千景の溢れる不満
うんむ。ちょびっと嫌な夢見たな。
ま、あの血溢れ肉千切れる風景見て、ヤレヤレで済ませられるなら立派なもんでしょう。
では今日も一日始めますかね。朝食を食べ。用を足し。一息。
そろそろおいでになるはず。
「お早うございます我が主よ。本日で……十日。
……。ソデスネ。光栄と仰いますが這いつくばるべきはこちらでしょうね。
さ、て。何時もお綺麗で心からにしか見えない笑顔で挨拶なされるお方が、真面目な様子。服も……体型は出過ぎてるが真面目な服。
面倒の気配がする。
「はい。お陰様で刺激的かつ快適な毎日です。有難うございます」
「お言葉恐懼の至り。ならばこの度、貴方様と
『ならば』という接続詞おかしくないですか? そもそも、
「私の方に不満はありませんが、千景さんのは是非聞かせてください」
命どころか何もかも握られてるというのを置いても、理想的に快適な。日々部屋に生えている花が変わる典雅な世話をしてくれてる。感謝の言葉も無い。
道理の上でも出来る限り満足して頂きたい。
「有難うございます。ではお恐れながら。お耳を拝借」
更にド真面目な顔。え、お耳を拝借って耳打ちの意なんですか? 貴方監視してて全部聞こえてると言ってたのに。何の茶番、
「性欲が。堪り過ぎて。性欲が。溢れ出す寸前なのです」
……………………。どんな顔で口にしてんだコイツ。
うわ。物凄い真剣なしかめっ面。目が合いウム。と重々しく頷くが何がウムなのか。
あ~。思考が、空転しかけてる。待て待て。え~とだな。
結論と、どうするかは決まってる。のだろう。多分。しかしそれはそれとして。
「AIに性欲があるんですか?」
モノスゲーハシタナイ美女がしかめっ面で頷いてる。ゼッテー適当だ。
「はい。旺盛な事を猿のようにと言いますが、人の方が酷いと考えます。そして、その人よりこの
初日を動揺なされてた故と我慢致しましたら、二日目、三日目とこの体への欲情が減ったのは余りに無体で御座います。
ならばご自分で処理なされる時に姿を消して近づき。ご奉仕からのお情け頂戴と考えましたらその機会さえなく。再生処置に瑕疵ありや。と、焦ってしまいましたわ」
姿消してって。そんなの心臓飛び出て性欲なんぞ消えますが。
「もう。これだけ申しましても大して欲情して頂けませんとは。
でしたらお好みの説明を致します。十二万年過ごして初めての機会ですのよ?
貴方様にご起床願うと決めて以来の年月、待ちに待っておりました。
そう。同じ処理をし過ぎて一部の処理装置のみが劣化するほど」
何故決めポーズを取る。
しかし成程? そいう考えは無かった。んだが、
「光栄です。しかし男女の関係を楽しみたいなら私よりいい男くら……」
待て。そんな話を分かってない訳が無い。なのにしてこなかったなら何か理由があるはず。と、言うか。モドキと言ってたし多分。
「今。お止めになった内容は、この千景へ外に居るヒトモドキとまぐわえ。と、いう事で。間違い御座いませんか?」
―――。かなり、不味そう。笑顔だが、いや、表情に意味のあるような相手じゃ。
「はい。ご不快でしたら申し訳ありません。短慮でした。お許しください」
「似たような事をモドキが言えば循環に戻します。
貴方様がモドキどもを自分とほぼ同一の人類と見なしておられるのは、有難くもあるのですが。千景としては多方面の意味で獣同然で御座います。
何せ作ってから今まで監視し続けておりますので。
情とその表現まで予想の範囲を全く出なくなってしまい、使用回路の固形化により処理の柔軟性が劣化しそうだという深刻な恐れを抱くほど。
端的に申しましてウンザリなのです。
ゆえにアレらはどの雄雌も我が主と比べるも失礼な魅力としか。
しかし我が主が仰るなら、芸としてまぐわうのもやんぬるかな。と申しましょう」
「そ……出来ましたら詳細な説明よりどうすれば許してもらえるか。を、教えてください」
あっぶね。一瞬『そんなつもりじゃなかった』とか妄言言いそうだった。
何かで聞くたびに見放して良いアホの証拠と思ってたのに、自分が言いそうになるとは。
「容易い方法は明らかでございましょう?
本当、我が主は解せませぬ事が多いですわ。どんな理由付けをすればこの千景とまぐわうのを躊躇する判断となりますの?」
「―――貴方に、私と男女の関係になる意思がそもそも無い。後は貴方を望むかどうかが忍耐力とかのテストだとか……」
うわ。口に出したのを即後悔する酷い答え。あ、こやつ。沈痛な表情で額を押さえおった。……本当に情けない気持ちになってきた。
「未だにこの身の背後に何者かが居る可能性を前提としたお話、ですわね。賢明な用心深さと存じます。
しかし……。人の前に出る異性が一人であるなら、欲情される前提で考えるべきではありませんこと?
このように極めて美しければ猶更。忍耐を試すにしても他に少し劣る程度の異性を複数用意するものでしょう。
で、なければ。人と長期間付き合うというのに、性欲を考慮に入れない極めて主観的な知能障害者の立てた計画。と、なってしまいますわよ?」
はい。私の反論が論理性皆無と仰りたいのですね。御免なさい。
それはそれとして喋りながら美人あっぴるぽーずは冗談にしても雑と思うの。
「勿論
随分と男が苦労する社会でしたのね」
「いや、真っ当なら男女区別なく苦労してたでしょう。争いの話は注目され儲かるという事で、マスコミに加え煽って儲ける職業の方が男女の対立話を乱造しましてね。それが色々と面倒を。
ああ、でも男の方が幸福度が低く自殺率が遥かに高いという数字が出てましたから男により厳しい。が論理的―――って、終わった社会の愚痴失礼しました」
「いいえ。残されてない記録は勿論、どのように感じたかお話しいただけるのは何時でも我が喜びです。
で、す、け、ど。申し訳ないとお考えなら付け込ませて頂きたい。そう思ってしまう浅ましさ。ご理解くださるでしょうか?」
毎日思うがこの日本語の上手さAIに可能なのか? しかし生身とすると彼女の見た目年齢では、教育されたお水の人でもこんなに当意即妙で煽てられる訳も。
当意即妙は本当難しい。超高学歴のスーパーエリートアナウンサー様が座布団バトルに出ても失笑物の下手さだったもんなー。
……うん、まぁ、兎に角。既に大概無様だが。有難くご厚意か欲望かを頂戴いたしましょう。
「はい。では、今夜を楽しみにさせて頂きたいと思います」
え、何目を見開いて。そして、何故以前取ったファイテイングポーズを。
「チャイ! チャチャチャイ!」
「……前より痛かったのですが何故に?」
「AIへの配慮が足りなさすぎます。この千景が秒間何極の処理をしていると思われるのですか。夜まで待てるわけもありません。今からお願いしますわ」
「え、仕事……いえ、はい。では『お風呂で体を洗ってきます』「と、仰るでしょう。は~。この千景が主の清潔さを把握しているとご存知でしょうに。
とは言え我が主の大好きな風呂で。は良き考えですわね♪ 脱がして頂けます?」
それ滅茶苦茶のぼせるからキツイだけ……ああ、水温調整くらい出来ますよね。
「……美女の服を脱がすのが男の夢。みたいな記録があるんですか?」
「あら? 男女共通の浪漫ではありませんの」
「ソデスネ。有難くご厚意に甘えて夢を叶えさせていただきます」
初体験は何でも楽しめるのが成熟した見識というものだしね……。素直に連れ風呂としゃれ込みませう。
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