置き土産
連喜
第1話 会食
これはネットから拾って来た話。
Aさんという女性がいた。年齢は35歳で独身。恋人いない歴2年くらいで、男に縁がないわけではない。出版関係の会社に勤めていた。見た目は普通。友達は男女とも多い方。気さくな性格で、誰とでも話す感じの人。
Aさんは、ある男(Bさん)から急に食事に誘われた。まったく親しくない人だが、電話でだけなら、何年も前から知っている相手だった。声の感じだと年齢は40くらいだろうか。ある時、電話で話していて、急に男は切り出した。
『佐谷さんと一緒に仕事をさせていただいて長いので、一回お食事でもどうですか?』
Aさんは相手の男が会社の経費で奢ってくれると思って承諾した。
『いいですねぇ。じゃあ、いつがいいですか?』
別に仕事関係だから断る理由もない。
それで、金曜日の夜に二人は約束した。場所はAさんの会社がある千代田区の神保町。
待ち合わせ場所は、神保町の駅の近くのランドマーク的な書店の前にした。
「今までお会いしたことありませんでしたね。私はメガネをかけています」と、Bさんは言った。そこで待ち合わせをしている人がいなかったので、すぐに気が付いた。感じのいいスーツ姿の男性だった。
その男性が連れて行ってくれたのは、フレンチの高級店だった。Aさんはランチでしか行ったことがない。夜も行ってみたかったが、自腹で行くのはもったいなくて諦めていたのだった。
「ここ、来てみたかったんですよ!」
Aさんはわざと感激したように言った。
「いいんですか?私みたいな下っ端を、こんな高いお店に連れて来ていただいちゃって」
「とんでもない。もう、長いお付き合いですから。今までなかなかお誘いするタイミングがなくて」
「嬉しいです。そんな風に言っていただけるんでしたら」
Aさんは、Bさんの話にわざと大げさに反応して、話を盛り上げた。こういう性格を好ましいと感じる人と、うるさいと思う人がいるだろうが、運のいいことにBさんは前者だった。
「Aさんは独身ですか?」
「はい。わかります?出版って独身が多いんですよ。忙しいから、子どもがいると続けられない業界なので」
「ああ、そうなんですか。おきれいなのに。意外です」
「まさか!お上手ですねぇ・・・」
Aさんは、ちょっと気持ち悪いなと思っていた。
「久しぶりです。そんな風に言っていたけるの。私なんて20代前半までしたから。今はかわいい子が入ったので、誰も言ってくれなくて」
Bさんは笑った。
「お付き合いされている方はいらっしゃるんですか?」
「残念ながら・・・」
「信じられないなぁ。Aさんみたいな方がフリーだなんて」
「いえ、もう、うちの会社の30代の女子なんておじさん化してますから」
「実は今日お誘いしたのは、折り入ってお頼みしたいことがありまして・・・」
Bさんは切り出した。今までの時間は、その話を切り出すための前座のようなものだったらしい。Aさんは馬鹿馬鹿しくなってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます