第5話 昼2 学生祭の下調べ1
赤レンガと石畳が敷き詰められ、綺麗に舗装された街並みを歩く若い男女。
背丈は男の方が女よりも頭一つ分大きい。
二人が歩く大通りの道路には、貴族や商人を乗せた馬車や商品を積んだ馬車が行き交い、歩道には買い物客や仕事中の老若男女と様々な歩行者が行き交っている。
綺麗に舗装された歩道を歩く男連れの若い女性。
ベージュのワンピースを着た若いその女性が、細い首を少し傾け、綺麗な白い手でハーフアップの長い金髪を軽く掻きあげる。
さらさらとさざれ石からこぼれ流れる雫のように、真っ直ぐ整った金糸のような美しい金髪が空をたなびく。
甘くやさしい髪の香りが、女性の背後に振りこぼれていく。
乱れず落ち着きのある歩き仕草と、背筋の伸びたその姿勢からもその女性から気品を感じる。
上品なお嬢様口調のその女性が、横を歩く金髪の色男に言う。
「学生祭当日は、この<南東商学大通り>を歩行者専用にして封鎖してしまいますわ」
透き通った潤いのある声と薄いピンクの唇、その女性――マリエッタ・ロードネスは、横の色男には決して振り向かず、その青い瞳で前を見て歩き続ける。
麗しく高貴な雰囲気を漂わせるマリエッタが、会話を続ける。
「<学業区中央大通り>と<商業区中央大通り>の間、ここ<南東商学大通り>は、学生祭当日には垂れ幕や飾り物や置物で装飾されて、歩道には街のお店などが屋台を出してそれが立ち並びますわ」
それからも、黙って横を歩く色男に対して、青い瞳で真っ直ぐ先を見据えるマリエッタの一方向な会話が続けられた。
ただ歩いているだけで麗しいマリエッタは、自分の役目を確認するかのように、黙って横を歩く色男の顔を決して見ずに話し続ける。
マリエッタはここ<都市ロードネス>の副市長である。
普段は謁見などで忙しいロードネス領の領主兼市長でもある父ガラム・デ・ロードネスに変わり、街の行政の執務や行事の業務などを執り行っている。
そして今回、普段の仕事に加えて学生祭の管理者としても色々と実務、執務に追われて非常に忙しくなっている。
彼女はその忙しい合間を縫い、自ら下調べとして出歩いて学生祭当日の確認を行っている最中だった。
麗しいマリエッタが、黙ったまま歩く横の色男に対して会話を続ける。
「当日は音楽隊やダンスのパレードがこの大通りを行き交いますわ」
客を乗せた馬車や荷物を載せた荷馬車が行きかう四車線の広い道路、花屋や雑貨屋、パン屋やインテリア家具屋などが建ち並ぶ歩道、軽く視線で確認しつつそれらの店先を通り過ぎていく。
そんなパレードの開催予定エリアを二人は歩き続けた。
暫くすると、噴水が目印の広い公園が見えてきた。
麗しいマリエッタが漸く、隣のまぶしい色男に振り返った。
「目的地の<ロードネス噴水公園>ですわ。ここが<南東商学大通り>のパレードの出発点ですわ」
色男は白いブラウスにクリーム色のチョッキを着て、茶色の革靴にクリーム色のスラックスを履いている。
やれやれ、とその色男はため息を吐いて手を広げ、軽く首を振った。
その色男は金髪で少しクセのある髪質、顔は非常に丹精でスタイルはすらっとしていて、上品で服の着こなしも良い。
先ほどからマリエッタが気にしていることがあった。
目的地の噴水公園までの道すがら、そこにたどり着く間に、隣を歩く色男とすれ違う女性たちが、振り返ったり立ち止まったりして黄色い声を上げていくのだ。
女性たちが振り返る理由、隣のこの色男はそんなことも我関せず、涼しい笑顔でマリエッタに歩調を合わせてくれていた。
ただ黙っているだけでも女性の目に留まってしまうほどの美形であり、かっこよさも感じるすらりとしたスタイル。
気品のある歩き方と周囲に対するさりげない気遣い、何気なく微笑む笑顔など、その色男が周囲に振りまく存在感は並みのものではなかった。
その色男――ユリウス・ロップス・グレイシアが口を開く。
「少しだけ休ませてはもらえないだろうか。人前に出るのは慣れないので少々疲れてしまったよ」
そんな弱音を吐く色男のユリウスに、マリエッタが尖った厳しい口調で言った。
「たまには生身でわたくしとリア以外にも存在を認識されておかないと、ですわ」
やれやれ、と再び軽く両手を広げ首を振り、色男のユリウスが言う。
「十分ではないか。世間から隔離された天性の引き篭りがこの世で二人も目撃できているとは」
「もう妖怪の類ですわね」
二人はそのまま会話を続けつつ、公園に入った。
円形の噴水、段々に積み重なっている石材の円柱から水が流れている。
その噴水を囲むように円形の広場がある。
円形の広場にはところどころベンチが設置されている。
二人は木々が立ち並び、木陰になっていて涼むために丁度いい場所を見つけ、そこで腰を下ろして休むことにした。
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