Episode.7 ラヴァーズ・スレイブ①
リーム達のクラスの学級委員長、「サベーラ・ジーヌ」はまさに学園全体の憧れであった。
「とにかくすごいの! サベーラさんって! 一つ結びにした流れる様な黒髪、他者を寄せつけない凛とした佇まい! 魔法と剣を組み合わせた戦い方! そして「五王家」が一つ「ジーヌ家」出身という家柄! 学内にファンクラブもあって、まさに『究極の女性』って言われてるんだから!
休み時間の学食、ノアはリームに興奮しながら語った。スイーツとファッションの事以外でノアがここまで興奮するのを、リームは今まで見た事がなかった。
「でもどうして彼女の事を聞いたの?」
至極当然の質問である。リームは、
「おれも彼女には興味があるんだよ」
と言った。明らかに人に興味がなさそうな彼女がここまで興味を示すとは。ノアは意外に思った。
「正確には彼女の固有魔法かな」
「魔法!?」
やっぱりそうかとノアは肩を落とした。
「昨日の『魔法実技』で見たんだけど、彼女の『煙魔法』は高速移動、空間跳躍、目眩しと用途が広い。できれば採りたいと思ってるんだ。でもやっぱり人気者なんだな」
やっぱり魔法バカだとノアは呆れた。
「でもそれをいうならあなただって……」
ノアが言いかけたその時、リームはスマージフォンを取り出す。
「ホラ、見てみろよ。学校周辺で女性が誘拐されたって学校の方からメールが来た。恐ろしいな。学校としては集団下校を推奨するらしい。いい心がけだ。おれも最近視線を感じるし、何か関係あるのかな」
ともかく「スマージフォン」がこういう所で役に立った事に、リームは嬉しくなり、お昼のカレーを食べ始めた。
その時である。
「少しいいか?」
リームに声をかけたのは件の「究極の女性」、「サベーラ・ジーヌ」だった。
「用ならちょっと待っててくれよ。今お昼食べてるんだからさ。食べ終わるまで待っててくれ」
サベーラはそのまま律儀に食べ終わるのを待ち、食べ終わった事を確認すると、リームの腕を掴んで連行していった。
二人は誰も使っていない多目的教室を訪れた。
「で、目的は何なんだ?」
リームが聞くと、サベーラはそれを無視して何やら語り始めた。
「ジェクトブル家の第一王子が地方貴族と決闘するという話を聞いた。私は学級委員の仕事が忙しくて行けなかったが、人伝に何と地方貴族が勝ったという話を聞いたんだ」
まったく人の話を聞かないなとリームは呆れながらも聞いていた。
「あのバカに勝った人物とは何なのか、どれ程強いのか、しかも私のファンまでそっちに流れていった者がいたというではないか。私は俄然その人物に興味が湧き、ずっとその人物を見ていた」
雲行きが怪しくなったと感じ取ったリームは逃げようとしたが、サベーラはその腕をものすごいスピードで掴み、拘束した。
「だからな、リーム……」
どんな事を言うのか、リームは息を呑んだ。
「この私と……結婚してくれェ!」
サベーラは拘束していた腕を離すと、瞬時に2m程ジャンプし、リームに飛びかかった。
「ぎゃあ〜〜〜! やめろォ!」
リームは瞬時に全方位バリアを張り、その突撃を防いだ。
「ムダだぞリーム。『煙』はな、隙間からも入ってくるんだ!」
慌ててリームはバリアを解除し、次の攻撃に備える。
「好きだぞ♡リーム! 五王家の王子を倒す『強さ』とこうやって私に抵抗する『心』とそして何より『容姿』! 小動物かよ! かわいすぎだよ!」
リームは少なくとも休み時間が終わるまで攻撃を防がなければならなかった。学園の休み時間は長い。あと30分といった所か。
それならとリームは多目的教室から出る。そして、以前創った「創造鍵魔法」で念の為ドアに鍵をかけた。
「この魔法は『鍵を開けなければ通れない』という『概念』! 『煙』でも通れないハズだ!」
しかしその努力も虚しく、ヤツはリームの目の前に現れた。
「まったくキミはおっちょこちょいさんだな♡ 別にドアから出なくても隙間さえあれば私はどこへでも入れるし、どこからでも出れるんだ♡ さあ、この私と……結婚しろォ!」
用途が広いどころじゃないとリームは思った。チートだ、あの魔法。
そしてサーベラは煙で自身とリームを包み込む。
「これは外部からこちらを見えなくする魔法で、声も外部には聞こえない。ようやく、二人きりになれたな♡」
まさに絶体絶命であった。しかし、リームはある事に気づく。
「食らえ! 『創造風魔法』!」
周囲に風を吹かせ、煙を吹き飛ばした。
「やっぱり思った通りだ! 『煙』なら『風』に弱い! それに第一な……」
リームはこの際なのではっきり言おうと考えた。
「おれは! そうやってむりやり強要されるのがイヤなんだよ! どっかに行ってくれ!」
サベーラは大いにショックを受け、そのまま気絶してしまった。
その後サベーラはしばらく学校を休み、学園内では憶測が飛び交っていたが、その全てを知るリームは、ノアにすら口を閉ざしていた。
こうして何とか危機を免れたリームであったが、この事件はまだ終わりではなかったのであった。
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