1-4 病弱な妹ウルサは褐色マッチョパワー系剣士になってしまった

 イヴたちのパーティはこの街において中堅どころで、主に第五階層を稼ぎ場にしている。


 この街のダンジョンはいわゆる『洞窟型』で、自然物のような鍾乳石が天井から垂れ下がり、地面はうっすら湿った岩で滑りやすく、また空気はひんやりして、深く潜るほど寒くなる。


 たまに湖のような場所もあり、そこはなぜか魔物が寄り付かないので、『セーフポイント』あるいは『レイクポイント』などと呼ばれ、あたりを探索する者たちの集合・休憩場所になっている。


 今日もイヴたちの他に中堅どころの冒険者パーティがあたりにはいて、それぞれのパーティで車座になって丸出しの尻を冷たい岩の地面に乗せて座り、本日の探索項目の確認などをしていた。


 ダンジョン探索はだいたいが日帰りなので、メインの稼ぎ階層はそのパーティが『あっさりそこまで到達できて、なおかつ充分な探索時間をとった上で、よほど男神のダイス目に嫌われなければ日帰りできる階層』を示す。


 そういうわけで冒険者パーティの実力は階層で示されることが多く、ここらに集うパーティは『五階層級』と呼び称される。


「お姉ちゃん!」


 イヴがパーティメンバーと今日の予定の再確認をおこなっていると、かわいらしい声がかけられた。


 一瞬ぎょっとしたイヴは、苦々しい笑みを浮かべながら、声の方へ振り返る。


 そこにいたのは褐色に日焼けした肌を惜しげもなくさらした大剣使いの少女であった。


 割れた腹筋が目を惹く鍛え上げられた体躯を隠すのは、ほぼ紐のような赤い布だけだ。

 少し動いただけでいろんなものがはみ出しそうなその格好はしかし、『こちらの世界』においてさほど注目されないぐらいに一般的な『前衛戦士』の格好でもあった。


「う、ウルサ……あなたのパーティも来てたのね……」


 イヴは日焼けした筋肉の上にある、自分とよく似た、しかしやや幼い金髪碧眼の顔を見る。


 この日焼けマッチョの変態的衣装をまとった大剣使いこそがイヴの妹のウルサであった。


『もとの世界』では病弱で色白、もちろん厚着していた妹は、この世界ではすっかり元気であり……

 地底に潜るダンジョンで冒険しているというのに褐色に日焼けして、大剣を振るって石の魔物さえも一撃で叩き砕くパワー系剣士になっていた。


「お姉ちゃん! 今日も細いね! 大丈夫? 栄養足りてる?」


 マッチョになったウルサは声が大きい。

 この世界においてもイヴとウルサは同じ家に住んでいるのだが、ウルサは『泊まり込み』を行うパーティにいるため、家で顔を合わせることが少ない。


 基本的に『日帰り』が冒険者としては主流だが、泊まり込んで一気に成果物を持ち帰るスタイルも当然あって、ウルサのパーティはそういうハードなスタイルなのだった。


「だ、大丈夫よ……あなたこそ、また大きくなったみたいね……」


「うん! 見てよこの僧帽筋! 北方にある『神々の山陵』の尾根だってここまで美しくはないんじゃないかな!」


 元気でかわいい妹系マッチョは、筋肉のことになると詩的になる。


 イヴが引き攣った笑いを浮かべながらしばらく相手をしていると、ウルサは満足したのか、


「私たちね、これから六階層に挑むんだ! もうしばらく泊まり込むから、帰るころにはもっと強い筋肉になってるからね! 楽しみにしててね!」


 ……病弱な妹の姿がどうしてもちらつくイヴとしては、妹が元気なのはとても好ましい。

 でも、思うのだ。


(やっぱりあれ、『私の妹』ではないのよね……)


 早くもとの世界に帰りたい。

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