EP.8

……なんか冷めたな〜。

 いや、知らなかったボクが悪いんだけどさ。



「……つまり、ボクからみたら君はもう用済みって事でいいんだよね」


「……用……まあそう……だな」


 ……だよねぇ。

 心が読めればなぁ。氷使って読めない?無理か。



「……ならいいや。君も殺して帰ろうと思ったけどそれじゃ約束した意味が無いし」


「……本当に生かしてくれるのか?」


 そんなこと言われても……。


「はいとしか言えないけど……」


「……けど?」


「……君が反省したとは思えないからなぁ」


 うそである。少し話し方が落ち着いてるしなんというか、眼差しが真剣というか……。とりあえず、今の彼は信用に値する目をしている。

 もっともこれを当てにしてはいけない。所詮ボクの勘だし。


「……君たちってさ、邪神を信仰してるんでしょ?」


「……あぁ、周りにはそう言われているな」


 ……周りには……?……あ、そっか、この人たちからしたら邪神では無いんだもんね。


「なんで邪神なんかを信仰してるの?」


「邪神は我々のような何かを失い他の神に祈れなくなった者たちを救ってくださるのだ」


 ……ふぅむ?


「何かを失い……とは?」


「大半が神に祈る為に必要な物だ。例えば感情とか記憶とか……」


 感情?どういう……


「あぁ、別に喜怒哀楽の感情では無いぞ?大半の神は"我々には認知出来ない情"を食物にしているのだ。これを失うと無気力になったりする」


 おいおいさらにわかんね〜ぞ

 いわゆる四次元とかそういう話……あ、いや、違うな。もしかしてだけど脳細胞とかそういう世界かも。


「……む〜……よくわかんないな。つまり、君たちはその情を食い尽くされ路頭に困っているところに邪神が現れて情を与えてくれた……と?」


「要約するとそんな感じだな。目の前には現れていないが……」


「それを受け取ってから何かおかしな事はあった?」


 なんかすごい診察みたいだけど……単純に気になるから聞いちゃう。


「……おかしな……痛みは感じにくくなった気がするな。それと力が強くなった感覚というか……」


 ……ビンゴでは?

 厳密に言えば脳細胞ではなくホルモンのアドレナリンかノルアドレナリンあたりだ。ってかそもそもこいつらは副腎だし。脳細胞な訳が無い。

 で、あいつは「喜怒哀楽では無い」って言っていたから全て失った訳じゃないはずなんだ。そもそもノル、アドレナリンを全て失ってしまったら脈拍や血圧をコントロール出来なくなって死んでしまうはずだし……。


 ……っていうか、"失う"ではなく"分泌できなくなる"が正解?まだ流石に分からないな……。


「……分かった、いろいろと。ありがとうね」


 こいつの話を真に受けるなら……邪神ではなく神が悪者って事になるけど、それだと違和感が生まれるよね。

 

 -もし邪神が善良なら、なぜ邪神の降臨に生贄が必要なのか?-


 ボクの結論は【降臨自体には生贄なんて必要が無い】だ


 その結論に至った経緯として、周りの反応にある。

 まず、この部屋の6~7割は気が狂っていない。それどころかボスに怒りを覚えボクのことなんか忘れて必死に身体を動かそうと抵抗しているやつまでいる。

 つまり、彼らは恐怖を感じづらい。ボクが思うにそれは、【通常時ですらアドレナリン系統が少し多めに分泌されている】のだと思う。特に怒りで暴走しているやつ、元の世界の人間の火事場の馬鹿力を2倍にした程の力を基準にしても異常な程の力が出てる。今なら右腕1本でくまに勝てるんじゃない?君。

 話を戻すけど、気が狂っていない人が居たのは恐らくそういう事じゃないかな。もしかしたら目の前のこいつもそうかもしれない。

 狂ってない人は別の物を奪われ、救われた……。

 で、生贄が必要な理由だけど……人のアドレナリン分泌量を上げるには他の人のアドレナリン分泌量を奪う必要があるんじゃないかなと……。

 これは例だけど、Aさんから100(すべて)の分泌量を奪い、Bさんの分泌量にAさんから奪った50を与えて150にする

 みたいな……。

 まだ仮説の域を出ないし、そもそも7、8割方間違ってると思うけどね……。今のところはこれ以上予想できないかも。


 ……で、あいつだけど……


「……君は色々教えてくれたし解放してあげる。他は殺すけどね」


「な……いいのか?また似たようなことをやらかすかもしれんぞ」


「……もう既に信仰対象を変えてるんでしょ?ボクを信仰するのは勝手だけど、人に迷惑はかけないでね。」


「ッ……はは、バレてた…………なんで分かったんでしょうか」


「途中から少し声色が変わっていた。それと態度もね。」

ま、それだけじゃないんだけど……


「……多分、他にもあるんでしょう?」


 わー!バレてるー!!!!


「ぬぅ……いやその……ボクは天使みたいなもんだからさ……自分の信者が誰か分かるみたいな感覚があってさ……」


 言葉にしづらいよ〜もうこれ〜!!!

 久しぶりに頭を使ったからもう回ってないって。頭。

 元の世界だったらわかりやすい例え出来るんだけどな、あれだよ、罪ったーとかイムスタとかのフォロワー欄。あれあれ。


「大体わかりました。そりゃ分かりますね……」


 なんでわかるんだよ!!!!!!!!


「……なんか君と居たら気が狂いそうだ。ボクは生贄全員連れてどっか行くよ。君は3時間したら動けるようになるから。他のやつは5時間後に死ぬ。これでいいね」


 我ながらひで〜こと言ってるな〜。


「……3時間もこんな所で……キツ…………いや、分かりました。ありがとうございます」


 本音漏れてるね〜!でもわかる。3時間ずっと罵倒されたり殺意を感じたりするんでしょ。キツいがすぎる。


 「まぁ……なんというか……頑張ってね」



 

 ボクはそんなことを思いながらも、彼に無責任な言葉を投げかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る