第3話

「優香!優香!起きて!早く!」

お母さんが私を激しく揺らして起こす。

「…どうしたのお母さん」

寝ぼけた頭を使って目を擦りながらお母さんを見るとお母さんの顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。

「どうしたのお母さん…」

「あのね、あのね…優香、お落ち着いて、落ち着いて聞いてね」

嗚咽しながら私の優しく抱きしめお母さんは言った。


「け、景君が交通事故で亡くなった」


お母さんが言った言葉の意味が分からなかった。

景が亡くなっただって?どういうことだ。

死んだてってこと?今日、ちょっと前まで普通に話していた景が?

意味が分からない。

理解したくない。

「優香落ち着てね、落ち着て」

お母さんが私を優しくなでる。

それが現実だって私に教えてくる。

「お母さん、その話本当…?景が交通事故にあって死んだって」

「え、ええさっき景君のお母さんと一緒にいた時突然警察から電話が来て…」

そこまで言ってお母さんはこらえきれなくなって涙を流し私を強く抱きしめた。

頭が真っ白になった。

何か考えようとしても何も浮かばない、言葉も出てこなくなった。

やがて私はお母さんを抱きしめ返した、少しでも安心したくて。

それら一週間経った。

経ったと言っても実感がない。

ふとスマホで日付を見るとあれから一週間後の日付を示していた。

景が死んだあと葬儀が執り行われ、参加したが記憶があやふやだ。

ずっと隣でお母さんとお父さんがいてくれたのはわかった。

気付けば葬儀は終わっていて私は自室にこもっていた。

食事はお母さんが持ってきてくれたのでそれを食べた。

体がだるい、頭の中にずっと靄がかかっているみたい。

それでも私は体を動かして自室を出る。

トイレ以外で自室からでるのはこの一週間で初めてだ。

洗面所に行き鏡を見るとそこにはひどい顔の自分がいた。

目は腫れて、くまもできている、髪の毛はぼさぼさで肌も荒れている。

そして何より顔から全く生気を感じられなかった。

とりあえず蛇口をひねり水で顔を洗う。

幾分かマシな顔になった後、リビングに向かうとお母さんが椅子に座っていた。

「もう大丈夫なの?」

心配する声をかけてくれる。

「大丈夫…ではないけど、少しは落ち着いた」

「そう、どうする何か食べる?」

「ううん、今は大丈夫それより景に会ってくる」

「お母さんもついてこうか?」

「大丈夫、一人で会いたいから」

私は服を着替えて隣の景の家にいった。

久しぶりに会う景のお母さんはすごくやつれていた。

生気がすべて抜け落ちた顔している。。

私は上がってすぐに仏間に通された。

改めて景の遺影を見ると自然と涙があふれ出した。

そして私の今始まった恋はもう叶わないのだと。

そう思った。

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この恋は叶わない 赤紫 井戸 @sorawaaoi

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