第5話 ぼっちな俺に仲間が出来ました
辺りはすでに暗くなっていた、疲労で限界の俺はふらりふらりと足を引きずるようにして彷徨い歩いているといつの間にか町はずれの教会に辿り着く。
外見はお世辞にも綺麗とは言えない寂れた教会。
俺の想像する教会とは窓はステンドグラスで大きな女神の像が置いてあるようなイメージを持っていたがここの教会はそういう事はなく、中は横長の椅子が八個並んでおり、その前方にテーブルが一つ置いてあるだけのこぢんまりとした様子だった。
夜間だからか神父さんらしき姿は見えないが疲れ果てていた事もあり「とりあえず一晩だけここで寝させて下さい」と天に祈りを捧げさっさと椅子に横たわり目を閉じる、度重なる苦難を味わった身体はすぐさま眠りについた。
◇
「う~~ん・・・・」
何かの物音を聞いて目を覚ました。もう朝なのだろうか窓から眩しい光が射している。
寝ぼけ眼で物音の方に目をやるとそこには人影があった。
目をこすりしっかりと見てみるとそこには修道服を着て長く伸びた金髪を背中のあたりで結んだ女の人がいるじゃないか! 目も一瞬で覚めるというもの。
しばらく、声をかけずに彼女の様子を眺めた後に、体を起こすと、その女の人も俺に気付いたようで、
「すいません、起こしてしまいましたか?」
と春の微風の様に優しい音色で申し訳なさそうに尋ねてきた、その姿に俺は又しても目を奪われた。
「いっ・・・・・いえ・・・・おはようございます」
挙動不審、そう思われても仕方ない返事に彼女は笑顔で答えてくれた。
「おはようございます、よく眠れましたか?」
「あっ・・はい、それはもう・・・あなたはこちらの教会の方ですか?」
「はい、私はこちらの教会のシスターでフレイヤと申します、そちらは何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「お・・俺はユウタです・・・・すみません、勝手にこちらの教会を使ってしまって」
「いえいえ、ここはみなさんのための教会です。困っていらっしゃる方がいつでも利用できるよう鍵はかけておりませんし、それに神様はとても慈悲深いお方なのでどんな方だって受け入れて下さいます、なので、どうかお気になさらず」
フレイヤさんは曇りのない透き通った瞳でそう答えた。
ああ、確かに神様は慈悲深い、不運にも死んだ俺を転移させてくれた。
・・・・・・・・・・・・・・魔物が徘徊する真っ暗な森の中で5ゴールドだけ渡してだが。
まあ、それは置いといて、彼女は容姿だけでなく性格まで美しいとは・・こんな人とお近づきになれるなんて・・・俺はなんて幸運なんだろう。
顔を蕩けさせて喜んでいると彼女は突然俺の方に近づいてきて、なんと!すぐ隣に座った。
身体が触れるほどではないが彼女の髪からもたらされる甘美な香りが鼻に届くくらいは近く。
「どうしてこちらで眠っていらっしゃったんですか? 差し支えなければ教えて頂いても?」
とおまけに顔を近づけてきて質問してきた。パーソナルスペースを容易く突破してきた彼女の積極性にあたふたする情けない俺などお構いない、親以外の女性との接点が壊滅的に無かった俺はこんな状況にはとてもじゃないが対応できるはずもなく、
「えーと・・・それは・・・ちょっ・・・ちょっとお金がなくって・・・」
盛大に挙動不審を発揮する。
「この村にお住まいの方ではありませんよね? 初めてみるお顔ですし服装もあまり見ないものですから。ひょっとして旅のお方ですか?」
「ええまあ、そんな感じです」
未知の異世界を旅する流浪人です。
「随分と服装が乱れている様ですが何かあったんですか?」
言われて改めて自分の姿を上から下まで見てみると確かに随分と酷い有り様だ。
丈夫な高校指定の制服は泥と魔獣の血に塗れビリビリに破けている部分もあり一般の人から見ればただ事じゃ無いご様子。
「少々手荒な魔獣と出くわしまして、そいつと死闘を繰り広げた結果ですね」
こっちに来てすぐ俺はとんでもなくやばいのと遭遇している。
一方的にボコられていただけではあるが死線を潜り抜けてきたのだ、少しくらい誇ったってバチは当たらないだろう。
「夜喰いの森って知ってます? あそこで一夜を明かしてきたので」
そう口にするとフレイヤさんは目を見開いて驚きを露わに。
その反応を期待していた。
「あそこを生きて抜けられたのですか? たった一人で」
「いえいえ、俺ともう一人いました」
「成る程、それは大変でしたね。そんな苦労をされたのであればまだ疲れも完全に癒えてはいないんじゃないですか? もう少しお休みになっては如何ですか。どうせ此処に人は寄り付きませんし」
湿り気のある声が耳から入ってきてからフレイヤさんの手が肩に触れる、そして最後に上目遣い。この一連のコンボに俺の体は拘束されたかの様に自由を奪われ仕事の事など忘れて重い腰をそのままにした。
「確かにまだ疲労が残っているみたいです、もう少し此処にいさせてもらいます」
「それがよろしいかと」
人気の無い場所、二人きり、男と女、何も起こらないはずは無い。
「はっ!?」
再び教会の硬い椅子の上で目を覚ます。
寝ぼけ眼を擦り状況確認。外はまだ明るい、それほど時間は経っていない様子。近くには誰もいない、フレイヤさんも何処かに消えている。
しんと静まり返った空間にただ一人、先ほどの出会いが幻だったかの様にも思えてくる。
少し記憶を辿る。
確かここで休むと決めてそれからちょっとお話ししてそうこうしている間に本当に寝てしまった模様。
何も起こらずせっかくの出会いをこうもあっさり無駄にしてしまうとは・・。
結局聞けたことは彼女の好きなものと嫌いなものだけ。
好きなものは特に無し、嫌いなのは感謝の心を持たぬ者といういかにも聖職者な答えを頂いて意識が途切れる様に眠りに落ちた。
残念な気持ちは確かにある、だがこの出会いを力に変えて俺は立ち上がる。
また近いうちにこの教会に訪れよう・・・・神様に祈るためじゃなく、あの方に会うために・・・・。
邪な目的で教会を再び訪れると誓った。
◇
本物の女神との出会いですっかり元気を取り戻した俺は再度町の外に出て孤立しているスライムを探しだし奇襲を仕掛けるやり方で戦った。
先制攻撃の重要さを改めて思い知りつつ夕方になる頃までに何とかスライムを2匹倒し依頼の品を集めきった俺はレベルが2上がって攻撃力・防御力など色々な能力が強化された・・・・・・・気がした。
敵を倒して経験値を得たら勝手に筋肉もりもりなんていうゲームみたいな甘さが無い。レベルという概念が無いので強くなるには経験を経てその身に戦う技術を刻みつけていくしか無い、で、その内才能という壁にぶち当たって挫折する、そんな自分の未来が薄ら見えてきたので首を振ってかき消す。
世知辛い仕様だと愚痴ったところで世界の理は変わるはずもなく無駄でしかない、今は今日を生き抜く事を考えよう。
力よりお金、でないと今日も何も食べずに眠ることになる。
未知と疲れが紛らわしてくれた空腹感が今になって猛烈に襲って来てる。
腹が減っては戦はできぬ。
うん、今日はもう十分頑張ったし帰ろ。
そうしてボロボロの俺は酒場に向かった。
酒場に入ると何やら様子がおかしかった。酒場の奥の方で人溜まりが、原因はどうやら若い男と女の言い合い。
「何だ? リア充カップルの痴話喧嘩か、まったく、こんな場所で恥ずかしくないのか、人がこんなに苦労してるのに・・・・・爆ぜろ!!」
と聞こえないように罵倒してスッキリしたところで受付に向かい依頼の品を渡した。
その間も展開される喧嘩をよく聞いてみるとカップルの痴話喧嘩とは違うようだった。
男「お前はもう少し優しい言葉で人と接する事は出来ないのか!!」
女「別にいいじゃない! 私は思ったことをそのまま言ってるだけよ!!」
男「いや・・だから、それが問題なんだよ・・・お前の言葉に俺達がどれだけ傷つけられたと思ってるんだ!! もっと筋肉を付けろだ、もっと痩せろだ、他にもさんざん言ってくれやがって、酷すぎるだろ!」
男が今にも泣きそうな声でそう言っていた。
女「そう思ったからそう言ったまでよ」
男「このっ、もういい、分かった、お前とはもう二度とパーティーは組まない!」
可哀想にそうとうどぎつい性格の女とパーティーを組んだようだ。
俺もこちらに来てすぐにそういう奴に出会ったから気持ちは分かる。同情するよ。
報酬の50ゴールドを受け取り上機嫌で帰ろうとした時。
女「こっちこそお断りよ、それじゃあさようなら」
人ごみを縫うようにその女が出口に向かって行った。
そう、その女はルナだ。
驚きはしない、聞き覚えのある声にうすうす予感はしていたがとんだ再会だよ全く。
彼女は俺の存在には気づかなかったようだがチラリと見えた横顔は何となくだが少し落ち込んでいるように見えた・・・が・・・たぶん気のせいだろう、あいつの性格上これくらい何も気にしないだろうから。
だがしかし、ああいう強気な子ほど案外脆いところがあると聞くが・・・。
気になる・・・・。
「えーい、しかたない」
助けてもらったお礼もまだしてない。
俺はこっそりルナの後をつけた (注)これは彼女が心配だからで他意はありません。
紳士的に励まして元気付けようと思ったのだがまず初め、声を掛ける段階で躓いている。
それほど親しくない女性に声かけるなんてした事ない、なので勇気が出るまでしばらく彼女の後ろをついて歩く、すると彼女が突然路地裏に入って行った。
これは、アニメやゲームなどでよくある尾行に気付かれているパターン、このまま追いかけて路地裏に行くと彼女が待ち受けてたりして・・・。
予想的中。。
そこにはこちらを向いて待ち構えるルナの姿。
予想通りの展開で特に驚きはせずむしろ笑えてくる、そのせいだろうか?
「ちょっと、にやけ顔でなに人のこと付け回してるのよ気持ち悪いわね」
人を突然気持ち悪いと中傷してくる。
ただ薄っすらと微笑んでいるだけの俺の一体何処が気持ち悪いというのかとんだ言いがかりだ!
なのでムキになって言い返すとする。
「偶然同じ方向に目的地があっただけだ」
「この先行き止まりだけど」
「この路地裏に用があったんだ、今晩寝る所に良さそうだなって・・」
「あんた野宿してんの!? 成る程だからくさ・・・変な匂いがしてるんだ」
その言い直しはあまり意味が無い、どちらも等しく俺の心に大ダメージを与えてくるよ。
なんでこんな奴励まそうなんて馬鹿なこと考えたんだ俺、こんな余計なことしなきゃこんな痛み知らずに済んだのに。
「臭くてごめんなさいさようなら」
残酷なまでに正直な女に別れを告げる、こういうタイプは苦手だ逃げるに限る。
これ以上の傷を作らないために早々に立ち去ろうとすると「待ちなさい」と呼び止められたのでそれを無視して走り出す。
死体蹴り、オーバーキル、これ以上はごめんだ勘弁してくれ、そんな俺の逃走劇はすぐに捕まり終わりを迎える。
「待ちなさいって言ったでしょ!」
あっさり追いつかれた。
「臭いって言ったじゃん!」
「臭いとは言ってない変な匂いがするって言ったの!」
「意味は同じだっ!」
「じゃああのまま黙っててずっと周りに臭いを振り撒いて嫌な顔されてるのも気付かないまま生活するのが良かった?」
「それは・・」
「私はわざわざ周りが言いにくい事を言って教えてあげたの、感謝して欲しいくらいなんだけど?」
「さっきもそうだけどさ、もっと言い方ってものがあるんじゃ・・」
気付きを与える為とはいえちょっとキツすぎない?
それは例えるなら危ないと言いながら人を全力で突き飛ばして殺しにくるのと同じ、結局致命傷を与えている。
「もう少し優しくなろ」
凄く睨まれた。
「優しくしてる」
・・・何を言ってるんだ? 優しい奴はあんなはっきりものを言わない。遠回しに言って気付かせるものだ。
「あの人達は私の言ったところを直せば今後の戦いがもっと安全で楽になるはずなのよ! だからそれを指摘してあげたのに・・・・」
と、むっとして口を尖らせた。
なるほど不器用なのか。こいつは本当にあの人達に対して親切のつもりで言っていたんだろうが、不器用さ故直接的な言い方しか出来ずああなったと。
「そっか・・・なんかごめん勘違いしてた。すごい優しい奴なんだな」
「別にそこまでじゃ無いけど」
「いいや優しいよ、よくよく考えたら相手の問題点を面と向かって言うのって結構勇気いるからな。そこさえ直せばもっと良くなると分かっていても大抵は自分が嫌われたく無いっていう打算的な考えから黙る方を選ぶ、でもお前は相手の事だけ考えてちゃんと言えるんだから優しいし凄いよ」
「べ、別に私は自分が気になった事を言ってるだけだし・・」
「ただ一つ言わせてもらうとしたらもうちょっと言い方を改善したら良いかもな、表情とか言葉遣いとか少し工夫したらすぐに仲間も友達もできると思うぞ、だから、まぁ、これで旨いものでも食べてとりあえず頑張れ」
俺はなけなしのお金から10ゴールド取り出して手渡した。
相手は命の恩人、とてもとても痛い出費ではあるが仕方あるまい。
「何、励ましているつもり?」
「そんなところだ、お前は命の恩人だからな」
「ふ~~ん、でもこれっぽっちじゃ美味しいものなんて食べれないんだけど?」
「・・・・・じゃあ返せ」
「嫌だけど」
「・・・ふざけんなこの野郎! 俺の汗水流して稼いだ貴重な10ゴールドを馬鹿にしやがって!」
奪い返そうと手を伸ばすも避けられた。
「ちょっと何よいきなり!?」
「それは俺からすれば大金なんだよ! それをお前は、お前は・・・」
「あーはいはい、悪かったわよ謝る、ごめんなさい。だから落ち着いて」
「分かってもらえればいいんだ、じゃあ返して」
「嫌だけど」
「はぁ!?」
「だってくれるんでしょ? 一度言ったことを無かったことにするなんてみっともない事するつもり?」
くっ! まあそれもそうか。
「いいよ分かった受け取れぇい!」
半ばヤケクソに納得し「じゃあ元気でな」と格好良く背を向け手を上げ立ち去ろうとする俺の服の襟をルナが引っ張る。
「えっあっ、ちょっ!?」
突然で慌てふためく俺、カッコつけたのに台無しじゃないか・・・。
「あんたどうせまだスライムにも苦戦してるんでしょ? だから私があんたとパーティー組んであげるわよ」
「・・・・・え!? なんで?」
確かに苦戦しているのは事実だ。今のままでは大した収入も得られず毎日の食べるお金にも困る生活になるのは目に見えてる。
だが理由が分からない、俺みたいな雑魚と組んでも得はないだろうに。
「私が鍛えてあげる、それでちゃんと稼げる様になったらその時にちゃんとしたご馳走を奢ってもらう。こんな10ゴールドじゃなくてちゃんとしたものをね」
出世払いってか、でもまあ助かると言えば助かる。
一人で無茶して何処かで野垂れ死ぬのも嫌だし。
だがこいつの言葉はトゲだらけ、指導者にしてしまえば厳しい部活の監督の如く毎日罵倒してきそう。そういうのちょっと苦手なんだけど背に腹は代えられない。
自慢じゃないが忍耐力には自信がある・・・・別にそういう性癖は無いよ。
そして俺は襟をひっぱり上げられた状態のまま答えた。
「お願いします・・・」
ルナが仲間に加わった。
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