第四章 赤坂深雪

第27話 走る

 (赤坂深雪視点)


 「はぁはぁはぁ、まさか兄さんに、か、彼女がいたなんて! はぁはぁ、それにキ、キスもしていたし………」


 私は兄さんの屋上でのことを見てしまって反射的に逃げ出してしまっていた。

 なんであの時に私が屋上にいたのかというと、兄さんが部室から出て行ったあと、私は兄さんのことが気になって将棋どころじゃなかった。

 そんな私に部長は


 「そんなに少年のことが気にあるんだったら見に行ってみたら?」

 「で、でもどこにいるかもわかりませんし………」

 「それなら多分屋上にいるんじゃないのかな?」

 「屋上? 私たちの高校って確か屋上に行くことは禁止されているはずじゃ………?」

 「ふふっ。 でも、多分いると思うだからあんまり期待はしないでね?」

 「わ、わかりました」


 ということがあり、屋上にの扉の前に就いた私はドアに手を持っていき

 「あれ、開いてる?」


 そうして私がドアを開けた瞬間に私の視界に広がった光景は


 「え?」 

 「ふふっ、ごめんなさい。 気持ちが抑えきれなかったの」


 兄さんと学園一の美少女と名高い三輪凛の二人がキスをしている瞬間だった。


 それからの記憶は曖昧だ。

 気がついたら私は学校を出て、行く当てもなくがむしゃらに町の中を駆けていた。

 

 「はぁはぁ、はぁはぁ」


 私は行く当てもなく走る。

 どれだけの距離を走ってきたのかはわからない。

 たくさんの距離を走ったのかもしれないし、そんなにたくさんの距離は走っていないのかもしれない。

 それでも全然疲労は感じなかった。

 その代わり、胸が締め付けられるように痛かった。

 それは走っただけの疲労のせいだけではないはずだ。

 「はぁはぁ、兄さん、兄さん」


 私の頭の中は兄さんのことでいっぱいになっていた。

 いや、それはいつもそうだ。

 私はずっと兄さんのことだけを考えている。

 ほかの人なんかどうでもいい。

 私はもうお父さんと、お母さんと部長と兄さんしか信じることはできないから。

 

 「はぁはぁ、でもまさか本当に、あの人が兄さんの彼女なの? はぁはぁ、あの人は確か学園一の美少女と言われている三輪凛さんのはず。 でもあの人は学校のどんなイケメンやお金持ちの人が告白しても全員振ったはず………それなのになんで兄さんと………?」


 私はちょうど通りかかった公園のベンチに腰を下ろして一回冷静になって考えてみることにした。

 その公園は昔兄さんとよく一緒に野球の練習をした、近所の公園だった。

 

 「私、こんなところまで走って………」


 学校から家まではかなりの距離があるそれを走ってここまで来たのだから相当の距離だ。

 私はベンチに腰掛ける。

 ここは兄さんと私の思い出の場所だ。

 だから私はこの公園が大好きなのだ。


 

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