おれが見たあの夢は
宮川雨
おれが見たあの夢は
「今日こそ七不思議をかいせき? してやるぞー!!」
「おー…」
おれの声に後ろの二人はなよなよとした声で返事をする。
「なんだよ優子、健太。元気ねーな、今日こそ夏休みの研究終わらせるんだろ?」
「でも陽介くん、やっぱりもうやめようよ。七不思議なんて嘘だったんだよ」
「そ、そうだよ陽介。もう3日間も探してるのに結局1つも見つからないじゃん」
優子が腰に手を当て呆れながら、健太が眼をあっちこっち動かしおどおどとした態度でそう話す。
「そういっても仕方ねーだろ!もう今から新しく夏休みの研究考えるのなんて無理だろ」
そう、今日はもう8月の半ばでお盆直前だ。これから新しい研究を考えて調べてなんてとてもじゃないけれ間に合わない。明日からお盆でみんな調べるのがむずかしくなるんだから、今日中に何かつかまないと。
そう思い今日調べに行く湖までおれはどんどん歩いていく。その様子をみた優子がさらに呆れたようにこういうのだ。
「そもそも七不思議なんてものを研究にしたのが間違いだったのよ。そんなしんぴょうせい? のないことを調べるなんて」
「うるせーな、優子だって結局いいよっていったじゃなーか」
「あんたが七不思議にするっていって聞かなかったからでしょ!!」
「ふ、二人とも落ち着いて、ね?」
健太がおれと優子の間に入り口喧嘩を止めてくる。それでも口うるさい優子の口は止まらない。
「そもそも七不思議のくせに7つもないことがおかしかったのよ。しかもそれらしいうわさの森のなかとか探しても何も見つからないし」
「あーあー、しらねーしらねー」
優子の止まらない言葉をてきとうに流しながら歩く。だって夏休みの研究では自分たちの住んでいる町について調べよう、って言われたときにこれだ!って思っちゃったんだから仕方ないだろ。なんて心の中で言い訳をするが口には出さない。言ったら絶対に優子がうるさいからだ。
「ほらついたぞ、ここだろ大人たちがおばけが出るから近づくなって言ってる湖」
その湖は少し濁った水の色をしていて、周りも草がたくさん生えていた。正直あまりきれいではないしなんか気持ち悪い。早く調べてとっとと帰ろう。
「じゃあおれはこの湖の周り調べるから、健太と優子は、うわぁ!」
「陽介!!」
足を滑らせたおれは湖に落ちてしまう。二人の声が聞こえたような気がするが、正直よくわからない。くるしい。いきが。
ぱっと目が覚めたらそこはとてもきれいな花がたくさん咲いていて、そばにある湖も透き通っていて綺麗だ。空を見上げると今はまだお昼前のはずなのにオレンジ色になっている。
「どこだ、ここ」
思わず周りの景色に見ほれながらも、ここがどこだか考える。そしてなんでここにいるのか思い出そうとするが、思い出せない。おれ何してたんだっけ?
とりあえずせっかくこんなきれいな場所に来たんだから探検しよう、と思いそこら辺を歩きまわる。それにしても本当に花ばっかりだな、ほかに何かないわけ?
「お、桃がある」
わりと背の低い樹になっている桃をみつける。お腹もすいたし食べようかな、と樹によじ登って桃をとろうとすると、下の方から声が聞こえた。
「駄目よ、それを食べたら」
声がした方をみるとそこには女の子がたっていた。誰だろう? 女の子ってことはわかるんだけど、顔が良く見えない。おれはなんとなくその子の言うことを無視できず、桃をとらずに樹から降りる。
「やっと見つけた。ほら行くよ」
そう言ってその子はおれの手を引いて歩いていく。誰なんだろう、この子。でもなんとなく怖い子じゃない気がする。そうして手を引かれてきた場所は最初の湖があるあの場所だった。
「ねえ、おまえってだれ」
と言い終わる前に湖にドンっと突き飛ばされた。驚きながら首だけなんとかそちらに向けると、今まで見えなかった女の子の顔が見えた。そのまま湖に落ちると、遠くから「まだしばらくはこっちに来ちゃだめだよ」という女の子の声が聞こえた気がする。
ぱっと目が覚めると白い天井が広がっていた。身体がすごく重い。なんとか首だけ横に向けると、目を赤くした父さんと母さんが椅子に座ってそこにいた。
「陽介!!」
眼を見開いて驚いた母さんはわあわあ泣きながらおれに抱き着いた。父さんは誰かを呼んでいる。
「よかった、陽介。あなたまであの湖に連れ去らわれたのかと思った、よかった。戻ってきた」
そんな母さんの声をおれはどこかぼんやりとした頭で聞きながら、あの女の子のことを思い出していた。最後に見えたあの顔は、どこかおれに、母さんに似ていた気がする。
おれが見たあの夢は 宮川雨 @sumire12064
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
好きなものを紹介したい!/宮川雨
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 3話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます