1-3 この世界のダンジョンはエロトラップ式だった
この世界のダンジョンに女しか入らないのは『迷信』だけが理由ではない。
この世界のダンジョンにおいては、女の生還率が飛び抜けて高いからだ。
「イヴ! 『お尻ほじりスライム』がそっちに行ったぞ!」
ひっでぇ名前だけれどその場にいる全員が大真面目で、イヴもまた、この気が抜けるような、あるいは『ふざけるな!』と怒鳴りたくなるような、そういうモンスターの名前にもようやく慣れつつあった。
薄暗い洞穴の床を滑るように移動するピンク色の粘液があって、それこそが『お尻ほじりスライム』と呼ばれる魔物である。
この『お尻ほじりスライム』は、なんと、お尻をほじりに来る。
この世界のダンジョンにおけるモンスターは万事こんな調子で、女性冒険者を見るや寄ってきて、快楽漬けにし、犯し、孕ませようと行動してくるのだった。
モンスターはだいたい全部が効果の強い媚薬成分を含んでいて、油断して体に触れられようものなら、否応なく絶頂させられ、行動不能にされてしまう。
そうして行動不能にした冒険者を『苗床』と呼ばれるモンスタースポーン地点へ連れ込み、そこで繁殖用の胎として延々犯し続けるというのが、この世界のモンスターだった。
では繁殖用に使われない男の方が冒険者適性があるのか?
それは違う。この世界のモンスターは男と見るや最初から全力で殺しに来るのだ。
お尻ほじりスライムなど女性冒険者を前にしたら地面を這って肛門を狙うぐらいしかしないけれど、男が相手だと天井に潜んで頭の上に落ち、呼吸器をふさいで窒息死させようと狙ってくる。
しかも一度取りつかれると気道にまで入り込んだスライムを除去することは実質的に不可能で、男性冒険者はこんな入口ほど近い場所の、『雑魚』に分類されるモンスターにさえ殺されてしまうのだという。
イヴは仲間の注意もあって、這い寄ってくるお尻ほじりスライムの核を踏み砕くことに成功した。
金属板入りの靴にまとわりついたピンク色の粘液を振り払って一息つく。
この世界の冒険者たちの服装は『服の中に潜り込まれる』という事態を恐れて、かなりヒラヒラして露出度が高い。
イヴも金属板入りブーツと金属の手甲のものものしさと比較すると、なんとも頼りない、露出の多い服を着ている。
『そんなに着込んでダンジョンに潜るなんて正気か!? 苗床になりたいのか!?』
……きょとんとするような忠告だったが、一度この世界のダンジョンで『洗礼』を受けたイヴは、それが必死の忠告であることをよく知っている。
ともあれ、お尻ほじりスライムの群れを退けたイヴたちのパーティはさらにダンジョンを奥へと進んでいく。
腰の前後に垂れ布があるだけのなんとも頼りない衣服を揺らして進む。
下着も身につけず、性器に防護符を貼り付けただけという頼りなさも、いい加減に慣れてきた。……慣れてきたと思う。……慣れてきたと思わないと、やっていけない。
やっぱり慣れてない。
冒険者には慣れても、羞恥心は、消えないのだった。
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