第2話 プロローグ 異世界

普通の人間に空は飛べない、つまりこの女神は普通じゃない何か。

そんな奴が異世界とか言ってるなら事実のような気がする。


「一体何者?」


「私ですか? 私は・・・・そうだ・・・神様です、とっても偉い神様です」


とってつけたように神様と名乗るこの女、いやいや絶対に違うだろう“そうだ”とか言ってるの完全にこちらに聞こえてますよ。だが、さっきのを見た後で単に頭のおかしな人と思えるわけもない、はて一体何者なんだ?


訝しげに彼女を見つめる。


しかし、そんな俺の表情を気にする素振りも見せずマイペースで話を続ける。


「それじゃあ、理解して貰えたところでもう一度簡単な説明です。あなたは死んで、なんと今は別の世界に来ちゃってます。つまり異世界に転移しちゃったんですね、これからあなたはこちらの世界で第二の人生を謳歌しちゃってください、以上」


早口で一気に説明を終えて女神は白く細い人差し指で俺の額に触れる。


「それでは元の世界への未練をきっぱりと断ち切る為に死んだ時の光景を見せてあげましょう」


そう言われてもなにを言ってるんだとしか思えない、というかそう思いたい。自分が死ぬところなんて怖くない? 知らなくても良いことってあると思うんだよね・・・・・すると、唐突に記憶が蘇ってきて死んだ時の映像が頭の中で再生された、そして、全てを思い出した。そうだ・・・・俺は、確かに死んだんだ。


それは、不運な事故だった。


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学校からの帰宅途中、雷雨の中、人も車もあまり通らない田舎道を歩いていた俺の目の前に偶然一匹の猫が現れた。人間は苦手だったが動物は割と好きだったのでちょっと近づいてみたが、その猫は驚いたのかすぐ逃げ出してしまった。


しかし、逃げた場所が悪かった。


偶然やってきた車の目の前に飛び出るように行ってしまったのだ。それを見た俺は自分のことなんて顧みず咄嗟に飛び出し、その猫を安全な所に突き飛ばしたが俺はその場で情けなくも転んでしまったのだ、そして俺は迫ってくる車に轢かれて死んだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・のではない、そう、何かの物語なら俺は猫を身を挺して救い悲劇にも死んでしまい多くの人にその勇気ある行動を称えられるというような流れになるのだろうが。


だが、現実はこうだ、俺は猫を安全な所に突き飛ばしたので猫は怪我もなく無事だった。そして俺も、車は思ったよりもスピードを出していなかったので道の真ん中で転がっている俺を轢く前に止まったのだ。


だったらなぜ死んだのかって?


猫を救った俺は家に向かって歩いていた、そして、不運にも雷に打たれて死んでしまったのだ・・・・・


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「思い出しました?」


「・・・・・・はい、思い出しました」


「それは良かったです。で、あなたがあまりにも残念だったので、この世界での、つまり、あなたにとっては異世界で新たな人生を謳歌させてあげようということになりました」


俺は自分の不運のおかげで今この場所に転生してきたようだ。転生できたことを喜べばいいのか、死んだことを悲しめばいいのか、よく分からない感情が渦巻いていた。どちらにせよ、前の世界での俺は死んでしまったのだ。


そうか、本当に死んだのか・・・・・。


突然の別れ、家族に会えなくなるのは悲しいがこうして異世界に来たのだ、天国ではなく異世界に、前の世界での俺の生は完全に終わっている、ならいつまでも落ち込んでいる訳にはいかない。落ち込んでいてもどうしようもないしやれる事をやってみようと決意。


「それで 俺はこれから何をすればいいんですか? 異世界だしやっぱりここは民を苦しめる魔物や魔王を倒す勇者として冒険の旅に出ればいいんですね」


やる気に満ちた表情で質問する。異世界と言えばやっぱりそういうものだろう、魔物がいて剣と魔法でなぎ倒していく、想像するのはそんなゲームのような世界だ。


「張り切るのは結構ですがここはそんな単純な世界じゃありませんよ。全てが作り物ではなくちゃんと命を有している、それをちゃんと頭に入れておく事ですね」


「でも人を傷つける敵は倒すのが勇者の役目だろ?」


「その考えに間違いはないか。敵とは何なのか。この世界の歴史を知らない異世界人として見極める事があなたの使命、と言っても貴方にはよく理解出来ないでしょう・・・頭悪そうですし」


「・・はぁ」


最後小声で直球の悪口が聞こえてきたが神様が相手だから我慢。自称だけど。


「ですので私が貴方に求める事は一つ、あなたはただ普通に生活してくれれば結構です、そうやって色んなものに触れて下さい。その先はなるようになるでしょうから」


「普通に生活? 勇者としてドラゴンに囚われた姫を救ったりは?」


「やりたいならどうぞ。そんなピンポイントな状況に出くわせばね」


「陰謀企む悪の組織的なものを壊滅させたりは?」


「好きにして下さい、貴方がそんな組織を見つけ出せればね」


「世界を滅ぼそうとする強大な敵を打ち倒したりは?」


「それは・・・好きにして下さい」


どれも適当に流された気がする。


「もう良いですか? 私もそろそろ限界なので」


そう告げる彼女の体が突如光出し、徐々に透けていくのが分かった。


「ちょっ・・・待って下さい、言葉とかはどうしたらいいんですか? 俺は異世界の言葉なんて話せませんよ! 日本語オンリーですよ」


「そこらへんは大丈夫ですよ、色々と都合よくなってますので気にせず頑張ってください。あ! それと、これは私からのささやかなプレゼントです。御守りがわりですので肌身離さず持っていてくださいね、ああそれと一つ忠告です。あなたがこれから進むべき道は右側、決して左になんて進まないで下さいよ。それでは頑張ってください」


今さっき思い出したかのように急いで黒い袋を取り出しこちらに投げ渡してきた。その袋の中身を確認してみると、中には金色の硬貨が5枚、たぶんこちらの世界のお金なんだろうと推測できた。


「あなたの人生が再びバットエンドにならないよう祈ってます」


「ちょっと待ってくださいよ! 何か能力的なものは?」


「甘えるな♡」


圧倒的無慈悲。

そして消えていなくなった。

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