第7話 はじめてギャンブル?をやりました
翌朝、教会であの方に出会えることを期待していたが、会えなかったのでちょっと落ち込み気分で酒場の扉を開く。
酒場には先に来て席について待ってくれているルナの背中がみえる。
あんなに怒っていたのに来てくれるとは、なんて律儀な奴なんだろう。
朝食を摂っているルナの後ろから肩に手を置き昨日の一件なんて無かったかのような素晴らしい笑顔であいさつ。
「おはよう、今日も頑張ろうな!」
一日の始まり、昨日の事を引きずりぎくしゃくしたままで今日という日を過ごすなんて建設的じゃない、そんな思いからの行動だったのだが・・。
「おはよ」
ルナは無愛想にそう言うと肩についた虫を払うかのように俺の手を払い除けた。
やはりまだ怒っているようだ。まあしかたないか、ヌメヌメにしてしまったのだ。怒りが静まるのを待とう。
とても気まずい雰囲気の中、俺達は依頼をこなしに町の外に出た。
今回は簡単な討伐依頼を夕方までに2つこなした。午前中、ルナはほとんど口を利いてはくれず事あるごとに蔑む様な目を向けてきて泣きそうになかったが午後になるとさすがに怒りが静まってきたのか段々と口を利いてくれるようになってきた。
仲直りと共に依頼をすべてこなし報酬を受け取りそれを二人で分けようとしていた時、突然ルナがそのお金を俺から奪い取った。
「ええとルナさん、機嫌はもう直してくれたのでは?」
「まあ一応ね」
「では何故にお金を懐に?」
二人分のお金を独り占めしようとしている、流石に見過ごせないと俺は取り返す為に手を伸ばすが、バシッと手を叩かれ冷たい視線を向けられる。
「あんた私に借金してること忘れてないわよね?」
俺は魔導書を買うときにルナから金を借りていたのだ。
覚えたのがあんなクソ魔法だった事もあり失望からすっかりその事を忘れていた。
「ちょっと待って! 頼む、せめて今夜の宿代だけでも残してくれ、お願いします」
たまにはまともな部屋で眠りたい俺はまたしても土下座で頼み込む、まさかこんなに土下座をすることになるとは思いもよらなかった。
「はぁ」と大きなため息を吐いた後に、哀れみの表情。
「しょうがないわね・・・じゃあ、これだけ残してあげるから」
ルナは今夜の宿代と最低限の食費だけ残してすべてを持って行った。
・・・・・やはり借金は良くない、これからは自分の収入に見合った生活を心がけようと、心に誓った。
♢
ルナ様の慈悲によって残されたなけなしのお金で食事をとろうとして酒場のメニューに目を通す。
説明するのを忘れていたが、この世界の食事は俺のいた世界の食事とほとんど変わらなかった。
牛肉、豚肉、鶏肉、野菜、魚など全部あり調味料もまた然りだ、違う点といえばそこに魔物の肉や、その他変な料理なんかが加わってくるぐらいだ。ちなみに俺はまだ食べたことがない。冒険はしない主義だからな。
何を食べようか値段と相談して考えていた時、なにやら男達のにぎやかな声が聞こえてきた。
男1「よっしゃ~~俺の勝ちだ!!」
男2「ちくしょ~~やるじゃねえか」
男1「それじゃあ、よろしく頼むぜ!」
気になってちょっとだけ覗いてみた。
テーブルにはトランプのカードが置いてあり、それを挟むように椅子が置いてあった。
「何やってたんです?」
近くにいた男に聞いてみた。
「何って? そりゃあ、今晩の食事を賭けて勝負をしてたんだろうが。負けた方が勝った奴に飯を奢るんだよ」
「勝負っていうのは? トランプがあるってことはポーカーかブラックジャックとかですか?」
男は笑いながら答えた。
「ちげぇよ、俺達がそんな小洒落たゲームのやり方なんか知るかよ、やりたきゃカジノにでも行きな、まぁ・・・この町にはないけどな」
どこかの町にはカジノがあるのか、いつか行ってみたいな。
「じゃあ何を?」
「トランプでやる勝負といったら・・・・・・ババ抜き、ジジ抜き、神経衰弱、大富豪に決まってるじゃねえか」
なるほど、いいおっさんがそれで賭け事かよ。
「お前も勝負したいのかい? だったら席について待ってればその内相手がやってくるぜ」
俺は今宿代とわずかな食費しかもっていない、負ければまた教会泊まりでご飯も食べられなくなる。
だが!! たまには美味しいものが食べたい!! なぜなら俺はこちらの世界に来てからロクなものを食べていない。
そう、勝てばいいのだ。勝てば・・・。
「やるよ」
席に着いた。
するとすぐにいかつい男が目の前に来てこちらを見下しにやりと笑って対面の席に着く、するとどよめきが湧き起こる。
「おいおい、まさかビッグの登場とは!」
「相手はまだガキなんだぜ!?」
「こりゃ勝負は決まったな」
こちらを哀れむ声が多数。どうやら俺はデビュー戦でいきなり周りに一目置かれる強豪と当たってしまったようだ。
価値は絶望的、周りで見ている奴はみんな俺の負けを確信し鼻で笑っている。
だが俺にとってはどうでもいい、笑いたい奴は笑えば良い。
どっちが勝つかなんて勝負が始まらないと分からないだろうがっ!
ばんっと勢い良くテーブルを叩き立ち上がる。
そしてビッグとやらに言い放つ。
「すいません、辞退します」
勝負が始まらなければ勝ち負けなんて決まりません。
俺の今の経済状況で負けるわけにはいかんのですよ。なので勝てそうにない勝負からは早々に手を引きます。
さっさと立ち去ろうとしたのだが外野の男たちの壁が阻む。
「あの〜通して貰っても?」
「対戦相手が決まった時点で既に勝負は始まっている。逃げるってんならあんたの負けって事になるが?」
う、嘘だろう!? なら俺にはもう勝負する以外の選択肢はないと言うのか!
いかつい男たちに周りを固められ逃げる事も叶わず勝負の席へ。
「このビッグ・フーゴウ様と当たったのが運の尽きだな。諦めて俺に飯を奢っていきな!」
・・・ビッグ・フーゴウ?
「勝負はどうする? お前が決めていいぜ」
目が合うや否や男が自信ありげに聞いてくる。
それは好都合。
「神経衰弱でお願いします」
神経衰弱を選んだ理由は記憶力には多少自信があるというのともう一つ奴の名前。
ビッグ・フーゴウ、即ち大富豪! こいつが得意なのはまず間違いなくそれだ。
それにこちとら子供の頃から教育社会で生きてきたんだ頭で負けるわけがない!
「それじゃあ、負けた奴が奢る飯は何にする?」
俺の宿代と食費を合わせればギリギリステーキの値段になる。
「じゃあ・・・・・ステーキでお願いします」
こうして俺の負けられない戦いが幕を開ける。
「神経衰弱は一番得意なんだ。選んでくれてありがとよ」
ビッグ・フーゴウは神経衰弱が得意だったらしい。
・・・紛らわしい名前しやがって!!
で結果は惨敗、になると思いきやなんと意外な事に俺の勝利、しかも結構簡単に勝てた。
「くそぅ!!」
いかつい男がバンと机を叩く。
見るからに悔しそうでこのままリアルファイトに持ち込まれそうな予感しかしない。
だがその男、案外良い奴だった。
「次は俺が勝つからな」
そう言って握手を求めてきてそれに応じるとなんか満足した顔で奢って去って行く。
負けを負けと認める男の鑑。
またいつでも相手してやる、そんな思いで漢の背中を見送ってから久々のご馳走に舌鼓しながら教育の重要さを思い知った。
次の日もルナと魔物討伐に向かい報酬ですべての借金を払い終えお金も少し入ったので今日は普通にご飯が食べられる。
しかし基本的にケチ・・・・・・いや、節約家な俺は今日も酒場にいた。
「ぐふふふ・・・今日は誰に奢ってもらおうかな?」
俺が店に置いてあるトランプを手に取り席に着き神経衰弱で勝負してくれる人を待っている時、背後から聞き覚えのある美しい声が聞こえてきた。
「あら、ユウタさん?」
振り返り見てみると。
「フ・・・・フレイヤさん!?」
まさか彼女にこんな場所で会えるなんて想像もしていなかった。驚きで固まっている俺に対して「お久しぶりです、こちらでお食事でもされてたんですか?」と近寄って来る。
「いえっ、ちょっと・・トランプで勝負してくれる人を探してたんです」
「トランプですか?・・・・あぁ、トランプで負けた人が食事を奢るというやつですね」
「はい、あんまりお金を持ってないんであんまり高い料理は賭けられないんですけど」
「そうですか・・・・・」
フレイヤさんは口元に手をやり、少しの間何かを考えるような仕草をして、
「それでは、私が勝負致しましょうか?」
・・・え!?
少し迷った、勝負して俺が勝てば彼女にご飯を奢らせる事になってしまう。それはなんか申し訳ない気がする。・・・・・・しかし彼女とトランプしたい! 俺が勝つことになっても高い料理を賭けてなければいいだろう・・・・・・俺は彼女とトランプがしたい!!
「それじゃあお願いします、賭ける料理はこの安めのでいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。勝負は何にしますか?」
「神経衰弱でお願いします」
・・・・・・勝負はすぐに決した。
俺は勝った・・・それも、圧勝だった。
「私の完敗ですね、ユウタさんはとてもお強いんですね」
フレイヤさんは負けたにも拘わらず笑顔だった。
「い・・いえ、運が良かっただけですよ」
そうして、彼女は俺に料理を奢ってくれ、その後、酒場を後にしていった。
この時食べた料理は安い料理だったがとても美味しく感じた。
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