第8話 目の前で大金が歩いてたらそりゃ頑張るよね

今日も今日とて俺とルナはいつもの森にいつもの様に魔獣を討伐しに来ていた。


「いい加減飽きた、もっと他の魔獣と戦いたい」


俺はそう不満を告げる。


なぜなら、こちらの世界に来て倒した魔物と言えば、スライム、ゴブリン程度。

いい加減戦い慣れてきてその辺の敵はルナの助け無くとも普通に倒せるくらいには強くなった。そろそろ新しいフィールドの新しい敵を開拓するべきではないか?


「Eランクのくせして調子に乗らないの」


「いーや、俺の実力はすでにDランク並みだね、武器が悪いんだよ、剣ならきっとDランクだね」


言ってこんぼうをブンブンと剣を扱うかのように振って見せる。


「あんたみたいに実力をはき違えたバカがさっさと死んでいくの。ふざけたこと言ってないで身の丈にあった敵とだけ戦いなさい」


「だいたいどうやったらランクが上がるんだよ、いつまでEなんだよ? ぜんぜん上がらないじゃないか」


「あんたがまだEランク程度の実力しかないからEなのよ! EはEらしく弱い敵を相手してなさい。依頼をこなしてもっと実力がついてきたらそのうち上がるから今は黙ってゴブリンを探しなさい!!」


「そのうちっていつですかー?」


我儘小僧みたいにふざけていたら遂に耐えかねたのだろう、遂に「うるさいわね!」と大声。


「そんなに自分の実力に自身があるなら私が試してあげる。それなりに出来るようならあんたの意見を聞いてやっても良い、どう?」


「女性に危害を加えるのはちょっと・・」


「馬鹿なのあんた? 魔族の中には女性の姿をした奴もいる、そんなのを目の前にして同じ事を言うつもり? 死ぬわよ。大体、あんた如きが私に危害を加えれるとでも? 寝言は寝て言いなさいよ」


カチン。

そこまで言われて黙っていられるか! チョップの一つでも入れて見返してやる。

そうして始まった立場向上をかけた試合、開幕早々に放たれた俺のチョップを易々と避けるルナ。


「そんなんじゃ一生当たらないわよ」


余裕の表情。

その後も放たれ続けるチョップをルナは華麗に避けて挙げ句の果てには手で受け止めたりもしてくる。

その様子はさながらアニメや漫画における圧倒的強者と弱者の図。

心がポキッといきました。


「ごめんなさい調子に乗りすぎました」


己の無力さを痛感して平謝り。


「私だって意地悪で言ってるわけじゃないの。ただあんたに死んで欲しくないから厳しくしてるだけ・・・って何よ、その顔?」


ルナの視線の先にあるのは目を見開く俺の顔。

だって死んで欲しくないなんてこうも真正面から言われた事なんて今まで一度も無い、こいつは俺の事を本当に気にかけてくれてるんだなって思うと嬉しくてさ。


「お前、やっぱ良い奴だよ。安心しろ、俺は死んで悲しませるなんて事しないからさ」


「別に悲しいとかじゃなくて見知った顔に死なれたら後味が悪いから嫌ってだけよ」


「べ、別にあんたの事なんてなんとも思ってないんだから勘違いしないでよね!って事だな?」


ドンっ!

頭に強力なチョップを入れられた。


「まさしく言葉通りなんとも思ってないけどあんたの言い方がなんかムカつく」


ルナは腕を組みイライラしたご様子、これ以上ふざけるのは本当にぶちギレられそうなのでやめて真面目な話題に移行。


「ところでお前のランクはなんなんだよ? もしDランクくらいならお前が依頼を受けて俺がそれを手伝ってやるよ。いつも手伝って貰ってばかりっていうのも悪いし」


「そういうことはせめてもっとまともな装備にしてから言って」


言われてみればそうだ。


武器      こんぼう

防具      高校の制服

アクセサリー  無し


こんな装備はRPGでいえば序盤の最弱装備だ。いい加減、変えなければと思っていたが何分今はお金がない。底辺Eランクでは宿代と食費でほとんど無くなっていく、時々食費は浮かしているが・・・・それでも毎日ギリギリの生活なのだ。

倒した魔獣がお金を落とせば楽なのにそんな有難い仕様は無い。

はぁ・・・・なにか楽して簡単に大金が手に入る方法はないものか?


そんな夢みたいな事を考えながら森の中を歩いているとルナが突然俺を茂みの中に引っ張り込み姿勢を低くして「静かに」と小さな声で言いながら口元で人差指を立てる仕草をした。


「何だよ!? いきなり」


「あれを見なさい」


そう指差された方を見てみると、そこには・・・・・金色に輝くゴブリンがいた。

何だあれ、なんか気持ち悪い。

不快感を露わにする俺とは対照的にルナは満面の笑み。


「ついてる、金ぴかゴブリンよ」


「なんだって? 何ゴブリンって言った?」


「金ぴかよ」


いやいや、待て待て・・・・なぜゴブリン? そういうのはスライムの役割なのでは? それに、金ぴかってなんだよ! そこはゴールデンにでもしてやれよ。


「あいつは通常のゴブリンの3倍の素早さで魔法がほとんど効かないし、すぐ逃げていくからなかなか倒せないけどもし倒せればすごいお金になるのよ、こんな所で出会うなんて幸運よ」


ワオ、なんか既視感がある特性だ。経験値の無い仕様上こいつの場合はお金らしいが。

メタルな王を倒した時のあの高揚が頭に蘇る。


「よし絶対仕留めるぞ、俺はどうすれば良い指示をくれ言われた通りに動く」


「分かった、じゃああんたは動かないで見てて」


それは俺が邪魔ということかい?

だがまあ金の為、文句は飲み込む。


「一か八かだけど私が背後から接近して仕留めてみる」


さすがのルナでも確実とは言えないらしい。運が味方してくれるかどうかにかかっている。

ルナが緊張の面持ちで一歩一歩丁寧にかつ慎重に物音立てず近づいて行く、そうやって少しずつ金ぴかゴブリンとの距離を縮めるその一方で俺は祈る、気付くなよ大金、そのまま黙ってやられてくれよ大金。俺のブルジョア生活のための生贄となってくれと。


俺の祈りが通じてかその距離はあとわずかまで迫った、もうすぐだ、やれる!! 大金ゲットだぜ。


ルナが静かに剣を振り上げる。


ガサッガサッ、突如として茂みから一匹のゴブリンが出てきた。


金ぴかゴブリンが茂みから現れたゴブリンの方に頭を向けると同時にルナの存在に気づく。

不味いっ、お金がっ!

咄嗟の事だった。そうしたところでどうにかなるのかも分からない、でも何もしないで見ているなんて出来なかったんだ、だから俺は咄嗟に使っていた。

今の俺に出来る最大の遠距離攻撃。

それしかないと思った。

咄嗟で細かい調整なんて出来ない、とにかく金ぴかゴブリンの周り一帯をヌメヌメにしてやれと念じて放った魔法、それは結構広範囲で奴が逃げ出す前に見事に命中。

そしたらどうだろう、なんと奴はヌメヌメに足を取られて転んでしまった。


「今だルナ、奴を仕留めろっ!」


俺が繋いだチャンス、最後の仕上げをルナに託す。

グサッ。

ルナの剣によって仕留めらる、俺たちが大金を手にした瞬間だ。


「やったなルナ!」


遠くからガッツポーズで喜びの声を上げる。


「・・・」


「大金だぞ大金!」


「・・・」


「こんな嬉しい事はないだろう!」


「・・・」


「だから、許してくれるよな!」


ルナもまとめてヌメヌメにしてしまったけど素晴らしい成果があったんだ、きっと許してくれ━━━ぎゃっ!?

ヌメッた金ぴかゴブリンがルナによって投げ飛ばされ俺に命中、どうやら怒ってらっしゃる模様。


「あー気持ち悪いっ!! これどれだけ洗濯大変か分かってるの?」


「ごめんなさい」


ヌメヌメ地帯から這い出してきたルナに正座をさせられ怒られる。


「周りの人にも変な目で見られて本当最悪なんだから」


「ごめんなさい」


「本当に反省してるの?」


「してますごめんなさい」


嘘ですしてません、こうしなきゃ逃げられてただろうし仕方のない事だったと思っていますがそれは口にしません。言えばまたぶん殴られそうなので本心を殺して頭を下げる機械となります。


「失敗から何も学ばないなんて馬鹿なの?」


「馬鹿ですごめんなさい」


「もしかしてわざとやってる?」


「してますごめんなさ・・・・してませんごめんなさい!」


「ちょっと?」


機械的に謝ってるととんでもないうっかりミスを冒す。

だから謝る時は真摯に受け止め誠意を持って、それが鉄則。


バチンと俺の頬に強烈なビンタが放たれた、その痛みを噛み締め二度と過ちは冒さないと心に決めた。




因みに今日の収穫は手に入れた素材をすべて売ると約2万ゴールドほどになった。二等分しても一人1万ゴールドだ、これでしばらくは金に困らないだろう・・・・と思っていた。



ちなみにランクはDに上がっていた。

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