第36話 パニック

 家に帰ってきてお父さんとお母さんが出迎えてくれた。

 「お帰り~、今日は早かったわね………ってどうしたの⁉

 総司!」

 「だ、大丈夫か⁉」


 お兄ちゃんの異変に気が付いたお父さんとお母さんはお兄ちゃんに駆け寄る。

 

 「お父さん! お母さん! お兄ちゃんがお兄ちゃんが!」

 「深雪、落ち着いて。 それよりまずは総司よ、あなた!」

 「はい!」

 「総司をまず着替えさせて! それから体をふいて総司の部屋に連れて行ってあげて! わかった?」

 「ああ、わかったよ!」


 お父さんが気力をなくしまるで自我がないような状態になっているお兄ちゃんと一緒にお風呂に向かった。

 

 「わ、私はどうしよう………な、何かお兄ちゃんのためにしないと………!」


 私はパニック状態に陥っていた。

 お兄ちゃんを何とかしてグラウンドから逃げるように家に帰ってきてはいいが、ここから何をすればいいかわからない。

 帰るときに何回もお兄ちゃんに声をかけたが、何を言っても反応が返ってこなかった。

 私が一番恐れてていたことが起こってしまったんだ。

 お兄ちゃんの精神が壊れかけていたことがわかっていたというのに! 

 私は!

 私のせいでお兄ちゃんが!


 「深雪! 落ち着きなさい。 大丈夫、お兄ちゃんは大丈夫だから。 だから、何があったかお母さんに話してくれない? お兄ちゃんのことはお父さんに任せればいいから」

 「う、うん」


 パニック状態になっていた私をお母さんは落ち着かせてくれた。

 この時の私はまだ小学5年生だ。

 小学5年生なんてまだまだ子だもだ。

 だからできることは限られていた。

 そして、今になってから思うがお母さんはこの時本当にすごいと思った。

 お母さんも何が起こっているのかわからないというのに冷静に対処して、お父さんに的確に指示を出して私を落ち着かせた。

 この、何気なくお母さんが行ったことは今になってから本当に助かったと思っているし、お母さんのことは本当に尊敬できるようになるのだがそれはまた違う話だ。

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