1-2 武僧イヴはこの世界で冒険者をしている

(……だんだん、このおかしな世界のことがわかってきたわね……)


 この世界は男女比率がかなり偏っていて、男がとても少なく、女が多い。

 イヴの『もとの世界』では男たちが占有していた仕事のほとんどが女性のものになっていて、ダンジョンに潜る冒険者業なんかも、そのうち一つだ。


 こちらでは『もとの世界』で言うところの『ダイスを転がす女神』は『ダイスを転がす男神』になっていて、男がダンジョンに潜るとよくないことが起こるという迷信が広く信じられていた。


(…………『よくないこと』)


 男女観念逆転世界に来てしまったこと、だろう。


 ここは確かにイヴの理想の世界であった。

 男たちが独占していた『稼ぐ手段』の多くが女のものになっている。


 ただし、看過できない点がいくつもあった。


 そのうち一つが、妹のことだ。


 この世界にもイヴの家はあって、イヴのたった一人の家族である妹はいる。


 その妹は健康で、元気で、本当にイヴの理想の妹なのだけれど……


(でも、この世界の妹であって、『私の妹』じゃない。私は……『私の妹』が待ってる世界に、きっと帰ってみせる!)


「おーい、イヴー。ぼんやりしてないで今日の冒険しごと行くぞー」


「あっ、待って。今行くわ!」


 イヴはこの世界で仲間と一緒に冒険者をやっている。


 それは日銭を稼ぐためでもあるけれど、それ以上に、もとの世界に帰るためだ。


(ダンジョンの穴で落ちてこの世界に来たなら、元の世界に帰る方法もきっと、ダンジョンにあるはず)


 そして……


(もし、ダンジョンに潜る者の運命を決めるという『ダイスを転がす男神』がいるなら……男を連れて行けば、きっと怒って、私をこの世界から追放しようとするはず! そうしたら……元の世界に戻れる……!)


 だからイヴは今日も冒険をする。


 早く貴重な男と触れ合う機会を得られる、超一級の冒険者になるために……

『本当の妹』が待つ元の世界に、帰るために。

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