Episode.7 ラヴァーズ・スレイブ②
例の事件から一週間が経ち、ようやくサベーラが登校してきた。
実に一週間もの間来なかったので、来た時には概ね歓迎ムードで出迎えられた。
しかし唯一リームだけは、サベーラが近くを通る度にビクビクしていた。今の所何のアクションも起こしていないが。
そういった状況が何日か続いたある日の事であった。
「じゃあサベーラさんに結婚迫られたって事?」
やっぱりせめてノアには知っておいて貰おうと、リームは一週間前の顛末、そして自分がある対策を施している事を話した。
「でもまあ、理解できるなあって思う」
その意外な返答に、リームは言葉を失った。
「それってどういう事だ?」
「だってあなた、あんなに嫌われてたあいつをブチのめして、それがこんな美少女なんでしょ、そりゃ人気出るって。巷じゃ『最強の美少女』としてファンクラブができてるぐらいだもん」
自分が周りからそんな風に見られていたとは、リームは初耳だった。しかし、仮にそうだとしても、あいつのアレは些か過剰じゃないかと思うのだった。
「そういえばさ、この前の女性の誘拐事件あったじゃん、あの犯人捕まってないんだって」
ノアが語った。
この前の強盗といい、近頃物騒な感じがする。何かが、裏で蠢いているのではないかとリームは感じていた。
サベーラは授業中でもついついリームを目で追ってしまう様になっていた。
ふふ……。好きだ好きだ好きだ! そのたった一つの感情がサベーラを熱くした。
そもそもなぜここまで自分はリームに好意を持っているのか。その時は考えてもわからなかったので、放課後委員会の仕事が終わった後で、教室で一人思案した。
まず最初に、バド・ジェクトブルと自分がずっと仲が悪かった事は確かである。そもそもジェクトブル家とジーヌ家は王位を奪い合う敵同士、仲がいいワケがなかった。彼には幼少期からずっとイジメられて、泣かされてきた。
だから剣術を磨いて強くなろうとした。自分の為にも、そして兄上の為にも。その自分の負の象徴だったあいつを、彼女、リーム・ガイアグルは叩きのめした。
そうか。自分は、嬉しかったんだ。彼女があいつの鼻っ柱をへし折った事が。
それを理解したサベーラは、もっと彼女の事を知りたいと思った。そもそも女の子なのに口調が男らしいのはなぜなのか。なぜあんなに強いのか。知りたい事は山程あった。
いきなり
いつの間にか陽が落ち、夜になっていた。明日から始めようとサベーラは決意を新たにし、自分の寮に帰ろうと荷物をまとめ始めた。
それからさらに数時間後。夜になるまでスイーツ巡りに勤しんでいたリームとノアもまた家路を急いでいた。すると、リームのスマージフォンにある通知が届いた。
リームはそれを見ると、驚愕の表情を見せた。
「ノア」
急ぐノアをリームが呼び止める。
「悪いけど先帰っててくれ。用事ができた」
「こんな夜遅くに、寮に帰る以外の用事があるっていうの?」
ノアが足踏みしながら早口で聞いた。
「ああ、今行かないといけない」
「わかった。なるべく早くね」
「ああ」
リームは軽く頷くと、そそくさと暗闇の中に消えていった。
時間を戻そう。ここにも家路を急ぐ女子生徒の姿があった。「究極の女性」サベーラ・ジーヌである。
彼女は、その最中、路地裏で何かを探している男性を見つけ、気になって声をかけた。
暗闇で男性の姿はよく見えない。
「もしもし何かお探しですか?」
「酔っ払ってメガネを落としてしまって」
「それは大変。一緒に探します」
「いえいえ悪いですし、そもそも探す必要はありませんよ。」
「え?」
次の瞬間、サベーラの背後に誰か立ったかと思うと、後ろからガバッと覆いかぶさり、口元をハンカチで覆う。
咄嗟に持っていた刀で応戦しようとするが、それも叶わず、何が起こったかわからないまま、サベーラの意識は遠のいていった。
サベーラは、別の路地裏で目を覚ました。しかし、縄で手足を拘束され、身動きが取れなかった。
サベーラはだんだんと状況を理解してきた。
声からして、犯人は三人組の男である。おそらくだが彼らは例の女性を誘拐した者達、あるいはその模倣犯だろう。サベーラは自分の煙魔法で逃げようとしたが、ムダだった。
「ムダさ。今お前を拘束している縄は魔法の使用を阻害する。お前は逃げ出す事も、助けを呼ぶ事もできない」
淡々と話す男、その目は不気味に光っている。
「オイ兄貴! 前の女みたいにそろそろ味合わせてくれよォ!」
どうやら部下らしい男達が口々に言った。
味合わせる? それって……!
サベーラはゾッとした。
「まあ待て。よく見たらコイツジーヌ家のお姫様じゃねェか。何かの交渉材料に使えるかもな」
「いやもうおれ達我慢できねェよ! 交渉とかはこの後でもいいだろ!?」
「しょうがねェなァ……少しだけだぞ?」
ボスに許可を得た部下達は我先にとサベーラに向かってきた。
「あっ……」
声が出ない。そうか、リーム、キミは私からこんな目に遭ったのか。そりゃ怖いよな……。皮肉なものだ。自分が逆に襲われる事になろうとは。
「ハハハ……」
サベーラは全てを諦め、乾いた笑いが出た。
その時である。
「創造炎魔法! 『地獄焼き』!」
暗闇に炎が光る。部下二人はその炎に吹き飛ばされた。
「何なんだ! 一体!」
ボスが叫ぶ。
炎に照らされる銀髪のふわふわのロングヘア、リームだった。
「ギリギリ間に合ったか?」
リームはサベーラのタオルを外し、縄をハサミで切って解放した。
「何でここが……」
サベーラが恐る恐る聞く。
「スマージフォンの機能さ。特定の人が今どこにいるのかを確認できて、何かおかしな動きがあれば通知で教えてくれる。本当はキミに襲われた時に備えてのものだったんだけど、まさかこんな形で功を奏するとは思わなかった」
「よくもやってくれたな……。一体どう言い訳すればいい」
ボスは怒り心頭だった。
「サベーラ、これキミの刀だろ」
リームは刀をサベーラに投げ渡す。
「あっ。ありがとう。さて……」
サベーラはボスをギロリと睨んだ。
「冷静になって考えてみたら……、お前らに渡す純潔なんてないんだ。一瞬でも諦めた自分が恥ずかしい。でも、私はお前達と同じだ。こんな私に、お前達を罵る資格なんてない。傷つけられた人達の思いを背負う資格もない。だから……裁きはお上に任せよう。抵抗するのなら……ここで叩き切る!」
「ナメるなよ……? ここで失敗したらおれの人生終わりじゃねェかよ……。今度は二人まとめて奴隷堕ちだ!」
ボスがこちらに向かってきた。
———煙魔法。
「『燻製斬り』!」
サベーラの美しい太刀筋は、見事に急所を捉え、ボスを一撃で仕留めた。ボスは昏倒し、そのまま倒れ込んだ。こうして路地裏の戦いは終わったのであった。
「魔法の使用を阻害する縄か……」
リームはどこか引っかかっていた。
「あいつの鍵魔法も、似た様な効果だったな。これがただの偶然か? それにコイツの言動……、まるでバックに誰かいる様な……。そんな口振りだった」
リームが一人思考を巡らせていると、サベーラが謝ってきた。
「ごめんなさい。私、キミにヒドい事をして、自分の事しか考えてなくて……」
「気にするなよ」
リームは優しく声をかける。
「さっきの太刀筋、シビれたぜ」
それを聞いたサーベラは、堰を切った様に、大きな声で、まるで子供の様に、泣いた。
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