第5話 キングドラゴン①
5話
ワガマチから3日間ほど歩いた辺りで森や草原から岩肌が目立つようになってきた。
ここまでの道中で倒したのは生物級モンスターの蟹オオカミ。
平屋級モンスターの陸マグロ。
物見やぐら級モンスターの耳地獄。
蟹オオカミは狼の肩口からタラバ蟹のハサミが生えているモンスターだった。
蟹のハサミの重みで狼のスピードが思うように出せない。という残念なモンスターだったが、タラバ蟹の部分は茹でると最高の旨さであった。
(プリっプリで旨かったなー。マホも喜んでたなー。)
そして陸マグロは、マグロの鼻先に大きなドリルがついているモンスターで、地中を泳ぐのだ。
しかし、残念なことに地中を泳ぐスピードがめちゃめちゃゆっくりなのである。
時速10キロくらいでおばさんの小走りくらいなのだ。
しかも完全に地中に隠れられる訳でもなく背中が必ず地上に出ている。
マグロということで討伐したあとに、聖一とマホは食べるのをとても楽しみにしていた。
しかし、土臭さと魚臭さが合わさって食べられたものではなかった。
(陸マグロはめちゃめちゃ弱かったなー。討伐は楽でいいけど、味は美味しくなかったなー。ワサビがあればワサビ醤油で漬け込めば美味しくなるのかもなー。)
そして、耳地獄だ。
耳地獄は大きな耳に手と足がついているモンスターで、なにせ耳が良くて動きを読まれて中々に手強い相手であった。
(前世の暇つぶしで練習していたビートボックスがあんな風に役に立つとはな。マホの新魔法バイブレーションが無ければ倒せなかったかもしれない。)
巨大メガホンのような形をした力場に向かって、重低音のバスドラムを口から吐き出す。
聖一は、口からボォン!ボォン!と音を出す。
刹那、聖一の背中にバイブレーションを叩き込み、音を倍増させて耳地獄を鼓膜ごと破裂させた。
破裂した地獄耳の耳の穴から血が流れ、メガホンが漏斗のような役割をして、大量の血がピンポイントにマホへ流れ出た。
「オェェ、元々は罠発見用の魔法のバイブレーションが役に立ってよかった……オェェ。しんど…い。」
身も心も文字通り限界のマホ。
そんな時に活躍したのが温泉付きの小屋である。
モンスターを討伐した後の夜は温泉付きのロッジを出して風呂にしっかり入り、血の汚れを落として、フカフカのベッドで寝ているのだ。
血で汚れた服を洗濯したあとも、既に熱々の木炭をブラックホールから出して、その上に服を干せばすぐ乾く。
(うんうん。囲炉裏と暖炉ありの小屋をジャイにお願いしておいて良かった。)
天気が良ければ、外で焼肉をすることも出来る。
(木炭便利だなー。大量に買って燃やしまくってブラックホールに入れておいて良かった。)
しかし、ちゃんと休むには食事と同じくらい、ゆっくり眠ることが一番大切である。
少しでもゆっくり休めるようにと、周囲の警戒として周りにロープを張って鈴をつけるつもりだった聖一。
しかし、ここでもマホの新しい魔法が活躍する事となる。
「サーチ!この辺には今は魔物いないわね。ではいくわよ~。サークル!!」
魔法の光がブゥンと広がっていく。
周囲に魔物が入ってくるとわかる魔法だ。
(ほんとナイスだよマホ。)
そうして血だらけになれば風呂に入り、熱々のご飯を食べて、マホの新魔法のお陰でゆっくり寝れる。
「聖一と旅をしてると感覚が変になっちゃうわよ。も~う。他の人とはもう旅に行くのは無理ね。」
「それは良かったよマホ。」
「あ、えと!その便利だからという意味であってね、貴方だけよ~ウッフン!という意味では無いのよ!」
マホは頬を赤らめる。
聖一は喜ぶマホを見て嬉しくなる
どうやら二人は快適な旅が出来ているようだ。
(3日も旅をしているのに疲弊せずに進めている。良かった良かった。)
と、この3日間の事を思い出しながら、歩いている聖一。
岩肌がむき出した丸みのある谷と谷に挟まれた渓谷の谷底に入っていく。
(この先は渓谷になってんのか。)
谷底は小川がチョロチョロと流れている。
小川の周りは10mくらい幅があって、そこから斜面が盛り上がって谷になっている。
「よし、昼ごはんにしようか。」
「えぇ、川も流れているし、休むにはちょうど良いわね。冷たい水で顔を洗いたいわ。」
(お昼ごはん何にしよっかなー。)
「綺麗な清流ねー。プハー!気持ちいいわー。聖一!冷たくて気持ちいいわよ!」
「おー!プハー!ほんとだ。気持ちいいなー!」
(綺麗な小川で気持ちが良いなー。お魚BBQも良いなー。どうやって釣ろうかなー?)
と、考えていると、谷と谷の隙間から影が現れる。
うっすら見えていた影がこちらに向かってくる。徐々にはっきりと見えてくる。
「マホ、あれなんだろ?」
「ん?ちょ、ちょっと!!」
「え?」
「あ、あ、あれはやばいわよ聖一!!!城級モンスターのキングドラゴン!!」
「ま…まじか…」
気を抜いていた訳ではなかったが、いきなり現れた強敵に二人は体がこわばる。
赤黒い鱗に覆われたその存在は西洋神話の世界から飛び出たような存在感を出している。
(と、とんでもないオーラだ。)
姿はまさに西洋ファンタジーなドラゴンである。
キングドラゴンは翼を広げ、二人に向かって飛んでくる。
(だいたい……高さと翼を広げた横幅は、60m×60m以上はあるか。……いや、縦も横も20階建てのタワマンくらい大きい!!)
城級モンスター、キングドラゴン。
黒と赤の鱗に包まれたボディ。
その姿はまさに、空を飛ぶ紅蓮の城である。
「聖一!ギルドでの、モンスター手配書で見た限りでは、アイツは本当にヤバイわよ!!」
「…う、うん…」
聖一は、あまりのオーラに息を飲む。
(…こ…怖い)
「空中を舞い、炎のブレスを吐き、爪は飛ぶ斬撃を生む!!!気をつけなさい!!!」
「OK……やってやる。まかせろっ!!!!」
(怖いけど、俺は災厄を払うんだ。そう。…やるしかないんだ!!!)
「フィジカル!スピード!タフネス!」
「ありがとうマホ。」
支援魔法をかけてもらう聖一。その瞬間鼻息をスゥーと吸い込むキングドラゴン。
刹那の静寂のあとに、轟音と共に炎を口から吐くキングドラゴン。
「ギィャオオ!!!!」
「力場!」
盾のように力場を使い凄まじい炎をなんとか凌ぐ。
「私が隙を作るわ!!ライトニィ…ふんぐー!」
マホの口を押さえる聖一。
「な、なにすんのよ!」
「待ってくれマホ。合図をしたらライトニングを頼む!」
「合図ね。わかったわ!!」
「頼んだ!!俺は肉迫する!!りきばぁー!!!」
力場で足場を作り空中を登っていく。
「ギェイ!」
まもなくキングドラゴンに手が届くか?と、いうところでキングドラゴンの左前足の爪から放たれた斬撃を腹に受ける聖一。
「グッ…かはっ!」
聖一はあまりの衝撃と切れ味に意識を失う。
ヘソから左側がスパっと切れて血が溢れている。
撃墜された鳥のように、渓谷の谷底に向かってヒュー!と、落ちていく聖一。
落ちる聖一のお腹から血が流れ出ている。
マホは思わず声をあげる
「せ、聖一ぃぃぃ!!!!」
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