第3話 Bさんとの一夜

 Bさんはホテルを延泊して、2人は日曜日の夜まで一緒にいた。Bさんは何故うつ病になったかも、話してくれた。Bさんが高校生の時に、お父さんとお兄さんと3人で車で出かけた時に事故に遭い、2人が亡くなってしまったそうだ。Bさんは自分だけが助かったことに罪の意識を感じて、うつ病になってしまったということだった。


「兄は素晴らしい人で、頭が良くて友達もたくさんいたのに、僕の方が生き残ってしまって。申し訳ない気持ちでいっぱいでした」

「いえ、そんなBさんも素晴らしい方ですよ」

「ありがとう。もっと早くAさんと出会っていたら、きっともっと素晴らしい人生だっただろうって思うんです。まさか、2泊もするなんて思いませんでした」

 Aさんは言った。「私も名残惜しくなってきました。やっぱり自殺するのやめませんか?」

「そうですね。家に帰ってゆっくり考えてみます」

 Bさんは寂しそうな笑顔を見せて、2人は別れた。


 Aさんの気持ちは複雑だった。初めて好きだと言ってくれた男性の童貞を卒業させてあげて、満足感はあったが、その人はこれから自殺してしまうかもしれないのだから。彼には未練があった。好きというわけでないが、情だろうか。


 Aさんは家に着いてから電話をかけた。

 しかし、Bさんは出なかった。LineIDは知らないし、仕事の電話番号とメール以外のコンタクト方法を聞き忘れてしまった。


 ***


 翌日、会社に行ってすぐに上司に尋ねた。

「〇〇さんが廃業するって聞いたんですけど」と伝えた。

「あ、そうなんだ。まあ、不況だから仕方ないんじゃない?」

 あっけないものだった。生き馬の目を抜くような業界だし、もともと人のことなんか構っていられないところがあった。

 Aさんはその日のうちに、Bさんの自宅兼会社を訪ねることにした。そしたら、もう、そのマンションは空き家だった。

 電話を掛けたら、現在使われておりませんのアナウンスが流れた。メールはエラーで戻って来てしまった。


 取り敢えず、ハガキを出した。それが転送されれば、本人に届くかもしれないからだ。


 女友達に話すと、騙されたんじゃない?と言われた。「やりたかったから、嘘ついたんだと思うよ」と、いうことだった。警察にも相談に行った。名前は知っているけど、写真なんかもないし、探しようがないと言われた。捜索願を出せる人は行方不明者に近しい人だけである。例えば、親族、雇用主、恋人等しか出せない。AさんはBさんにとっては、遠い間柄である。せめて、どこで決行するかを聞いておけばよかった。

 

 

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