EP.6 -G

あれから20時間が経過した。


 小規模の組織らしく生贄にはまだあと2人足りていないようだ。一先ずは安心。


 すでに主要人物にも目星を付けているし、なにかの用事で外に出た組織の人間は1人残らず殺した。

 つまり、私はもう行動できる。


 ……そっか……。

 ……殺したんだ。

 私は、人を殺したんだ……。


 確かに殺しやすかった。意図せず虫を潰した時や美味くも不味くもない肉を貪った時、そんな少し残念だとも思えるような感情に近かった。


 が、だからといって殺した事には変わりない。

 変わりないのだ。



 未だ人間のような思考は出来ている。

 しかし、バケモノのような性格になっているのは事実だろう。

 人間の殺害を躊躇わない。間違いなくサイコパスやバケモノそのものだ。


 私は……変わってしまったのだろう。



「……はぁ……やろう……」


 大きくため息を吐き、自身を鼓舞する。

 容易に環境へ適応出来る人間という魂を持つ私は多分、こんな状況もいずれ慣れてしまうのだろう……。

 

氷壁アイス・ウォール


 なんだ?という声に敵襲だと気付いた声が聴こえてくる。

 牢の方からは少しの叫び声……驚かしちゃったかな。


 とりあえず、氷の粒子が主要人物と捕まった人達に行かないように氷の壁を立てておいた。

 正直、今更バレてもどうでもいいんだ。


死の氷晶エイジ・クリスタル


 いくら待っても出てこない敵、ただひたすらに冷やされる身体、部屋……。時期にこっちに走ってくるだろうけど……


 残念ながら、この氷は大体10秒足らずで充満する。

 どちらにせよ、こっちに走ってくる時点で私の氷は身体の中だろうけど。


 その氷は自身を死へと誘う粒子だということに気が付いた頃には、既に彼らの命は私が握っている。


「……残念だよ。本当にね……」

 

  誰が聞いているとも分からない言葉独り言を、ため息の代わりに漏らした。

 

 これは後々分かったことだけど、少し大きい程度の家に認識阻害の結界が貼ってあったみたい。

 この家は地下含め三階、二階建てで地下室がある感じだった。



 

 ……さて、充満したみたいだ。

 ここで魔力を暴走させるだけで、彼らは死に至る……。


 私の手に、彼らの命が……。


 ……私は殺る側なんだ。

 多分、その気になればこの世界の全生物を殺すこともできる。

 もはや神の領域だ。


 ……力の使い方を間違えないようにしなきゃ。

 封印する力を決めないと……だめ……。




 ──────────彼らの顔を見て、殺そう。


 突然頭に浮かんだ。

 人間が思いつきで猫を殺すような、そんな思いつきだった。


「……あは」



 私の何かが、ここで壊れたようだ。


  


 [side:邪教徒]

 

 コツコツと、足音が鳴り響く。

 その足音は、ただひたすらに脳内に刻まれていく。

 無駄な情報なんて何も無い。その音が自分の標的であり、自分の死を意味するかもしれぬ音なのだ。


 コツ……コツ……

 

 門番は多分死んだ。なんの声もしない。

 断末魔すら聞こえなかったのは少し妙だが。

 突然氷壁が出てきた時は驚いた。ボスを塞ぐように出てきたのだ。あんな精密な氷壁はここに滞在している者でなければ出来ないことだと思う。


 コツ…………コツ…………

 

 しかし、ここに居る我らは全員契約魔法により主に仇なす、もしくはそれに準ずる行動は出来なくなっている。つまり、主であるボスに悪意を持って魔法を撃ってしまうと死んでしまうのだ。


 コツ………………コツ………………


 ……凄まじい力を感じる。

 力の圧で死を感じるほどだ。

 そのせいか、段々と時間が遅くなっているような感覚すらしてくる。

 もはや氷壁による寒さすらも感じぬのだ。

 それに……身体が……動かし辛い…………?

 

 ……あ……たって……いられない…………。



「今から死にゆく者達の顔を見に来たよ」


 

 こえがする。あまりに物騒なセリフだ。

 なんとか顔を上げ姿を見る。

 まだ顔立ちは幼く、低身長でいかにもなガキだ。

 こいつなら生贄として十二分無いだろう。


 しかし、異質だ。

 光輪のようなものは黒く濁っており、恐らく邪魔なのであろう、ランダムに動いている翼は片翼であるのだ。


「まさ……か……」


 堕天使──────────それが頭に浮かんだ瞬間、私は苦しみに耐えきれず魂を手放してしまった。



「……死人の顔って、面白くないな」





 [side:アヴァルティル]


「……死人の顔って、面白くないな」


 無意識に出た言葉だった。

 絶望ではなく、理解出来ていないという顔だった。

 しかし、死んだ仲間を見た彼らの顔はとてつもなく醜い。

 まだ生きたいと思っているであろう顔には反吐が出る。


 ああ、イライラする。

 

「君たちは……本当にそんな顔してもいい立場なの?」


 脳まで運んだ氷の魔力を増幅させる。

 力、密度、大きさを増幅された魔力はその窮屈さに耐えきれず相当な負荷を持ち……


 ─────爆発した。





【あとがき】

 

 今回嫌な表現をしてしまいましたが (邪教徒視点へ移る少し前) 物語の進行上必要な物でした。

 嫌な気持ちになったり気分が悪くなったりしてしまった方、申し訳ございません。アヴァルティルにはあと数十話分 (三十話は超えないはず……) は残虐な思考をしてもらう予定なので、とくにこの作品を見て気分が悪くなってしまった方は直ちにブラウザバックをお願いします。


 今回のような一部の方からするとかなり嫌な表現があるであろう話には【-G】を付けています。



次回更新は1週間後(25日)です。よろしくお願いします。

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