのように見つめられると恥ずかしいですわ。
あ、分かりました。かかり湯をしなかったとお咎めですね? しかしご安心を。限りなく無菌に近い状態と確認して入っております」
……一応人類と同じ体なら無菌はおかしくないですか? 冗談だろうけど。
「礼儀正しくて素晴らしいデスネ。何か御用でしょうか?」
「勿論。昨日素晴らしいひと時を与えてくださったお礼に。とても朝食後まで待てませんでしたの。お許しくださいませ」
全力笑顔が眩しい。女が男に素晴らしい時間だった。と来ますか。言いますねぇ。
「それと……昨日、本当に言う機会を取り逃した事があるのです。それで、少しでも安らかな時にお聞き頂きたくて」
おや珍しい申し訳なさそうな表情。悪い話か。―――何も予想がつかないな。
「つまり。この、我が主から見て人類史で最も美しい女には欠陥がありますの。それも致命的な。……お分かりになります?」
本当こやつ言いおる。そして分からん。
「つまり……子供を作れません」
――――――。あ、ああ。そりゃそうだ。私が特例だと言うのに、その子を増やして特例だらけにするわけが無い。考えれば分かったな……。
「あ、あの! 千景は我が主が楽しくお元気であられるよう最善を尽くすつもりです。それで外の女たちで気に入ったモノに子を成されては如何でしょう。
ですから……どうか気落ちなさらず」
気落ちしたのか。確かに子育てを経験してみたかったとは思う。しかしそもそも寝る前ならまず無理だったろう。なのに未練がましい話。やれやれだ。
……うむ。大丈夫。もし子を持つとして犬耳が付いてようとどうでも良いじゃん。
……いや、目の前のお方に不可能は無いんだろうけど、外に妻とかそんな簡単な話か?
「まず、此処を見せられませんから通い夫。になるんでしょうか? それに彼らの社会には基本入れない。というお話では?」
「御推察の通りです。かなりお立場を隠した形での関係をお願いする事になります。
しかし偏屈な世捨て人は幾らでも居りますし、いざとなれば遠方へ移動すれば問題ありません。勿論常にこの千景が見ておりますので、危機には直ぐ対処出来ます。
後は、我が主に掛かればどのような苦難も解決は容易いので、相手の者と良い仲になるのは容易いかと」
ああ。幾らでもマッチポンプ可能なのね。それに真っ当にやっても相手の望み、脈まで分かるから嫁探しは簡単、か。
ストーカーの領域さえ越えてるが……今の地上に居る女にとって私は夫として世界最高と言えなくも無いんだろうな。これで不快に思うような非論理的相手は私としても相手したくないし。
心の負担が軽くなる有難いお話で。
「成程。その内気が向きそうです。気遣い有難うございます」
「お言葉安堵致しましたわ。まずは狩人。それと近隣の人里でお気に召す可能性のある女の一覧を作成しておりますので。気が向いた時にご覧ください。
所で。昨日の素晴らしき間中、我が主が幾らか不思議がっておられたように感じましたの。お聞きしても?」
やはりバレてた。聞いてくれるのなら教えてもらいましょうか。
「昨日、貴方の様子が、どうにも……もう心から興奮し楽しんでるようにしか見えなかったんですよ。昔見たそういう演技をするプロの、しかも上手な方々より自然なくらいで。
あれは一体何だったんだろうと。肌の血流まで自由自在なんですか?」
驚き、お笑いになりますかそーですか。確かに馬鹿丸出しの質問ですよね。
しかしAI、本物の女性。どちらでも疑問が沸く……、肌が興奮でどんどん火照っていったような様子は、思い出すだけでドキドキしてしまうな。
「うふふふふふっ。我が主は
「演技とかの外部要因は無く、心から恋焦がれ快感だっただけ。と」
そう答えないと徹底の欠いた間抜けだ。
「ああ、
人類史の最後の頃セクサロイドを一般家電とする為、数多の好みに合わせられる技術が開発されております。その一つに定められた状況で脳内物質を促進させる物が。
後は応用し、状況に則させれば昨日のように出来ます。しかし……この
余りに簡単な質問。苦笑が我慢出来ないじゃないか。
「そのような技術を使うまでもない程、我が主は素敵である」
「はい♡ 質問にもならない明確な事実ですわね。何時でもお情けを待っているとお忘れなく。
さ、て。お情けを頂けたら申し上げよう考えていた僭越な願いがありますの」
どーぞ。
「有難うございます。まずこれは誓って正論であると申し上げます。
今我が主はこの女を、慎重に距離を測るべき職場の同僚程度にお考えです。それを精神衛生の為、ごっこ遊びのおつもりで結構ですから妻として頂きたいのです」
「―――。成程。今の所何の不安もありませんが……時間が経てば孤独感とかに苛まれそうですか?」
という類の理由が無ければこの美人さんが真面目な表情にはなるまい。
「良くお分かりで。我が主は孤独に強いお方と数値でも出ておりますが、用心に越した事はありません。外でだろうと家族を作って頂きたいのもこの為です。
勿論、お疑いの通り千景に情を移して欲しいというのも無いとは申しませんが、真剣にご一考願えませんか?」
疑っていると言えば疑っている。のだろう。無駄と分かってるのに馬鹿な事だ。
「分かりました。では貴方を妻と考えるようにしますよ。今まで以上に何もかも話す。という感じですかね?」
「本当……我が主は決断が早く御座います。とても嬉しいですわ。
それで相応しい呼び方をさせて頂きたくて。旦那様とか。お呼びしちゃっても?」
「うっ……いや。光栄です。千景さんはどう呼びましょう」
「もう。良いじゃないですか旦那様。古式ゆかしくて。勿論ご要望には従いますが出来ましたら慣れてくださいませ。
そしてこの身は家内か、奥と。何せ本当にずっと家の中に居ますから。奥に居ますから。地中奥深くに!」
その決めポーズが地中奥深くのポーズだと? 全く理解出来ないですよ。
「では奥さんと呼ぶと思います。
いやはや。経った十日程で随分変わったものです」
記憶だと十日前に家族と別れの挨拶をして寝たというのに、もうその家族は骨も存在しない。
そして新しい家族が今出来たとは。激動というか何というか。
「す、少しばかり予定を詰め込み過ぎましたわね。おほほほほ。
今後はモドキたちも大きな動きは無いと計測しおてります。風呂と食事を楽しみこの美貌の妻に情を注ぎ、のんびりと仕事をして十年程度で氾濫に必要な獣を揃えて頂こうかと。
後は……最後に王都の主力を森へ誘い、孤立させて叩きましょうか」
「それはご機嫌な生活で。楽しく獣たちを育成させて頂きましょう」
「はい。期待しております旦那様。今後はお気を安らかに。
情事で実は千景が不快になっており、二度と起きられないのでは。等とご心配なさらず♪」
うわちゃー。はい。そう思って寝ました。
「バレてましたか」
「はい♪ 目覚めて思わず漏らした一言が『起きられたか』ですもの。千景は抱腹絶倒でしたわ。ストレス値が2.73パーセント下がったほどです。
むしろ千景の振舞いに注文を付けて頂きたいですのに。
例えば今少し雑な女の方がお好みでしょうか? 座り方もこのように」
そう仰って湯の中で胡坐をかかれますが。裸でそーされると……分かってやってるのでしょうけど。
「……はぁ、まぁ、良いようにしてください。嫌いでは無いと申し上げます」
お? 脈絡の無い素敵な笑顔。からの手で床をついて、こちらに!?
「どーん!」
「い、痛! い、いや、何がどーんなんですか」
「妻が雑にとお願いしたも同然ですのに、壁を崩されないからです。それに二人とも裸ですから。伝統ある相撲の力を借りて不満を表明するが風流かと」
「……。若い美人と裸で本当に相撲は……普通男も夢見た事無さそうな話ですけど。
ああ、いや分かったから。張り手しないで。変な気分になる」
「ならせようとしてる事は感づかれておいでですわよね?」
「いや、連日は健康に悪いと聞くので考えて欲しいです」
「まっ。賢い旦那様。分かりました。しかし今日くらいは良いでは無いですか。森を走り運動し、旦那様は維持どころか強靭になっていくと計算が出ております」
……うちの奥さんは説得が上手ね。ならば、我慢を止めてしまいますよ。
「うふっ。うふふふふふふふ♪ まず最初に触るのが頬と太もも。こんな時でも旦那様は慎重ですのね。それでいて一度に二か所とは大胆……この体の太ももがそんなにお好きなのですか?」
ええ好きですよ。余程特殊な職業じゃないとあり得ない馬みたいな尻に太ももですもの。健康的なのは古来より嫁の必要事項と言われる無上の魅力です。
……本当素晴らしいパパンパンな張り。摘まめないでやんの。
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