東部戦線の現実
昭和十八年 正月
戦場から遠く離れ相変わらず平和な日本の世間では例年通り正月の祝賀気分だ。が、過酷さを増す東部戦線へ友軍であるソ連軍支援の為送られた日本兵達はそんな気分になる暇などなかった。
「支那より酷いぜここは」
「前方には敵軍、後方には味方の機関銃か・・・・・・」
「上からは何としても生き延びろと、自決は許さんなんて命令が来たらしいが、独軍に降伏したとして俺達日本人はどうなるか・・・・・・」
「その時はなんとか収容所から脱走して、ヒトラーの首を取りに行こう」
この頃、この戦争における最大の後顧の憂いだった日本軍が連合入りして味方になった事でソ連軍はその戦力を次々と西方へ集中。日ソ両軍は増援の到着を待ち、2月に入るとベラルーシ方面から一気に大攻勢を仕掛けていく。そう、バグラチオン作戦が史実より早く、史実にはいなかった日本軍も参加のもと始まったのである。だが、日ソ両軍の兵士達にとっても本当の地獄はまたここからだった。
4月
この世界におけるバグラチオン作戦での日ソ連合軍戦死者は、戦病死まで含めると既に10万人にまで達していた。内訳としてはソ連赤軍兵がその殆どであるものの、日本軍も当初に派遣した兵士達の多くは祖国の土を再び踏むことは叶わず、この東欧の戦場で若い命を散らしていった。そんな折、東條首相は英チャーチル首相を東京に招き会談を持った。
「サー・チャーチル、お会いできて光栄です」
「私もです、ミスター東條」
会見の冒頭、笑顔で握手を交わす両首脳。そして二人の話題はもちろん、今次大戦の行方についてだ。
「東條首相、私はこの戦争に勝てると確信しております。だが問題はその後です」
「ソビエトロシアの事ですな」
「ええ、ルーズベルトはスターリンの巧言令色をいい気になって聞いておるようですが・・・・・・いずれこの戦争が終われば、我々、つまり現在の連合国のトップ四ヶ国のうち、英米日とソ連はそのイデオロギーにおいて対立するのは明白です」
「・・・・・・つまり、かの国と国境を接している我が日本にも準備をと・・・・・・」
「スターリンは貴国との約束(日ソ中立条約の事)を反故にするなど容易い事でしょう、今回についても、ドイツが先に動いただけで、スターリンとしても、不可侵を後生大事に守る腹はなかった。現に東部戦線でソ連支援に当たる貴国将兵の扱いは酷いものだと我が国の情報部も掴んでおります」
「それは単なる噂ではないのですか?いくらなんでも友軍兵士にそんな・・・戦時の今は情報の錯綜も多々ある故ですな・・・・・・」
「信じられないのも分かりますが、こちらの写真をご覧下さい」
そう言って、秘書から数枚の写真を受け取り、東條に見せるチャーチル。その写真には先程のチャーチルの言にあった通り、味方だというのに惨い扱いを受ける日本軍兵士達の姿が写し出されていた。
「これは正真正銘、合成ではなく生の写真です。そしてこの被害は日本軍に限らず、米軍でも同様の報告があるようでして」
「誠ですか?正直、我々は所謂、あなたがたの言葉で言う「カラード」だからなのかと思っておりましたが、米兵もですか・・・・・・」
「ソ連赤軍というのはそういう軍隊です。実際に現在、解放作戦が進むポーランド方面でも赤軍兵による民間人に対する犯罪行為が・・・・・・それを咎めようとする他国軍のまともな将兵をも彼らは殺しているのです」
実際、今次のような大戦争中のこのような犯罪行為は、上の預かり知らぬ範囲まで言えば、英軍にも日本軍にもどこの軍にもある事だが、チャーチルが言うには、ソ連赤軍の場合、そういう事ではなく、軍隊として組織だって行っている可能性があるとの事であった。そして、彼はその理由として考えられる事として、次のように話した。
「かの国は当時のロシア帝国が批准したハーグ陸戦条約の継承を行っておりません、捕虜待遇に関するジュネーヴ協定についても然りです」
「それで戦争犯罪を正当化していると?」
「ええ、由々しき事態です。もっと由々しき事は、例えば我々が今、連中に敵対する姿勢を見せたとしましょう、それに1番喜ぶのは誰でしょう」
「ヒトラー、ですな・・・・・・」
「ええ、ですから今我々ができる事は・・・・・・」
その後もこの複雑な問題について語り合ったりして、東條とチャーチルはすっかり打ち解け、記者達には日英関係の強化をアピールし、チャーチルは少しばかり日本観光を楽しんで帰っていった。
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