第33話 クリーンナップ


 それから一年はずっと兄さんは活躍していた。

 しかし、雲行きが怪しくなってきたのは兄さんが最高学年の6年生になった時だった。 

 チームはとても強くなり、毎回大会では優勝争いをしているような強いチームになっていた。

 兄さんが6年生になってから二か月がすぎたぐらいのころだっただろうか。

 兄さんが急にクリーンナップを外されたのだ。

 私は兄さんが何で外されたのかはわからなかった。

 そのことをお父さんに聞くと


 「なんでお兄ちゃんはクリーンナップじゃないの?」

 「う~ん、それはお父さんにもわからないなぁ。 でも、監督が決めたんだからしょうがないんじゃないのかな? まぁ、お父さんは総司がクリーンナップで活躍する方がうれしいけどね」

 「う~ん……そうなのかなぁ? 私も変えてほしくなかったな」

 「でも大丈夫。 総司がもっと打てばまたすぐにクリーンナップに戻るから。 だから深雪も総司の練習を手伝ってあげて」

 「うん、それはもちろん手伝うけど………」


 でも、その時に私は何となく嫌な予感がしたのだ。

 クリーンナップを外された時の兄さんの顔がいつもの自信に満ち溢れていて、野球を心から楽しんでいた時の兄さんの表情じゃなくなっていたような気がしたから。

 




     ◇

 嫌な予感ほどよく当たる。

 その時から兄さんのバッティングの調子がどんどん落ちていった。

 もちろん練習は毎日やっていた。

 いや、今まで以上に練習を頑張っていた。

 それでもバッティングの調子は戻らなかった。

 それに悪いことは重なるもので、守備の調子も落としていた。

 それに腹立たしいことも起こった。

 野球というスポーツは一回交代すると申し合いに戻ることが出来ないというスポーツだ。

 そして、兄さんが守備で一回でもエラーをしたらすぐに交代させられた。

 まぁ、それはしょうがない所はあると思う。

 ミスは誰にでもあると思うから。

 それになりよりも腹立たしかったのは監督の息子が兄さんの同級生にいたのだけどその人がエラーしても決して交代させられることがなかったのだ。

 兄さんは一回でもエラーしたりしたらそく交代なのに、だ。

 それに私は聞いてしまった。

 兄さんがエラーした後、交代になって監督が兄さんに


「今のはなんでエラーしたのかわかるか?」

「それは……努力が足りなかったからです」

 「ああ、そうだな。 ほかのやつらはちゃんと努力している、だからお前ももっと努力してエラーをしないようにしろ。 わかったな?」

 「はい、よりいっそう努力します」

 

 という兄さんと監督の会話を聞いてしまった。

 その会話で私は監督に殺意を覚えた。

 監督は兄さんがどれだけ努力しているのか知らないのだ。

 毎日毎日、兄さんは今まで以上に頑張って練習している。

 それなのに“努力が足りない”って!

 そんなのあんまりだ。

 兄さんは学校以外のほとんどの時間を野球の練習につぎ込んでいた。

 それなのに報われない。

 私は何とかして兄さんの努力が報われて欲しかった。

 しかし、その努力が報われることはなかった。




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