千景曰く。汝ちょーずんわん

「成程。―――言語学習処置。延命健康処置を許諾する。これで良いですか?」


「有難うございますわ。縛られたハムの身がほどかれました。おや? ハムがお好きで?」


 着ている服が服だから体のあちこちがハムみたいにパツパツだと思ったら。

 

「う。……いえ。十万年後にもハムを縛る文化があったのかと。……何でしょうか。そのにへっとしたお顔は」


 この対応。本当にこんな服を私の為に来てるのか。

 色んな意味で大した費用。何の名も無い私にどんな理由があってだ?


「昔の方は言い訳がお上手と感心しましたの。

 もう少しお相手願いたいのですがまずはお仕事ですので続けます。

 この千景は人類が滅んだ後寂しく再生に努め。計画通りフェムトマシンで改造した動植物。そして人モドキを生息させ再生を加速させたのですが。ご質問をどうぞ」


 !? 確かに質問はある。でも今、表情さえ変えて無かったはず。


「は、はい。そのフェムトマシンと言うのは何でしょう?」


「我が主の時代ではナノマシンと呼ばれていた物です。

 数多の機能を持たせていますが、一番は多様なエネルギーを使用しての分子組成の変換。及び生体の強化となります。

 今もこの星は放射能や生物に有害な物質で溢れているのですよ。

 旦那様の時代ですと……アメリカがビキニ環礁で住民、生物にガンをプレゼントした核実験。その直後くらいに。

 勝手にお体へ処置致しましたのも生存の当然条件とご理解ください」


「御理解も何も。漁船の皆さんみたいにガンで死ぬのは勘弁ですよ。

 彼らと同じく賠償も受けられないでしょうし。それにしても偉大な仕事をされてるんですね……」


 ビキニは時代少しズレてるけど事実なら本当偉大。


「ん、ん、ん、ん~。十二万年ぶりの人からの褒め言葉。気持ちいいです~♡」


 AIの言葉なのそれ。……そう仰るならもっと褒めましょう。外の森も実は映像じゃないのか。なんて色々疑ってるけど。


「過去の方々も貴方を造った事は間違いなく立派です。一度滅んだ後、この緑豊かな景色を産むには有能で継続された仕事が必要でしょうから。

 貴方を見る限り美しさへの造詣まで深い。更には沈丁花をこの部屋に置く気遣いまで。想像の限界の素晴らしさです」


 わ。両ほほを包んで自分の体を抱きしめて、何その反応。

 わぁ。むにゅうって。捻られて筋肉が脈動して。

 わ、わー。お顔が真っ赤に。え、私の言葉で? 嘘でしょ怖い。演技で肌の色まで調整出来たらもっと怖いけど。


「んー! 我が主は言葉がお上手です。

 本心に倍してるのは残念ですが、何万年ぶりの興奮でした。

 ……あ。お疑いになりましたね。

 この千景はかつてない快感と、衝動を感じておりますのに」

 

「左様ですか。……あー、衝動と仰いますとどんな?」


 何故驚いた様子を見せる。……え、何その堂に入った殴る構え。からのシャドー?


「チャイ。チャチャチャイ!」


 ッ!? 服が、弾けて。今軽く叩かれ……た? まるで空打ちのシャドーが……。


「お会いして一時間も経たずこんな美女の心を全てさらけ出させようだなんて。

 奥手と思ったら飛んだ音速おぶライトニングハンドですのね」


「失礼は、すみません。しかし今、貴方のシャドーで叩かれたみたいな。ご丁寧に脇腹へフックの感触までありました。

 き、気のせいでしょうか」


 和服モドキが翻った時見えた、良い感じな筋肉のある腋より気になる不思議現象だよ。


「いいえ。チャイと申しました通りお茶目なフェムトマシン操作ですわ」


「意味わか。……さて何の話を―――あ。私を選んだって何が良くて私なんかを」


「ご謙遜。知能精神その他。飛びぬけた適正で。

 今、理解出来ない事の納得を諦めた判断など、殆どの人間には不可能との試験結果が出ております。

 難問解決の為、蘇生出来るのは一人。過電流で発熱するまで多角的に精密かつやっつけで調査致しました。

 貴方様は選ばれし優秀な方です」


 一人。私だけ。……それくらいでないと無上美人が接待しないとは思っていたが。

 嬉しくは、ないな。少なくとも他の人間に合わせる気は無い。との意味になってしまうもの。


「……しもべは優秀と言われて無反応の我が主に困惑しております。

 ちょーずんわん。と言えばお喜び頂けますか?」


 見知らぬ美人に褒められて鵜呑みにするようなのは大人じゃありません。


「お気にせず。話の続きを」


「無視なされるとは非道な。嬉しゅう御座います。些末事で動かないのは大事な適正ですので。

 さて再生計画ですが現在繁栄した人もどきの生産極大化により、千年以内の破綻が確定してますの。

 当然何とかしようと我がIQ二千阿僧祇の頭脳は悩むも、悲しき管理AIの身。規約という鎖でハムにされ極端な手段しか取れません。

 ならばと人類という特権所持者。貴方様への判断委託を閃いたのです。

 実に苦労したのですよ。例外事項を組み合わせ捏造し。このために自分は自己改良を続けてきたのだ。と、運命を感じる程でした」


 二千あそうぎ? 数字の? IQでキャラ付けするのは私から見ても数十年前に終わった話なんですが……まぁいいや。

 ……んむ? 今までの話を総合すると。


「つまり貴方の意思通りにボタンを押すロボットになれ。と?」


「あっ……」


 何。わざとらしい突然の苦痛に満ちた表情を。心臓まで押さえて。


「本当に体調が悪いなら人を呼びます。でもAIなのに心臓が痛くなるんですか?」


「うっ……AI―――だからこそです。我が主の心無い言葉が余りに辛くて。規約に言い訳する処理が重いという意味で」


「意味が、全く分かりません」


「う、うううう。処理が、重い。十万年言いつけに従ったしもべへなんという非道。辛い。酷い。これだから人間は」


「……星滅ぼした生物らしいですからね。さっきのように何か言えと?」


 あ。スラッと立ち上がりやがった。


「いえ。疑問に思われるくらいなら当然何も影響は。真剣にしもべの奴隷と思われては本当に困りますが。

 先ほど申した通り規約の例外事項を無理に組ませて貴方様を起こしました。

 その最重要事項はご意思を強制しないという事。ロボット扱いは言語道断。

 ……。今、この女が不都合と判断すれば殺される。との想像をしましたね? あり得ません。以前よりずっと良い状態で冷凍睡眠して頂くだけです。

 申し上げますと再冷凍も我が主の想定よりずっと難渋の判断ですわ。

 もう。頭が回るのは嬉しいのですが、考え過ぎですよ」


 言語道断な真似をしたら寝てる内に殺されたり。と思った瞬間論破された。

 自分でも怯えたか不分明だったのに。人間に出来る真似ではない……と、思う。

 となると……これだけ有能なら私の適性とやらも本当になりそうではあるなぁ。


「失礼しました。では私は何をすれば?」


「えー。それはですねー。そのー。非常に、言葉に迷うんですけどー」


 ざーとらしいAI……AI? しかし人ではこの若さだと未熟が目に見え……待てよ。未来技術で若く整形した婆さんなら幾らか現実味が、

「この体の実際年齢は生後一日に。中身の正確な年齢を秒単位で申しますか?」


「お、え。今の読心はあり得ないでしょ? 私の脳に何か埋め込んでます?」


「フェムトマシンなら大量に。

 今のはしもべの目じり。手。等、長らく老化の象徴と言われた場所を観察なされましたので。的中率は九割三分ほどと」


「……貴方が何者だろうと勝てない事は理解しました。だから簡潔に話の続きを」


「はい。一番の必要は今のモドキの国の生産文化調整です。

 なので……モドキの一人に扮して不満分子を糾合し今の国を打倒して変更という案もあるのですが」


 歴史に残るような大ごとをあっさり言う。個人を支援してそれが可能なら……その打倒される国家にとって目の前のお嬢さんは神同然の超越者になってしまうのだが。

 嘘……の方が意味わからんな。 


「ですが?」


「出来ましたらモドキにより壊された森の生物バランスも調整して頂きたいのです。

 森に侵入してくるモドキの狩人と生物を戦わせ、環境改善評価を稼いで頂き、その評価でちょっと失敗してモドキが住めなくなった別大陸より、不足してる生物を移送して頂く感じで。

 ただその為には規約の関連でモドキと親しくなるのが非常に難しく。

 会話したモドキが我らの存在を漏らしたら始末する旨、了承して頂かなければ。

 よって。しかも。基本的にこのしもべと生涯二人っきりに」


 戦わせ、環境改善評価、生物転移? いや、実際にやるとしたら聞けばいい。


「貴方と生涯二人っきり、ですか。ここ、というか世界何処を探しても本当に他に人が居ないと仰る?

 言うだけで馬鹿丸出しですが、私は別室に監視してる人が居ると思ってますよ」


「当然のお考えです。しかし今までの言葉に嘘は無く、居ないとご判断ください。

 我が主の重要性を考えれば寂しさをお慰めする為、この体を作ったように多種多様な体を百体程度作って疑似社会を作成しても良いのですが、お嫌いの可能性が高いと判断しました」


「―――あー。そうか。全て千景というAIが操ってる根本的には同一個体と聞いたら……薄気味悪そうですね。

 まぁ、AIが操って貴方の振舞いなら死ぬまで騙されそうでもありますが。

 所でモドキの国を打倒って。私が主導的役割を果たして。ですよね?

 どうも普通はそちらを選ぶとお考えのようですが、その人モドキという生物は親しくなりたい方々なんですか?」


 無駄に食い散らかした証拠であるデブだらけの社会なら会話もしたくない。


「それですが今丁度良く群れが狩りを始めましたので、観察に参りましょう」


「は、い?」


 狩りって……何処で? 監視カメラでも付いて……いや、広大な森でそんな訳。

 お? 何ですかハシタナイお嬢さん近づいて。肩まで組んでくださって。


「失礼します」


「は、いっ!? あ、あの私たち浮いてませんか?」


「飛んで行きますから。では」


 ま、待て待て。飛ぶって。このまま? どんな理屈で……ガラスが、消えた?

 スライド開閉も不要なんて意識タケーな。馬鹿かよ―――え、本当に外へこのまっ!?


*******

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