第5話 機密保持契約

クリスは大学の図書館で出会った

時の事を思い出していた。


「あっ、そうだ。クリスもう

一度電話を貸してください。」


~~~~~

「全捜査員に告ぐ」

美咲の命令的な口調の声が無線から聞こえた。

「犯人のアジトには爆弾が仕掛けてある可能性あり

 各員注意を持ってあたれ」


EMP爆弾の設計図の処分の為に

アジトを爆発させる可能性が有ると

亮から電話が有って美咲は捜査員に

連絡をしたのだった。


それを聞いた桜田は

「大野さん、ドアを開けたらいきなりドカンですかね」

「ああ、可能性はあるな。何せ相手は爆弾のプロだからな、

とにかく発見したら爆弾処理班を呼べばいい」

「そ、そうですね」

桜田と大野が歩いていると

「大野さんあのマンションの1階怪しくないですか?」


そのマンションはお寺の墓の周りに

生い茂る木の陰にあり目の前にある

高い欅で日当たりが悪く、

生垣で覆われそのわずかな隙間から

見える遮光カーテンで閉ざされた

1階の部屋を桜田が見つけた。


「なるほど、1階の角部屋でこの日

当たりの悪さ、しかも墓地の傍とは

 立地条件が悪い。桜田さっそくここの住人を調べるぞ、

 他の部屋の住人にあたって管理人を探せ」

「はい」


大野はハイツ白金台の名前と住所を本部に伝え

所有者を調べさせた。

連絡を受けた本部の職員が美咲にそれを伝えると

所有者の名前を聞いて美咲は声を上げた。

「こいつが所有者!?」


~~~~~~

「亮、僕は全力で君に協力をする、待っていてくれ」

「わかりました」

クリスは会議室に戻った。

「遅かったな、クリス」

「すみません、ちょっとお腹の調子が・・・」

「うん、機密保持契約書が出来ている、

團を呼んでサインさせよう」


クリスはトニーが渡した契約書を見ると

「待ってください、この契約書に書いてある通りだと

 EMP爆弾がどこかで作られたり使用されたりしたら

 すべて亮のせいになってしまうじゃないですか。

 司令官の命令に背いています」


クリスがそう言ってもトニーは無視したように

「そんな事はない、團がサインをすれば

すぐに基地から放り出してやる」

トニーは日本人の亮に敵意をむき出しにして

乱暴な口のきき方になってきた。


「そんな無責任な・・・」

クリスはトニーの強引な態度に不安を感じて来た。

「誰か團を連れてこい!」

トニーの命令で部下が亮を連れてきた。

「おい團、これにサインをしたらここから出してやる」


「無理に決まっています、僕は犯罪者じゃない」

亮は契約書を読んで確認すると

投げ捨てるようにトニーに言った。

「カチャッ」

亮の頭にピストルが突き付けられた。


「さあ、この書類にサインをするんだ、團亮。

お前が無罪と言うなら

いくら傍受、盗聴、監視されても関係ないだろう」

「いくらピストルを突きつけられても嫌です。

周りのこれだけの人が見ているんです、

 撃てる訳がないじゃないですか」


亮はいざとなればトニーの

ピストルを取りあげる自信を持っていた。

「どうせ日本なんてアメリカの言いなりだ、

沖縄の普天間基地は50年間で50cmも

移転が出来ないでいたんだ、黙って言う事を聞け!」


「アメリカはいつもそうやって力づくで世界を

抑えてきた、だからそれに反発する国が

核開発をするんです」

「だから、あらゆる手段でその

核開発を阻止している」


「どういう理由でアメリカは

阻止するんですか。どういう立場で?

アメリカが世界の平和を守っていると

思っているんですか?」

人間社会は互いに侵さず助け合うもの、

そうすれば犯罪も無くなりそれが

平和の基本だと亮は信じていた。

亮が強く言うとトニーは言い切った。


「アメリカは正義だ!」

亮はトニーにこれ以上言っても無駄だと思って呟いた。

「大きく膨らんだ風船は針1本で破裂する。

 いやレモンの汁でも」


「トニー、ピストルを下ろせ」

部屋に入ってきた、マイケル・ナイト大佐が

トニーのピストルを取り上げた。

「君はこの担当から外れてもらう、

どうやら君は日本人に偏見を持ちすぎている」


ハワイの真珠湾攻撃で祖父を亡くした

トニー・ハンクスは日本人を恨んでいた。

トニーは上官の命令で肩を落とした。

「トニー、團亮は今から我々の仲間になった」

「仲間ですか?大佐」

トニーは驚いてマイケルに聞き直した。


「ああ、團亮には新型爆弾の開発に

携わってもらう、

従ってNSAに盗聴はさせない」

マイケルが言うとクリス以外は驚きの声を上げた。

「團、よろしく。マイケル・ナイトだ」

マイケル大佐は亮に握手を求めた。


「團亮です、よろしく」

亮が笑顔で答えると

「後はクリスと話を進めてくれ」

マイケルはそう言って亮にウインクをした。

クリスはアバディーンの武器科に連絡をして

責任者ロバート・S・ホルステッド准将

から、トニー少佐の上官であるマイケル・ナイト大佐に

連絡をさせたのだった。


マイケルは契約書を亮に見せ

「これが新しい機密保持契約書だ。

確認してくれ」

亮は罰則も何もない形式的な契約書を

読んでそれにサインをした。


「ありがとう團、それと

ブルーノ・ジャックマン先生が迎えに来ている」

マイケルはそう言って指で首を切ると

軍服を着た美人が来てブルーノの待っている

部屋に案内した。


「おお、亮大丈夫か?」

ブルーノの太い腕は亮にしっかりとハグをした。

「はい、お久しぶりです。ブルー」

「それでもう出られるのか?」

「はい。あっ、僕はパスポートがないんですが」


「わかっている、すぐにワシントンに行こう。

スチュアート上院議員が待っている」

「はあ」

亮は自分の周りで何が起こっているか

よく理解できなかった。


部屋から出るとクリスがドアの外に待っていた。

「じゃあ、またな亮」

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