滅亡と抗い力尽きる寸前のジル王国2
「旦那様。機知を楽しまれるのは良いのですけど言葉では無理ですわ。
目に見せなければ糠に釘。と、IQ七千不可思議の
「やり方は? それと嫁さんは前、IQ二千阿僧祇と言ってたような?」
「ま。戯言を覚えていてくださるとはなんてお優しい。できれば数の差への考察もして頂きたくありましたけど。
以前のは旦那様と比べて。今はこのモノたちと比べてですから」
「あ、そうぎすか……」
「まぁ……。間髪置かずそのお返し。機知に富み、このモノたちの敵意に囲まれて動揺なさらず。
「あなた本当適当に煽てるよね……。はい。私が悪いんです。第一うちの奥さんが傍に居るのに不安がるような奴、付ける薬も無……いえ、それより見せ方は?」
「アレらの苛立ちまで気遣われなくてもよろしいですのに。しかし御意に。
壁向こうに居るモノたちで見せるのが良いでしょう。
このモノたちの社会では上手くは吸収不可能と確定しております。奴隷以下の境遇で苦しみもがき、何も考えずあり余った時間で子供を産んで更に面倒を増やし。
更には子々孫々不満を貯め無駄と不幸を撒く。ご存知の通りです。
加えて此処に居るモノたちも援助するフリをせず済む。楽をさせてやるのがお望みでしょう?」
何かおぞましい話がされていると誰もが感じた。
だが理解が出来ない。壁向こうに居る者とは、王都やあちこちから集まった避難民を指すとは分かる。
しかし百万に届かんとする統率されてない人の群れを使う? どうやって。何よりたった二人で?
疑問が浮かび、やはり妄言であろうと更なる軽蔑の念が表情に出る。
ただ王だけは何か強い意志が顔に。そしてミチザネが悲壮な様子で口を開きかけ、止めて歯を食いしばった。
「壁向こう。あの避難民の群れを。……商人なら善行ポルノで金儲けできるだろうけど、真っ当な統治者なら援助のフリが大変か。成程。
あれだけ居れば分かりやすかろうね。でも私では難しくない?」
「お待ちなさい。哀れな方々へ何を考えています。させませんよ」
リンは舌打ちするところだった。異様な二人へ気を取られてる間にジミナが扉の前で立ち、取り巻きの護衛が慌てて剣へ手を掛けている。
頻繁に問題を増やす妹だが、今回は判断に迷う。止めるべきか、斬らせるべきか。
「させません。って。扉から出る訳……ああ。意思表示をして周りを動かすのが習い性の娘さんか。
緊急の呼び出しでも見た目に気を使ってますし、遥か格上の年長者を差し置いて勝手な行動。
アレは用無しの人だったり?」
「なっ、この無礼も……! ……!?」
これだけ言われた妹が黙ったことに驚きリンが再度振り返ると、口は動いていた。しかし声が聞こえず、動くことも出来ない様子。
―――魔術、か? しかし詠唱は。それにこんな魔術聞いたことも無い。
今まで大した危機感を抱いて無かった者たちの間に殺意が産まれ、部屋の雰囲気が明らかに変わる。なのに二人の様子は変わらず和やかな声で話し続ける。
「ご賢察。アレは旦那様なら声を聴くほどご不快になるかと。今後アレらが余りに無駄な雑音を出しそうな場合、止めると致します。
では、お任せいただけますか? 権限の使用許可に
「分かった。任せる」
「光栄至極。
調整者権限にて管理知能分体
「調整者権限にて管理知能分体
男が復唱し終わった瞬間。女の足が垂直に浮かび床から離れ。髪まで浮かび踊り、男の眼前に光の板が発生した。
見ている者たちの体が揃って。戦場経験のある者ほど意思に反して強く恐怖し震えだす。
感じる。女が力を使い精霊に願っている。
しかしこれほどのは戦場で軍が同時に放つ時さえ。
「区画六の三に新規事象生成命令。範囲七。元素九にて遮断。粒子運動へ加速処理」
「区画六の三に新規事象生成命令。範囲七。元素九にて遮断。粒子運動へ加速処理」
王太子クウ・ジルは止めようと思う。不味いことが行われようとしているのに、何故父王は止めないのか。と、考え、唐突に理解した。
何故父が全く口を開かなかったのか。
これか、近いことに気づいていたのだ。逆らえぬ相手だと。
―――いや、しかし。まだ。では無いのか。まだ、機会は……。
「計算。伝達。終了。下せます」
「最終許可暗号伝達。我調整者。全ては循環の為。能うのみ能う也。
処せ」
そう男が言った瞬間、街の端。街壁の向こう。大量の避難民が今も寝ているはずの場所。そして見学させられている王とその臣下たちが窓から見える限界を計った高さの場所に、強大な光が幾つも生まれた。
瞬くほどの間、全員の思考が一致する。
―――あれは、なんだ。まさか、まさかまさか!
光が落ちる。その直角に曲がりながら走る軌跡を誰もが知っていた。
しかし。あり得ないと思う。あんな太い物はあり得ない。人がこのように自然を操ることはあり得ない。
それに、音が……。
「正に見事。お疲れさまでした。こちらに届くくらい熱くなってたのは大丈夫?」
「お褒めとご心配嬉しく思います。ご安心ください。こういった時の為のこの髪です。それにすべき時で無い時に限界を見誤るほど、
「あら賢い。その髪が熱放射用は凄い嘘臭いけど。所で音がしなかったのは?」
「旦那様は他人の睡眠の邪魔を嫌う慈悲ある方。もう街の者は眠っておりますので、御意に沿い配慮を。さもなくば窓が割れるくらいでは済まなくなりますし。
これが。表千家を収めた教養によるおもてなしですの。おほほほほ」
「表千家なんて単語が残ってるとは……。にしても百万人近くを殺す『おもてなし』、か。
嘘をついて数兆盗み害を遺し続けるゴミを造るよりは……良いかな。
良い結果に繋がるし。何よりお替りが無い」
「旦那様、揶揄されている出来事が未保存のようです。後でお教えくださいね」
「いや、
窓から外を眺め軽い調子でにこやかに話す二人を見て。さっきの出来事は何かの勘違いかとリンは疑う。
もしかしたらそうかもしれない。しかし女と最後に男から感じた力の大きさは間違いない。
ならば―――。王家の娘として。敵対的強者をどうすべきかは分かりきっている。
とは言え相手は絶望的。何より自分一人の行動を王家全体の意思と取られては。
しかし今までの二人の言動からは家や国という考えさえ薄く、個人の意思だけを問題としてるように感じられた。で、あれば。
そして今なら。そう考え期待して師である近衛騎士団長ユリを視界の端で見ると、正に今。手が腰へ向かっていた。
迷いを、考えを全て捨てる。声を上げず。全身全霊で踏み込み、相打ちこそ最上とわざと腹を開けて剣を振り上げ、今も動かない女の背中へ、
「規定八の二」
『つァッ? ……ッ!?』
体中が唐突に動かなくなったかのような感覚。それでも足掻き、男はこちらを見ていたので手から滑り飛ぶ剣の方向を女の背中へ。
女はまともに振り向きもしなかった。
ただ後ろ手に飛んできた二本の剣を、布で作られていたかのように柔らかく受け止め、嫌みなほど丁寧に床へ置く。
「お、おお。卜伝のように流麗な」
王さえ顔を悲痛に歪ませる結果と、理解を越えた光景に皆が恐れ気落ちし、部屋にある音が第二王女ジミナの手癖のように手を扇で叩く音だけの中。
異様な二人組の声はあくまで軽い。
「旦那様が望んでくださったお陰で肉体的余裕に優れるこの体ならば容易いですわ。
それにあの者たちの技にはまだ悪しゅう所がありますので」
「……豊五郎で返してくるとは。と、それよりどうしてまた今のを見た後に。手品とでも?」
「いいえ。このモノたちはフェムトマシンへの適合操作で発生する波を体感できるのです。
更に対象との距離で感覚的にどのくらい強い生物か。適合操作の強弱を判断します。
ただ今の操作をコレらがすると損失熱量だけでこの部屋は砕けるのですが……考えに至るほどの賢さは望み過ぎですわね。
何にせよ先の操作で敵が大きな力を使い疲労していると思ったのでしょう。そこで乾坤一擲と」
「は~。そんな気配察知みたいな真似が。……私も頑張ればできるようになる?」
「あら―――うふっ。くふふふふふふっ。……おほん。
失礼旦那様。余りに可愛らしくて。勿論、任せて頂ければ適合手術で何とかなりますがお勧めはしません。
余暇に使われる娯楽で幾らかは存じてましたが、そういうの本当お好きですのね」
「うへっ、一言も無いよ。いやはやいい歳して恥ずかしい。
ああ、それより規定とやら。態々口に出さないと効果無いなら私たち結構危ないのでは」
「まさか。ご存知の力場もありますのでご安心を。
声に出したのはコレらでも誰の意思で行われているか、分かるようにのみですわ。
先の処理も半分はその為に旦那様にご苦労願ったのですよ? ご推察とばかり」
「……やっぱり。流石に少し恥ずかしくはあった……いや、恥ずかしいと感じるのが愚かか。
で、この二人どうしたもんかね」
******
皆さんの一年が良い一年となりますように。
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