義の戦 開戦



1946(昭和21)年 春


日本としてはもし対米戦になった場合のための備えとして、ソ連としては対独戦での後顧の憂いを無くそうと結ばれた日ソ中立条約はその後の日米和解後も一応有効であったが、先頃に失効。両国とも延長の意思は見せず、日本としては樺太や朝鮮で何か起きるかもと危惧していたが、ソ連軍も先の大戦において大変に消耗しており、とてもそんな余裕はなく、逆にソ連側は日本軍が動くかもと思っていたりもしたが、日本としても半分こ状態の樺太を統一しようなどとかそういった気はさらさらなく、日露間の国境線は睨み合いのまま、新たな戦が起きることはなく、一応日本列島周辺の平和は保たれていた。そんな折、南方よりとある人物が来日、日本国現首相、宇垣一成と極秘裏に会談を持っていた。


「蘭印の独立・・・ですか」


「我々の中では、あの地はインドネシアと呼びます。本国ネーデルラントも、大英帝国も先の大戦で消耗し弱体化した今こそチャンスだと、我々は考えています、ミスター宇垣」


流暢な「日本語」でそう宇垣に訴えかけるこの男の名はスカルノ、現在オランダ領東インドと呼ばれている地域、彼らに言わせればインドネシアと呼ぶべきそこの、独立運動を率いるリーダー格の男である。ちなみに彼は姓がなく、このスカルノでフルネームだ。して、スカルノは、このアジア地域諸国の中で最大の力を持ち、このところ主に英仏蘭など西欧諸国の各植民地維持の姿勢を半ば公然と批判したりもしている日本に独立闘争への協力を取り付けようと、単身で東京まで来たわけだ。


「我が国としても、植民地主義からの転換を図るという意味では貴方・・・いや、へ支援するというのはやぶさかでは・・・しかし、未だ健在の英国東洋艦隊が出てこないという保証も・・・・・・」


「東洋艦隊が、彼らの戦艦がなんです!彼らの空母がなんです!それとも何か、日本は欧州の戦場を経験した陸軍だけは屈強で、島国でありながら海軍はドイツのような弱小田舎海軍にしか勝てないと?」


「な、何を言うか!私は陸軍の出身だが、我が国の海軍はよく訓練されて、ちょっとした艦隊相手なら絶対に負けん!」


しかし、実際に軍を派遣するにしても、さすがに総理大臣一人の一存だけで決められるものではなく、スカルノが一旦滞在先のホテルに帰った後、宇垣は緊急閣議を招集し、閣僚達へ意思確認を取る。


「蘭印に出兵ですか・・・しかし、5年前の12月、日米和解で我々はかつての四カ国条約や九カ国条約を再確認すると約束しております。つまり、締約国の領域は不可侵、侵すべからずと。我が国からそれを破るのは、いかなる大義につけても・・・我々が蘭印に宣戦布告をすれば、英印の総督府にしても、その本国イングランドにしても、はいそうですか、どうぞお好きになどとはならんでしょうな。インドネシアの独立後、我が軍が本当にすぐに撤退するとは彼らは思わんでしょう」


今の日本を取り巻く国際関係を考えれば、このインドネシア独立戦争への参戦は、イギリスとの開戦を招くと断言するのは、松川吉次外相だ。ちなみに彼はこの物語世界における架空の人物である。そして、松川の言葉に閣僚達全員頷きつつ、宇垣首相の言う「同じアジア人国家として、アジアの独立共栄、真の大東亜共栄を目指す」という理念には、みな賛同。そこでなんとか同じアジアに植民地を持つ列強諸国を納得させる案はないかとの協議が、長きにわたり続いていき・・・・・・



7月初頭


東京はじわじわ蒸し暑くなってきた頃、その遥か南方、オランダ領東インド、日本政府公式呼称「蘭国支配下インドネシア国」にて、実は春の「日インドネシア首脳会議」以前より、密かに日本国内などで訓練を受けていたスカルノらの軍勢が蘭印植民地政府に対し宣戦布告を表明。ここに、後に諸外国の歴史家に「インドネシア独立戦争」または「(アジア諸国独立の)さきがけの戦い」と呼ばれるようになる戦争が始まった。



同時期 大日本帝国首都 東京


「・・・・・・オランダ支配下におけるインドネシア国民の然る事情に鑑み、我が帝国政府は友邦インドネシア国の同盟国として、オランダ東インド政府に対し宣戦を布告する事に致した次第でございます」


一応改憲後も、戦争を行う際には形式的に必要となっている「宣戦の詔」を読み上げた後、今回の事に至った次第、それに多少の軍隊を既に派遣したと記者会見で説明する宇垣首相。春より協議を重ね、国民の声も聞いた結果の日本政府としての結論は「例え英やもしくは米とも決別しても我が国の国是上、インドネシア解放のために起つべき」・・・「ご意向」も今回はそうであった。そして、日本政府としてもどう動いてくるか不明だったアメリカに関しては、インドネシア軍側を支援すると表明。これで英印軍や仏印軍もこのままじっとしてくれてればな、などと宇垣らは思っていたが・・・・・・



あとがき


今シリーズ一旦完結にしてたんですが、なんか「その後」も書きたくなってきて、更新再開です。それで今回のお話ですが、史実でも残留日本兵が戦ったりしてたインドネシア独立戦争に、この世界では日本が公式に同盟国として、真の大東亜共栄圏構築の第一歩として参戦するという形です。まあ、これ別に架空戦記ってわけでもないので、戦争と言っても外交とかそっちの話中心になるかも・・・・・・

それと、これはあくまで架空の別世界のお話ですので、歴史を否定するわけでも、筆者の思想や信条を主張しているわけでもないので悪しからず。


























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