要請


1947(昭和22)年 10月


各地の植民地解放を掲げ、春にはインドネシアの独立を見届けた日本政府はこの度、諸々の準備が整いつつあるとして、かつて国際連盟から統治を委任され、現在は暫定的に自治領となっている南洋の各諸島のうち、パラオ諸島を数年後に独立させる予定と発表。また、他のその南洋の日本領、カロリン諸島及びマリアナ諸島、マーシャル諸島自治領についても現地民族らと独立へ向けた協議に入っており、また自治領ではない完全な日本の植民地である朝鮮半島、それに台湾島及び付属島嶼について、中華民国も交えての協議に入った事を公にした。それで南洋の方は比較的スムーズな話し合いが行われていたわけだが、問題はやはり朝鮮台湾・・・否、朝鮮の方の協議も比較的滞りはなかったが、現在の情勢的に台湾島の方が難しい問題となっていた。


「そうならない為に我々もあなた方国民党軍を支援しているわけですが、万に一つ、万に一つでもあなた方が今次の戦争に敗れる事になれば、その時はこの台湾島は我が国にとっても地政学上、かなり重要な場所となってくる。つまり、その場合はあなた方が統治するこの島が、我が国土である沖縄を守るための緩衝地帯として・・・」


「大陸を、本土を諦めて、我々がこの島を持って、貴国日本の盾になれと?」


「端的に言えば、そうです。まあできる限りの支援はこちらもいたしますので。一番はもちろん、あなた方の手で中国が統一されるのが望ましいのはそうですがね。貴国はソビエトロシアとの関係も我が国よりは良いようですし」


「ならば、武器の支援をもっと増やしてくれませんか・・・いっそ貴国の軍を派兵してくれれば、我が方は確実に勝てますぞ」


「それは中華民国政府として正式な派兵の要請ですか?張外相、蒋総統はそれを私に言えと?」


「ええ、アメリカもイギリスも既に我々への支援は打ち切った。フランスも先の大戦の消耗で頼れない、となると必然的に我々が頼るところは貴国しかない、先の大戦でダメージの少ない列強・・・つまり貴国、日本国の力に頼るしかないと、蒋総統はそう仰られています」


「希望する戦力は?」


「陸軍8個師団及び海軍は正規空母を擁する大規模艦隊2個程度、出していただきたい」


「なっ、8個師団に正規空母擁する艦隊2個・・・無理だ、無理だ!我が国は昨今の軍縮とインドネシアでの消耗もあり、そんな戦力を出したら我が本土たる日本列島の守りが疎かになる!」


台湾返還協議は本来の議題からはずれ、今次中国内戦への日本軍派遣を中国側代表は要請してきた。しかし、張外相の出したその数字は、今の日本には軍の人員的にも到底出せるものではなく、吉田外相は思わず憤慨してしまう。が、これは中華民国側としても、今の日本に軍事力の余裕はさほどない事を分かっており、この提案は交渉のための叩き台のようなものであっテ、吉田もすぐに冷静になってそれを理解し、話し合いは続いていく。



「なんにせよ、貴国による直接的支援を蒋総統は熱望しておられる。貴国の軍隊派遣に米はともかく、英仏は難色を示すかもしれんが、我々二国間での取り決めに列国が口を挟んでくるのは無視すればよいことでありましょう。現に、そのようにして貴国はインドネシアへ派兵し、かの国の独立を助けた事は記憶に新しい」


「まあそれはそうですがね・・・しかし、インドネシアの時は世論に後押しされた部分もあるが、今回は・・・それに、貴国民も再び日本軍が自国に現れるのにどういった感情を持つか・・・正式な和平からまだ5年、お互いにあの約10年間(1931年の満洲事変の勃発から1942年初頭、日本の租借地大連で結ばれた日中間の休戦協定まで)の様々な負の連鎖が起きた結果の記憶もまた、未だに新しきものでありますからな。なんにせよ、今の我が国が民主主義国家である以上、海外派兵も国民議会の承認と天皇陛下による裁可が必要。ここで私の一存で派兵するしないは明言できかねます」


「かつて、貴国の軍人らが我が国で独断専行をやって、我々と戦っていた時にやっていたという事後承認というわけには?」


「行きません、それは今、明確な憲法違反となりますので・・・まあしかし、我々としても中国の赤化は憂慮すべき事態ではありますゆえ、この後すぐに東京の方へ貴国からの要請をご連絡致します」


「お願いします!」


かくして、この日の台湾返還協議は終わり、吉田はすぐ様東京の政府と連絡を取り、張外相から聞いた中国内戦の実情と日本への派兵要請の件を宇垣総理に伝えた。そして、すぐ様この問題は日本の周辺における重要な事として議会にかけられ・・・・・・















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