1−9この世界にはさまざまな神がいる
地上に戻ってきたイヴたちは本日の成果物を換金すべく冒険者ギルドへと向かった。
ギルドには時間帯の問題かまだ人が少なく、夕方にはいつも満杯になっている飲食スペースも人がまばらにいるだけだった。
成果物の換金は錬金術師の仕事だが、今日の実入りはあまりよくなさそうだ。
六階層に入ったばかりで切り上げたせいだろう。
「ごめんねお姉ちゃん……私のせいで……」
「いいのよウルサ。冒険者稼業は助け合いだもの。あなたが私の妹でなくても、私たちはきっと同じように救助したわ。ねえ、みんな」
パーティメンバーたちはうなずいた。
イヴにとっては『いずれ去るおかしな世界の人たち』ではあるが、彼女たちの誠実さや善良さだけは、きっと『もとの世界』でも通じるだろう。
服装は通報待ったなしという感じだけれど……
換金作業が終わった錬金術師が戻って来ると、食事の時間が始まる。
リーダーはその日の稼ぎをほとんど食事代に使ってしまうが、さすがに他のメンバーはそこまで投機的ではない。並べられたメニューからそれぞれの個性がうかがえた。
四人がけのテーブル一つを占有して肉、肉、肉! を並べているリーダーは、料理が運ばれてくる先からかぶりついて、口を肉汁とソースでベッタベタにしている。
魔法使いは小柄さから想像できるように少食だ。薄めたエールを飲み、パンをかじりながら脅威図鑑を読んでは「ああ、この魔物……とても危険そう……イイ……」と悶えていて、食事は『ついで』という感じだった。
錬金術師はテーブルの上に『全身金属の化け物の頭』を置いている。食事は果実水だけだ。
その『化け物の頭』はイヴから見れば『フルプレイトメイルの兜』なのだが、他の人には『謎の金属生物の生首』に見えるらしい。
そこらの人がギョッとしているし、リーダーは「やめろよ、食欲が落ちるだろ……」と言いながらめちゃくちゃ食ってる。
「いやいやいやいやいや! リーダー! これの価値がおわかりでない!? こいつはすごい発見ですよ! 見てくださいこの、人の頭部を模した金属! どうしてこんな無駄な装飾をしようと思ったのか!? 魔物を生み出したと言われている『ダンジョン神』の━━」
ここで語られる『ダンジョン神』は『ダイスを転がす男神』とはまた別の存在だ。
ここらは『もとの世界』との共通点だが、この世界にもやはり神は多い。そしてそれぞれの神がそれぞれ違ったものを司っている。
ダンジョン神は『ダンジョンと魔物を生み出した』とされる神で、『ダイスを転がす男神』は人の運命を司っている。
基本的に名前のない神は人類にとって『敵』あるいは『敵か味方かわからない』とされ、名前のある神は『人類の味方』とされている。
イヴの信仰するミタ神なども人類の味方とされている。
……まあ基本的に味方でない神を信仰する理由は特にないのだが、『ダンジョン神』などのあきらかに敵寄りの神にも一定数信者がいたりするので、一概には言えない。
「今日は早く終わったけど、イヴはこれからどうする?」
リーダーが『錬金術師の話が長すぎて聞いてられない』という感じで話題を振ってきたので、イヴはちょっと悩んでから答える。
「ミタ様の神殿に行こうと思っているわ」
「ああ、僧侶はなんかあるんだっけ? 信仰ポイント的な……うん、わかった。食べ歩きに誘おうかと思ったけど、そういうことなら今日は解散だな」
「まだ食べるの……?」
「逆にお前はもう食べないの?」
イヴはパーティメンバーの善性を信頼し、彼女たちを得難い無二の仲間だと思っている。
しかし仲間のすべてを受け入れられるわけではない。にっこり笑って「じゃあ解散ね」と話を強引に〆た。
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