第2話 お願い
「実は私、今度、会社を畳むことになりました」
「え!そうなんですか。びっくりしました」
「ちょっと、続けられなくなってしまって・・・重度のうつ病になってしまって。前からそうだったんですが、まあ、そろそろ限界かなって」
「あ、そうですか・・休業とかでなく、廃業なさるんですか?」
「はい」
「残念です」
Aさん的にはどうでもよかった。それにしても、Bさんはうつ病の人らしい感じはまったくしなかった。普通に目を見て笑顔で話している。前に会社にいたうつ病の人は、顔色が悪く、表情が暗かった。
「それで、私は・・・・思い切って・・・」
Aさんは話の続きを待った。
「もう、死のうかと思ってるんです」
「えぇっ!?」
「もう、生きていても仕方がないと思いまして」
「いやぁ・・・そんな。年だってまだお若いでしょうし。死ぬなんてもったいない」
「でも、決めたんです。実は先月母が亡くなって、もう私をこの世に繋ぎとめる物がなくなったので・・・」
「はぁ。お母様の件は本当にお気の毒でした・・・。
でも、お母さんだって、そんなことを望んでないんじゃないですか?」
「でも、私は母が死ぬまでと思って踏ん張ってきましたので。もう、高校くらいからうつ病だったんです」
「そうですか。随分長いですね・・・」
「はい。人生の半分がうつ病で。死ぬこと自体は今すぐでもいいんですが、実は思い残したことがありまして・・・まだ童貞なので・・・このまま死ぬのはどうかなと思って、それだけが心残りで」
「はぁ?」
「佐谷さん、僕の最初で最後のお相手になっていただけませんか?」
「えぇっ!?私がですか?」
「はい。前から好きだったので・・・」
「はぁ」
男性から好きだと言われたのは初めてだった。今まで恋人がいたことはあったけど、みな、Aさんから告白してつき合った人だった。そういう相手は、滅多に好きと言ってくれない。
「初めてです。そんな風に言っていただいたの」Aさんは笑顔になった。
「僕も誰かに告白するのは初めてで」Bさんも照れ臭そうだった。
「じゃあ、いいですよ」
Aさんは深く考えずに引き受けた。
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