第4話 昼1 廃教会の調査3

 レウ、イザベラ、マーリンの三人は昨日の廃教会の調査のことを話し始めた。


 サンダルを脱いで右足を左の太腿に乗せ、腕を組み、ソファーにふんぞり返るレウが口を開く。


「誰が建てたかも、建てられた年代も、何もかもがわからねぇが、あの教会はずっと昔からあるもんなんだそうだ」


 イザベラがメガネをクイッっと人差し指で押し上げてずれを直し、言った。


「教会を使用していたのは、内部の祭壇の痕跡から察しておそらく大陸西側の聖王教会でしょう。今でこそ大陸を東西に分断する<>を境界として、西側の聖王教会支配域と、我々が住む東側の王国支配域とで別れていますが、昔は支配域関係なく、聖王教会は大陸全土で活動をしていた。そのときに建てられて使用され、聖王教会と王国の支配域戦争を境に、王国支配域となったここロードネス領から撤退、放棄された……、というのが表向きの記録だね」


 レウがそれを聞いて、続ける。


「依頼の発端は数週間前、怪しい二人組みが棲家にしているのを見かけたという行商人の報告からだ。ここロードネス領の領主ガラム・デ・ロードネスのご令嬢であり、この都市ロードネスの副市長でもあるマリエッタ・ロードネスからの命令で、ロードネス警備兵が廃教会に立ち入り調査を開始。教会内で就寝していた怪しい二人組みを深夜見つけたが事情を聞く前にすぐに逃げられ、予想以上に逃走能力に長けていて追いつくことも痕跡をたどることも出来なかった」


 イザベラが顎に手を当てて頷き、続けた。


「怪しい二人組みの件は、現場の検証結果から犯罪の痕跡や盗品などは発見されておらず、害はないと判断され、それ以上の報告はされなかった。しかし、調査の途中、天井の一部が崩れ落ち倒壊の危険性がありと判断される。報告を受けたマリエッタ様は解体を決断し、廃教会の解体を業者へ依頼する」


 レウがそれを聞いて口を開く。


「依頼された解体業者は、まずは天井から崩れ落ちた内部の瓦礫や割れたステンドグラス、木片になったベンチの撤去を開始し、あらかた片づけ終える。それから内部のベンチや装飾品を運び出し、建物の解体を開始したときに、あの廃教会の異質さに気づく。それは、機械、道具を使い、いくら破壊しようとしても破壊できず、天井、列柱、壁、ステンドグラスには傷すらつけることが出来なかったからだ」


 そのレウの話を聞き、異質さ、という言葉に反応し、今まで黙っていたマーリンが静かに言った。


「……それで、脅威があるかもしれないということで、わたしたちに調査の依頼が来た。わたしたちが今回調べた結果、建物自体に魔法のような力が働いている。魔法というより、プロテクション……」


 レウが頷き、続けた。


「この都市ロードネス在住で一番ランクが高く、実績もあり信頼もあるゴールドランク冒険者の俺たちに依頼されたわけだ。あれは魔法のようで魔法じゃねぇ。ってやつの力だ」


 神妙な面持ちで、イザベラが続ける。


「もっと詳しく説明できるけど公表はできないね。一応報告書は出したけど、マリエッタ様がどうするのかね……」


 少し間をおいて、レウが言う。


「知ってのとおり、この世界<>の根幹部分は聖王教会も王国も禁忌としての扱いだ。大げさだが、知ってしまったことを知られただけで、王国からも聖王教会からも命を狙われることだろうよ」


 レウはそういうと笑みを浮かべ、手のひらを返した。


「まぁ、俺たちからしてみれば聖王教会も王国もそんな事情知ったこっちゃねぇしクソくらえだ。世界の根幹だとかとことん興味ねぇ。この世界の面倒くせぇ事情にも巻き込まれたくねぇ。それが王国領のギルドにもいかず出世もせず、ここロードネスでぬくぬく楽しんでる理由でもあるわけだが」


 それを聞き、他の二人も静かに頷いた。


 イザベラが黒い指貫グローブをはめた右人差し指でメガネをクイッと上げ、メガネを光らせ、言った。


……、あの教会はこの世界によってされている建物で間違いないだろうね」


 マーリンがそれを聞き、続けた。


「……破壊は絶対出来ない。あの教会はイベント管理されて徐々に朽ちていく。今はその流れの中……」


 レウがそれに続く。


「ならその流れのままにしといてやればいいじゃねぇか。どうせ人間でも魔物でも極悪人でも聖人でも王様でも邪神も神様ですら絶対に破壊はできねぇんだからな」


 頷いたイザベラが腕を組み、言った。


「それにしても、こんな近くにあんなものがあったとは意外だった。あの教会がオブジェクトパーツなら誰が建てたかも使用目的もわからないはずだ」


 頷いて一人で納得するイザベラ。


 そんな三人のテーブルに注文した料理が運ばれ始めた。

 運んできたウエイトレスはリアではなかったが、三人はすっかり彼女の件を忘れている。


 レウがテーブルの上に置かれいく料理を目配せしつつ、口を開いた。


 「まぁ、教会にいた怪しい二人組みの件はアイアンのルーキーが昨日片付けたみてぇだし、今回の依頼はこれで終了だ」


 いただきます、と手を合わせてナイフとフォークをつかみ、鉄板の熱でジュージューと焼かれる香ばしいニンニク醤油の匂いがそそる鶏胸チキンにナイフをいれるレウ。


 黒い指貫グローブをはめたイザベラは、丼ぶりを左手に持ち、右手に箸を持つ。


 魔法使いのマーリンは鮭茶漬けを静かに食べ続ける。


 三人はいつものように仲良く『隣のメシヤ亭』での食事を楽しむのであった。

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