変わる帝国
昭和十六年十一月
既に海軍の南雲中将率いる空母機動艦隊が錦江湾での猛訓練を終え、択捉島単冠湾に集結しつつあった頃、内閣総理大臣として任命を受けたばかりの東條は不思議な夢を見た。そしてその夢はやたらはっきりとした悪夢で、彼はそれを正夢だと直感し、外務省を通じて遠く米国で、冷えきった日米関係改善へ向けて交渉中の2人の大使にある電文を送る。
「ツクバヤマハラセ、シュダントワズ」
これを受け取った日本大使館も、傍受した米側も困惑したが、その意味は双方すぐに分かった。東條総理としては何としても平和的解決を望んでいるのだと・・・・・・そこからの交渉は驚くほどにスムーズに進んではいたが、万一の時の為として陸海軍は出撃を強行、そして十二月一日のあの符丁発信となったわけである。そしてその間にも東條は各所を奔走し、帝国の方針転換を図り、日米交渉妥結後、すぐに緊急勅令などを出せるようにしていたわけである。この頃の軍にとって、それを無視するというのはどういう事か、東條はよーく分かっていた。それでも暴走する輩はいたが、各地の憲兵隊や警察などへの根回しによってすぐに鎮圧する手筈も整っていたのだ。これによって支那からの撤退、関東軍の解体もスムーズに行えたわけである。
昭和十七年 三月
英軍も国府軍も(しぶしぶではあるが)協力のもと、支那各地や満州国に展開していた日本軍実戦部隊の完全撤退が完了。関東軍解体を断行。引き揚げてきた将校らの一部、独断専行で事変を起こした者などは軍法会議にかけられその一部は銃殺刑となる。同時に日独伊三国を中心とした枢軸同盟から日本は正式に脱退。この動きを見た米国は米日本資産凍結解除、英蘭とともに対日通商条約復活を宣言。九カ国条約の再確認。日米豪三国は南洋委任統治領の非軍事化を再確認、当該地域の軍事関連施設の撤収が開始される。日本政府、国際連盟復帰を正式打診。
四月
改正帝国憲法が施行。同日、新皇室典範、改正普通選挙法、治安維持法の全面改正となる治安法も同時施行。国家総動員法の廃止。貴族院の廃止による国会一院化。男女問わず全ての成人日本国民に選挙権が認められる。ラジオ、テレビ(日本放送協会による本格放送がこの春に始まった)、ニュース映画で録音、録画による天皇の人間宣言(この宣言は文字通りのもの)。特別高等警察の解体、間諜(スパイ)や右派左派過激派の取締へと役割を絞った治安警察への変革。ご意向によって日本軍のシビリアンコントロールも強化され、大日本帝国は再び民主主義への道を歩み出す。同時期、立川飛行機渾身の民間飛行機、A-26号が初の東京-ニューヨーク間無着陸飛行に成功。これに東條首相も同乗し、ルーズベルト大統領に出迎えられ、初の日米首脳会談が開催され、日米協力のもとのアジア太平洋地域での平和維持へ向けて協議する。
五月
中華民国首都南京において、米国の仲介によって蒋介石率いる中国国民党政府との最終和睦成立。日本側代表団は敗戦国としての姿勢で会議に臨んでいたのだが、日米交渉の妥結した案にあった通りに、事変前よりあった南満州鉄道などの日本の権益はそのまま維持される事となった。同時期、日米は水面下で同盟への交渉を始める。
六月
大日本帝国軍の縮小近代化が開始される。徴兵中心の陸軍除隊者は技術者、職人等が多かった。海軍は既に竣工した新型戦艦、大和型の2隻をどうするのかと言う話になるも、あの巨体を2隻も解体する費用はまた一から建造するのと同じくらい馬鹿にならないと言う事で、3番艦信濃以降の建造計画は中止、大和、武蔵は他の海軍艦艇も含めて更に近代化改装という形で決着する。ちなみにその改装には米海軍も携わる事となった(無論、米側としては日本海軍のモンスター戦艦を徹底的に調べてやろうという目論見もあった)。同時期、東條首相は議会の解散を行い、これより各党(大政翼賛会は日米交渉妥結後すぐに解散)は選挙戦に入る。
この話を書く時やっぱり悩んだのが支那撤退や関東軍関連と、大和、武蔵の処遇だったのですが、このモンスター戦艦に関してはあれだけ金かけて作って、また金かけて解体するのは、そんなに経済的余裕も無いであろうこの頃の日本にとって現実的じゃないなとの事でこのような形になりました。ちなみにこの軍縮は民主化を進める日本の米英へのポーズのようなものでありますが、実際にかなりの除隊者がいて、海軍も旧式艦を中心にそれなりの数の艦が廃艦となりました。
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