第2話 昼1 廃教会の調査1

 昼過ぎ、クエストを受注してあらかた出払った為、閑散として人が少なくなった冒険者ギルド。


 そこで待ち合わせをしていた三人組がいた。


「あぁぁぁん?」


 その男はゴムのサンダル、シャツとズボンだけの、防具もなにも装備らしき物は着けていない。

 猫背で目つきの悪い不健康な顔色の、チンピラのような黒髪の男――レウ・ルックス。


 テーブルに右肘をついて頬杖をつき、トントントントン……と左指で叩く彼が、目の前に立っている女性二人に向かって、機嫌悪そうな唸るため息を漏らしつつ高圧的な眼光でガンをたれる。


「いやー、おまたせ」


 そんなレウの態度は気にもせず、明るくそう声を掛ける女。


 薄めの生地のはだけたジャケットとパンツスーツを着用し、指貫グローブをつけている。

 赤く長い髪を後ろで束ね、メガネをかけたその女――イザベラ・ドーチン。

 後頭部に右手を当て、いらいらしてそうな目の前の男の態度には気にも留めず、彼女は軽くさばさばと明るくハスキーな声で挨拶をして、へらへらしている。


「……こん」


 今度は薄ねずみ色のローブを羽織った小さな少女が短くそう挨拶をした。

 彼女はイザベラの横にちょこんと立っている。


 背丈を大きく越える長い魔法の杖を持ち、薄ねずみ色のローブを羽織りフード被ったピンク髪の小柄の少女――マーリン。

 彼女は何食わぬ顔で涼しげに、そしてただ無表情に静かなまなざしを不機嫌そうなレウに向け、小さくて独特な挨拶をする。


 レウ、イザベラ、マーリンの彼ら三人は非常に仲が良く、一緒にパーティーを組んで冒険者をしている。


 ガラの悪いチンピラのような態度を常にしているレウは、とくに何の理由もなく悪態をついてしまうだけであり、いつもどおりの平常運転だ。

 彼は粗暴な態度や言動とは正反対の性格で、義理堅く優しく気遣いもでき教養もあり、仲間思いでもある。


 レウは息を深く吐いた後、気だるそうに口を開いた。


「……とりあえずメシ行こうぜメシ」


 猫背のレウが席を立ち、仲間の返事を待たずにズボンのポケットに手を突っ込んでだらだら歩きだす。

 ペッタンペッタン、とゴムサンダルを鳴らし、蟹股でズカズカと二人の横を通り過ぎる。


 イザベラ、マーリンの二人は振り返り、通り過ぎる彼の後ろについて行く。


 レウは入り口の扉の取っ手をポケットから出した右手でつかみ引き開けた。

 そして、三人は冒険者ギルドの建物から出て、すぐ隣の建物へと向かった。


 冒険者ギルドの隣にはギルド直営の飲食店が併設されている。

 店名は『隣のメシヤ亭』だ。


 この『隣のメシヤ亭』は冒険者ギルドのある場所ならだいたい併設されている。

 冒険者ギルドの直営店であり子会社である。

 社員は冒険者ギルドが雇った元冒険者などの事情のある者が多い。


 仲間を失ってトラウマを抱えて冒険者を引退した者、冒険者として活動していたが長年芽が出ず引退してしまった者、ただ疲れて冒険者を引退してしまった者など、事情はさまざまだが、そんな彼らの受け皿として冒険者ギルドは声をかけ、社員として迎え入れている。


 もちろん、冒険者以外も現地でパートや料理人を雇ったりもしている。


 冒険者ギルド直営の為、冒険者ギルドの加入者に対しての割引や、冒険者ルーキーの為の食事券配布なども行っている。


 冒険者ギルドの加入者を囲ってしまう為、地域の飲食店の顧客を奪って軋轢が生じないように、全店がメニューを共通し、地域の特産品や特産の料理をメニューに加えない等、対策をしている。


 『隣のメシヤ亭』はそんな独特な雰囲気の飲食店であり、何処にでもあるような平凡なお店であった。

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